入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’20年「冬」(67)

2021年01月25日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 週末から、雪は10センチどころか1センチすら降らなかった。もちろん、豪雪やそれによって起きる雪害など御免こうむるが、一昨日も呟いたように冬だから、たまにはここらでも雪ぐらいは降る。降ればいい。
 というようなことを思いながら雨の中、昨夜もいつもの散歩に出掛けた。家を出て、林を抜け、今は枯れ尽きた開田に上がり、さらにまた里山の中を走る道路を歩き、小さな集落へ下り最後は天竜川の土手を歩く。
 この田や畑の中を主に通る道路は、夜は特に車が少なく、湾曲しながら谷を二つ超えて、見晴らしの良い丘陵、そこも田や畑だが、に連れて行ってくれる。道路はまだ北へ延びているが、そこで左に折れ、いつも光の粒や点が煌めく夜景をじっくりと眺める。
 子供のころは、天竜川が削った両岸の狭い盆地が「伊那谷」のすべてだと思っていた。ところがある日、その一段上にはもっと広い段丘があることを知って大いに驚いた。すぐ背後にあると思っていた中央アルプス・西山の峰々がまだずっと奥に見え、急に知らない世界が広がった。火事があって、その煙に釣られてすぐ近くだと思って出掛けていった時の記憶である。
 そんなことを思い出しながら雨に煙る夜景を眺め、灯りが少なくなった山裾の辺りに経ヶ岳らしい薄墨色の闇を感じながら、つくづくここがわが故里なのだということを実感した。その時、咄嗟のことだったが、目の前の風景から幾枚もの心象風景が立て続けに現れ、時間が乱れ、まるで何か幻妙を目にしたような気がした。しかしそれらはまたすぐに消え、よく見通せない果樹園の中を緩やかな勾配の続く道が待っていた。
 あそこからの景色の中には、子供のころから馴染んだ風景はない。わが陋屋はさっき呟いたように天竜川に近接した低い場所だから、見下ろすよりか見上げるような眺めばかりだ。しかし少し歩けば、あんなふうに普段と違った高い位置から、夜とはいえ天竜川を俯瞰し、雪を被った西山を見ることができる。
 この散歩の余得と言えば良いのか、それとも成果と言えば良いのか、この頃はやたら思い出すことが多い。それには風景ばかりか音も手助けをしてくれて、昨夜は天竜川の土手を歩いていると、流れの音をかき消すように2両編成の列車が対岸を通過していった。天竜川の流れの音と並んであの音ほど、懐かしい音はないと思っている。灯りを皓々と点けながら、しかし乗客の姿は見えなかった。
 そんな列車の侘し気な後ろ姿を遠くに見送りながら、何故ともなく1年前の今ごろはまだHALが生きていて、一緒に同じ道を散歩したことを思い出していた。体力が衰え歩行が乱れたり、途中から帰りたがったこともあったが、あれからたった1年しか経っていないのかと思うと、犬と暮らした月日はもっとずっと遠いことのように思えてくる。小太郎、キクも同じようにだ。
 本日はこの辺で。
 
 
 
コメント
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