遠くに見えるのは上から2番目、下からだと、5番と6番の間のヘツリを省けば、8番目の丸太橋
午前5時半、室内気温3度、外気温マイナス4度。昨日は午後になって急に冷え込んできた。「出鼻を挫かれた」のではなく、どうやら天気予報は当たったようだ。
昨夜は一度も鹿の声を耳にしなかったし、あまりの夜の静けさに、雪が降っているのかと疑ったほどだが、そうではなかった。本格的な冬の到来を、森や林も息を殺したように物音を立てずに迎え入れたようだった。
それにしても、水道をこれほど長く使えたのは記憶になく、初めてのことだろう。冬が待っていてくれた、という言い方もできよう。
さて本日、牧を閉じて山を下る。大量のビンや缶は例年通り専門業者の所へ持ち込み、洗濯機の中の洗い損ねた衣類を含めその他も家の洗濯機やランドリーに頼ることになる。それでも、持ち帰らなければならない荷物は今年はいつになく多く、きょう一度だけでは済まず、また来なければならない。
どうも毎年、そういうことばかりが気になって、牧を、あるいは山を去る心境については充分に落ち着いて呟くことができなかった。
今年も、この一年を振り返ることは里へ下りてからになりそうだが、牧場に勤めてからこれで18年が過ぎたことになる。長くもあったし、短くもあった。(ここでまた3行ほど文字が消えた。字数と関係するのだろうか)。
入笠と言っても、それは単に入笠山というわけではなく、牧場を中心にした落葉松やコナシ、ダケカンバ、モミなどの森や林、テイ沢、南沢、東谷などの清冽な水が穿った渓谷、多くの名前を知らない草花や鳥などなど、ここで目に触れる自然のすべてである。もちろん、吸い込まれるような広く大きな空も、無窮を思わせる星の海も当然含まれ、忘れるわけにはいかない。
これらに対する思い入れは、誰にも負けないと自負してきた。その思いは今も変わらない。
しかし、単純に言えばそれほど相手に魅了されたからで、お慕い申し上げた相手と同じく、全身全霊を込めたくなるほどの存在であったのだ。言い方を変えれば、磁石に引かれる金属粉のようなもので、この思いは抗いようもなく強いが、とはいえ、受動的でもあるのだ。
入笠の自然という女王の強い磁力に引っ張られてひたすらかしずいてきた廷臣のつもりでも、果たしてよく務めることができたかはまだお言葉を頂戴していない。
本日はこの辺で。