道路の右は池の平で、積雪はまだこの程度
そういうわけで、上の積雪の状態に加え、体調も新たな不安となる中を30日、家を出たのは8時を少し過ぎていた。
ある程度の雪は覚悟して、荊口、芝平と進む。雪景色の美しい第1堰堤には珍しいことにテントが1幕張られていた。ただし、河原にまで車を乗り入れてはいなかったからそれなりの配慮はしていると観た。
先行する車が2台。その轍を追い「オオダオ(芝平峠)」まで上がり、さらにそのまま上に向かった。「池の平」、「焼き合わせ」を過ぎ、雪の量は増えてきたが、この辺りまで来て、余程のことがなければ牧場までは行けるだろうと安堵しつつ、同時にまたどこでその楽観が裏切られるかも知れなと用心した。
結局、一番の難関の「ド日蔭の大曲」は問題なく過ぎ、最も苦労したのは牧場に入ってからだった。特に「初の沢」の下段の大曲りから先は積雪量も増え、さらに入笠登山口へ向かう道と分岐する「弁天下」の三差路から小屋に至る雪道は雪道に慣れていない車のせいで予想以上に荒れていた。
小屋に着いたのは10時を回っていただろう。最悪の場合、途中から車を捨てて米、野菜、肉などの荷揚げも想定して山スキー一式と、スノーシューズを用意していたが幸いその必要はなかった。
いつもなら、ここで日当たりの良い管理棟の入り口で椅子を出し、ドロドロのウイスキーを飲むはずだったがその気にならない。やはり体調のせいだったかも知れない。
それよりか水源のことが気になり、現場に行ってみた。いつもより水量の細くなっているのが気になり除雪してから半切りのドラム缶の底に埋まっているバブルを全開し、ついでにただ何となくホースの先からほとばしる水を飲んでみた。
驚いた。その味は水と言うよりか全く別な代物だった。その冷たさ、甘さ、身体全体に広がる爽涼感、「独りだけのウイルダーネス」の著者はアラスカの水の美味さを高級ワインと比較していたが、そんな物とは比較にならない。あの人は本の中でアルコールを飲む場面を描いていないし、多分飲めないか、詳しくはなかったと思う。
真夏でも、熱いコーヒーは飲む。しかし、愛飲するビールは水分補給には役に立たないらしいからそれは問題外で省くと、牧場の仕事ばかりか、テイ沢や法華道、北原新道の整備などでも水を持っていくというようなことはしない。
そういう人間が、久しぶりに飲んだ入笠の水に感動し、ウイスキーばかりかビールにも手を出す気にならなかったというのだから、これをどう説明したらいいのだろう。(続く)
本日はこの辺で、明日は沈黙いたします。