今日は僕らの結婚記念日だった。忘れていた。妻が、夕食の時に、「ああそうだ、今日は結婚記念日なんだね、わたしたちの」と言って、初めてそうだったと気がついた。40数年が過ぎている。妻には悪いが、祝うような気持ちにはなれない。期待したであろう妻の座の、華やかな幸福を与えることはできなかったからだ。
ときどき、すまなく思うことがある。僕と結婚したばかりに、一生を僕と過ごして行かねばならなくなったからだ。他の選択肢をその時点でゼロにしてしまったからだ。他の人とだったらもう少しは愉快に華やかに暮らしていけたかもしれないのに、と思う。
僕は偉くもならなかったから、集う女子会での自慢の種を与えることも出来なかった。写真で見せ合うほどのハンサムでもなかった。かっこいいスポーツマンでもなかった。お金持ちでもなかった。愛し方も下手だった。月影の下で上手に愛を語るなどと言うロマンチックさも欠如していた。肩に手を置いてアイラブユーなんか言ったことはない。投げキッスもしなかった。贈り物もしなかった。腕を組んで、幸せを自慢して、歩いたこともなかった。
僕はあれこれの病気でずいぶん入院を繰り返したので、人一倍迷惑を掛けた。その上、蔑まれるような悪事もかずかず働いた。結婚によって妻を幸福にしたとは、とても考えられない。妻の大学時代の友人のパートナーは、大学教授や医者やお金持ちが多い。妻だってそのチャンスがあっただろう。そのチャンスは僕が摘み取ってしまったことになる。
「こんなのが結婚だったのか」とがっかりさせたことが、これまでにしばしばあったかもしれない。「僕と結婚してよかったね」などと言って、ケーキを食べて、祝う気持ちには到底なれない。
(暗いなあ、このブログ。新聞なんかで人様の金婚式の写真を見ると、みんなにこにこしておられるのになあ)