雨になっている。雨音が高い。気温も高め。着ているものを一枚脱いだ。第一回目のダム放水に行って来たところ。今夜は酒を飲まなかった。慎んだ。この頃食うこと飲むことにだらしない。自制がきかない。やっと止まった。
浮羽にやって来た。別府明礬温泉から延々と平道を辿った。3時間経っている。少し眠気を感じたところで、休憩を取る。道の駅で。洒落たレストランがある。肉ごぼう天うどんを注文した。これからここの名所、浮羽稲荷山に向かう。赤い鳥居が山まで駈け上がっている。稲荷神社にこのごろ憑かれたように参詣する。
「わたし咲きました」辛夷が言う。言う言う言う。花片の数だけ言う。小さな声で言う。聞こうとしないと聴き取れないので、聞くことに集中する。「わたし咲きました」たしかにそう言っている。もしかしたら、わたしだけに話し掛けて来てくれたのかもしれない。人様の家の庭先。もうこれ以上の接近は、咎められてしまう。春の日が、花片の数だけ降り注いでくる。青空が匂ってくるのか、春の日の薄紫の光が匂ってくるのか、真っ白い辛夷の雌蘂が匂ってくるのか。はっきりとはしない。angelが無数に降りて来て、遊んでいる。高い辛夷の木のまわり、遠く近く、長閑な春のすべてが、自由自在に楽しんでいることがよく分かる。