いちにち物いはず波音 種田山頭火
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今日はこの句を味わう。わずか10文字の。そこに広がる味わいの。
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舌に乗せると味わいが浸透する。じっとそうしているだけで、深く深まる。
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山頭火は旅に出ている。今夜は泊まるところがない。野宿だ。夕暮れても来た。
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静かになればなるほど波の音が高くなる。一日山の中を一人で歩いて来て、誰とも話をしていないのだ。
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海に近いところへ来ている。浜辺に波が打ち寄せているのが見える。寄せて返す。寄せて返す。
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こうなるのは予想が出来ていた。はずだ。それなのに、気が塞ぐ。もの悲しくなる。
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あれこれあれこれを考えてしまう。考えるたびに沈む。波音が強くなる。
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誰か此処へ来いと言いたくなる。誰も来ない。それならそれでいい。句を吟じるしかない。
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そのまま。そのままを句にする。
一日物いはず波音
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真夜中になった。眠ろうにも眠られない。波音だけが山頭火のお付き合いをしているようだ。