えらく不機嫌そうな女医のもとに
律義そうな礼儀正しい老婆が診察に訪れて、
いきなり「裸になってここに寝て!」と言われたことに立腹して
すて台詞を残して病院を出ていくシーンから始まる。
久しぶりのモノクロの映画、
どんなふうに展開するのだろうと期待を込めて見ていても
淡々と彼女の日常が描写されていくだけで退屈になってくる・・・
それでもしわいっぱいだがやけにチャーミングなおばあさんと
愛犬のしぐさや表情に
だんだんと惹かれていってしまう。
若い時はどんなにか美人だったことだろう。
その片鱗を追いながら、彼女の豊かな表情に魅了されてゆく。
愛犬も愛嬌がありかわいらしい。
そうして彼女も実にかわいらしいのだ。
古い古い屋敷の昔のガラスのゆがみが美しい。
そのガラスを通して眺める庭の風景とのぞき見る隣人たちの様子。
どうやら私の想像していたのぞき見するおばあさんとはちょっと違っていたと思いながら
勝手に「アメリのような」と想像してしまったことを後悔する。
観てゆくうちにこの老婆があんなだったらおかしいことに気づく・・・
若かったアメリが年を経たならどんなだろうか・・・
地味な風景と質素な暮らしぶりは一昔前の時代を思わせるが
中盤、少年が「バーチャン」と言うのを聞いて
おばあさんのことを「バーチャン」と呼んでいた過去の作品を思い起こした
これはポーランドの日常の光景なのだろう。
退屈な作品のようでいて、ちょっとコミカルで、結構シリアスでじわじわと奥が深い。
日々老いてゆく不安、息子への思いと希望が裏切られ、現実を知ってしまう彼女
深い失望、そうして自分でやりとげることを決意する。
最後まで自分らしく生きる気高さとしなやかさ。
犬と子どもたちの声、木立の葉ずれのざわめきが彼女をいろどる。
ゆれるブランコのさまざまな思い出と彼女の深いしわが交錯してゆく。
見終えて
こんなふうに生きて、こんなふうに死ねたらいいのにと思ってみたりする。
最後の風景で一面に咲くあの木の花はアカシアだろうか・・・
ちょっと色をつけてほしかったなあという思い
木漏れ日をカラーでしか想像できなくなってしまった
私の感性にがっかりしながら 席を立つ。
しわの中にしっかりと浮かぶ美しい目鼻立ちに
それはきれいな女優だったのだろうなあと想像しながら
彼女の今の充分な美しさもしっかりと感じていた。
実年齢も91歳という女優ダヌタ・チャフラルスカの素晴らしい演技に感動、そして拍手!