噛みつき評論 ブログ版

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原発稼働率低迷とマスコミの遺産

2010-07-19 10:00:51 | Weblog
 日本の原発稼働率は、08年で58.0%、09年は64.7%ですが、アメリカと韓国の稼働率は2000年代から90%以上、フランスやカナダも75%を超えているそうです。つまり日本の原発の3分の1以上は遊んでいて、その分は石油や石炭、天然ガスを燃やして埋め合わせているわけです。そのために発生するCO2は莫大な量であり、自然エネルギーや省エネなどで低減できるレベルとは比較になりません。

 また「稼働率が低ければ、目算の産出エネルギーが目減りするわけだし、運転技術が低くトラブル停止も多いと見られ、外部評価が低くなることもある。事実、昨年からのUAE、ベトナムでの海外商戦の敗因の1つに、この稼働率が影響したと見る関係者は多い」とされています(なぜ上がらない? 原発稼働率 WEDGE Infinity) 。

 同記事では、日本の稼働率が低い理由として、アメリカに比べて検査期間が長く、検査の周期が短いこと、そして地震や故障・事故によって停止したプラントが、点検の長期化及び地元了解が得られず、再起動できないことが挙げられていますが、さらに以下のように日本社会の特殊な事情にも触れています。

 「一般市民やメディアの原子力敬遠…といった日本独特の諸要素を解消していくことができなければ、今後着実な原子力推進は危ぶまれる。事実、いったん故障や事故で停止したプラントがなかなか再起動できないのは、地元を含む国民の原子力業界に対する不信が強いからだ。ある関係者は、「停止プラント再開のもっとも高いハードルは、“地元了解”」と言い切った。こうした社会認識と国や事業者へのプレッシャーが、“安全”のための合理性を妨げてきた理由であることは否めない」

 つまり、日本の原発稼働率が低迷してきたのは、原子力に対する日本社会の不合理な認識のためということです。不合理ということは科学的でないということあります。メディアは科学的な認識に基づかない、危険を煽る報道を続けて、原発に対する特異な認識を日本の社会に「確立」しました。

 一例を挙げると、新潟県中越沖地震の翌日、朝日新聞の朝刊第1面に「放射能含む水、海へ」の見出しが載り、次の日の1面にも「放射性物質 大気中へも」という見出し載りました。漏れた量は全く影響のない微量なのですが、いずれも記事を詳細に読まないとわかりません。社会はこの見出しに反応し、付近の宿の予約の7~9割がキャンセルされるなどの風評被害を生じました。影響のない微量であれば1面トップに載せる必要があるとは考えられず、原発の危険を誇張するという意図が感じられます。

 このようなメディアの反応、つまり針小棒大、あるいは理不尽な反応のために運転が出来なくなるのであれば、原発の関係者はまったく実害のない微小なトラブルは隠しておこうという誘惑に駆られることでしょう。

 原発事業者のデータ隠しや改ざんの発覚もあり、原発への不信感が高まったことがありました。隠す方も悪いのですが、理解能力のないまま誇張して恐怖を煽るメディアにも責任の一端があると思われます。

 諸外国に比べ日本の原発稼働率が低い理由のひとつに日本メディアの特殊性があるのではないでしょうか。十数年前、ダイオキシン問題が世の中を覆った時期がありましたが、当時、世界で発行されたダイオキシンに関する本の8割以上を日本が占めました(参考拙文 「環境問題を食いものにする人々」)。最近では、新型インフルエンザのとき、街にマスク姿があふれたのは日本だけでした。

 どうやら、恐怖を煽るという点において、日本のメディアはとりわけ優れているようです。メディアが恐怖を煽り、一部の出版業者がそれに乗じて恐怖本を売り、さらに恐怖を増幅するという構造があります。心配のあまり本を買わざるを得ない国民はたまったものではありません。これらの構造と日本の「主観的幸福度」が低いこととは無縁でないと思います。

 メディアは非科学的な報道を続け、原発の危険を煽ってきました。その積年の「遺産」が原発稼働率を引き下げ、CO2大量排出の大きな要因となっています。メディアがCO2の削減を主張しながら原発の危険を煽るのは、表で水をかけながら、裏で火をつけて回っているようなものです。