9月19日の朝日新聞は異彩を放っています。一面トップを飾るのは「ビキニ死の灰 地球規模」と題する米公文書を紹介する記事です。米気象局が中心になってまとめられたこの報告書は1984年に機密解除され、今年の3月には米エネルギー省のホームページに掲載されていたそうです。既に明らかになっていたものがなぜか突然一面を飾りました。
記事は、1954年3~5月にビキニ環礁で行われた水爆実験による放射性降下物の分布を示した地図を転載し、ビキニ環礁から東西に長い楕円状に降灰が広がり、日本や米国、アフリカ大陸など世界中に降灰があったとしています。高濃度の部分は赤道付近を中心に東西に広がっていて、米国南西部の降灰量は日本の5倍という記述もあると書かれています。日本は低濃度の地域となります。
当時に近海を航行して被爆した船舶は延べ千隻を超えるとも言われ、がんなどの健康被害を訴える元乗組員も多いが、日米両政府は55年に7億2千万円の補償金で政治決着し、第五福竜丸以外の被害実態の調査はその後調査されなかった、としています。
記事の表面的な意図は56年前の核実験による降灰の範囲が予想外に広く、被爆実態を調査してその対策を促すことにあるように見えます。
ところが降灰量は1平方フィートの粘着フィルム上で1分間に崩壊する原子の数(d/m/ft^2)で示され、生物への影響などに用いられるシーベルトなどの単位との関係は明らかにされていません。また航空機に搭乗したときの被爆線量、あるいは自然放射能に比べてどの程度のレベルなのかも、まったくわかりません。
もしこのような地球規模の降灰が心配されるなら、旧ソ連と中国の核実験の降灰の影響はより深刻なものとなることが考えられます。とくに中国は近距離である上、偏西風に乗って黄砂のように降り注いだ可能性があります。中国とソ連の実験に全く触れないのは理解に苦しみます。
1984年に機密解除された報告書を速報しても意味がありません。時間をかけてどの程度の影響があるものかを明らかにして、無視できないものであれば報道するのがまともなやり方です。このような記事を影響の程度もわからぬまま一面トップで報道すれば読者に無用の不安を与える可能性があります・・・反米感情の「促進」と共に。
この記事が科学に弱い人たちによって作られたことは容易に想像できますが、それにしてもこんな意味の不確かなものを一面トップ載せることには何らかの意図が感じられます。朝日は同盟国である米国の核実験を強く非難する一方、中国、ソ連の核実験はほぼ黙認するというダブルスタンダードを実践してきたことは周知の事実ですが、いまだにその体質を引きずっているのでしょうか。
今のところこのニュースを報道したのは朝日とVoice of Russia(日本版)だけのようです。ロシアのメディアが取り上げる理由はおわかりでしょう。こんなニュースを報道するメディアは他にはないだろうと思われます。朝日の亜流として定評ある毎日ですら恐らく取り上げないでしょう。
この記事は朝日新聞の政治的中立性と科学的理解力、そしてメディアとしての誠実さを強く疑わせます。朝日はいまだに旧態依然とした体質を大切に保存しているようです。
(ft^2は平方フィート)
記事は、1954年3~5月にビキニ環礁で行われた水爆実験による放射性降下物の分布を示した地図を転載し、ビキニ環礁から東西に長い楕円状に降灰が広がり、日本や米国、アフリカ大陸など世界中に降灰があったとしています。高濃度の部分は赤道付近を中心に東西に広がっていて、米国南西部の降灰量は日本の5倍という記述もあると書かれています。日本は低濃度の地域となります。
当時に近海を航行して被爆した船舶は延べ千隻を超えるとも言われ、がんなどの健康被害を訴える元乗組員も多いが、日米両政府は55年に7億2千万円の補償金で政治決着し、第五福竜丸以外の被害実態の調査はその後調査されなかった、としています。
記事の表面的な意図は56年前の核実験による降灰の範囲が予想外に広く、被爆実態を調査してその対策を促すことにあるように見えます。
ところが降灰量は1平方フィートの粘着フィルム上で1分間に崩壊する原子の数(d/m/ft^2)で示され、生物への影響などに用いられるシーベルトなどの単位との関係は明らかにされていません。また航空機に搭乗したときの被爆線量、あるいは自然放射能に比べてどの程度のレベルなのかも、まったくわかりません。
もしこのような地球規模の降灰が心配されるなら、旧ソ連と中国の核実験の降灰の影響はより深刻なものとなることが考えられます。とくに中国は近距離である上、偏西風に乗って黄砂のように降り注いだ可能性があります。中国とソ連の実験に全く触れないのは理解に苦しみます。
1984年に機密解除された報告書を速報しても意味がありません。時間をかけてどの程度の影響があるものかを明らかにして、無視できないものであれば報道するのがまともなやり方です。このような記事を影響の程度もわからぬまま一面トップで報道すれば読者に無用の不安を与える可能性があります・・・反米感情の「促進」と共に。
この記事が科学に弱い人たちによって作られたことは容易に想像できますが、それにしてもこんな意味の不確かなものを一面トップ載せることには何らかの意図が感じられます。朝日は同盟国である米国の核実験を強く非難する一方、中国、ソ連の核実験はほぼ黙認するというダブルスタンダードを実践してきたことは周知の事実ですが、いまだにその体質を引きずっているのでしょうか。
今のところこのニュースを報道したのは朝日とVoice of Russia(日本版)だけのようです。ロシアのメディアが取り上げる理由はおわかりでしょう。こんなニュースを報道するメディアは他にはないだろうと思われます。朝日の亜流として定評ある毎日ですら恐らく取り上げないでしょう。
この記事は朝日新聞の政治的中立性と科学的理解力、そしてメディアとしての誠実さを強く疑わせます。朝日はいまだに旧態依然とした体質を大切に保存しているようです。
(ft^2は平方フィート)