噛みつき評論 ブログ版

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電力会社の給料削減の根拠は?

2013-03-11 10:09:18 | マスメディア
 電力会社の給料が減らされるそうです。経産省の専門委員会は関電の給料を21%、九電を28%減らすことを考えているようです。電力価格の値上げ幅を少しでも圧縮するため措置なのでしょうが、ちょっとおかしいように思います。

 東電以外の社員は原発事故とは何の関係もなく、彼らにとってはずいぶん理不尽なことでありましょう。原発運転停止、その結果としての火力の燃料費増加はすべて外部要因で、経営者や社員の裁量の範囲外のことです。通常、裁量のないところに責任はあり得ません。

 一方、マスメディアは社員の給料削減を後押しする姿勢が見られます。3月9日の朝日は、社員の給料は高すぎるのではないか、関電と九電は顧問や相談役に払っている報酬まで原価に含めようとしている、と非難しています。電力会社叩きは今の世の風潮となっている観があります。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」です。

 事故に関係のない他の電力会社の社員や顧問の給料・報酬まで削減させようとする背景には、原発事故という大きな災害の原因者として誰かを悪者に仕立て上げなければならないという意図を感じます。事故が大きかったからと、他電力の社員まで一緒くたにするのはずいぶん粗雑なやり方です。

 私企業の給料水準に政府が口を出すことは一般にありません。電力会社の場合は地域独占の公益事業であることを根拠にしていると考えられます。独占的に必需品を供給するため、消費者は選択の余地がなく弱い立場となるので価格の決定には公の立場から制限することができるということでしょう。社員の給料も他の大企業の平均から乖離してはならないというわけです。

 むろんこれは理に適った話です。ただ原発事故の結果として行うべきことではありません。原発事故と公益事業の給料とはまったく別個の問題だからです。もし公益事業の給料を問題にするのであれば、例えば唯一の公共放送であるNHKの給料も問題にしなければ公平を欠くことになります。NHKは独占事業体であり、受信料の値下げにはシブイわりに高い給与水準が話題になりました。また地域独占のJR各社なども同様に扱う必要がありましょう。

 さらに独占ではなくとも免許制による寡占体制によって広告料などに強い価格決定権を保持し、高収益を得ている放送業界も同様と考えられます。新規参入が事実上不可能であり競争は限定的となり、業種別給与において2位以下を大きく引き離した最高の水準が実現したと考えられます。寡占は独占と自由競争の中間に位置するわけで、参入規制による寡占業界にも電力会社に準じた給料規制をしなければ公平ではありません。

 放送・新聞業界がエリートばかりならば人材確保のための高給も仕方ないかもしれませんが、失礼ながら私にはそうは見えません。

 原発事故と無関係な電力会社の社員にまで負担を求めるなら、独占公益企業の給与水準に世の注目が集まり、NHKや放送業界にも飛び火しないとは限りません。そうなればまさに薮蛇です。そんなことになったら現在の給与水準が高いだけに、電力会社のように2割程度の削減では済まず、5割減でも十分とは言えないかも知れません。あまりしつこく電力会社を叩かない方が身のためであると思う次第です。