スクールカーストという言葉をご存知でしょうか。学級内で自然発生する階級のことです。階級名は一般的なA、B、C、また男生徒の場合はイケメン、フツメン、キモメンというのもあるそうです。ネーミングには感心しますが、褒められたことではありません。
少年期の短い時間ですらこのとおりで、人間は集団を作ると自然に階級が発生するようにできているようです。集団内での序列の形成は犬や霊長類でも見られるもので、それは集団としてのまとまり、意思決定など生存に必要なものでもあったのでしょう。
そうは言っても割を食うことになる下層階級はたまったものではありません。近代はそうした階級の平準化、希薄化の歴史であると言ってもよいと思います。政府の役割が重視され、所得再分配などによって、下層から強い恨みを買うようなひどい不平等をなくそうという流れが主となりました。ところが最近のアメリカはこの流れに逆行しているようです。
スティグリッツの「世界の99%を貧困にする経済(原題はThe Price of Inequality 不平等の対価)」は帯に「なぜ繁栄の分け前は1%の最上位層によって独占されるのか」とあるように、経済における階層の問題に焦点を当てたもので、1%の最上位層がさらに豊かになっていく現実、階級化の進行を取り上げています。
ノーベル経済学賞の受賞者であるスティグリッツはクリントン政権で大統領経済諮問委員会の委員長を務めた人物でもあり、広範な知識に裏付けられた現実的な議論には強い説得力があります。また昨年ニューヨークを中心に起きた「ウォール街を占拠せよ」運動の支援者でもあります。
この本は、ユダヤが世界を支配しているなどという陰謀論の類ではないかと思うほど衝撃的な内容です。アメリカで暴動や革命が起きないのが不思議とさえ思わせます。本書の第6章「大衆の認識をどのように操作されるか」では、認識や思想が巧妙に操作されていることが説明されます。これは暴動や革命を防ぐ上で重要な役割を果たしています。本書に書かれたことが周知されれば、上位層による認識操作が危うくなる可能性があり、上位層にとっては読まれたくない本であると言えるでしょう。
第1章の表題でもある「上位1%が99%から富を吸い上げる」という事実とその方法を様々な方面から説明されます。例えば自由な市場経済ではもともと富が一部に集中する傾向がありますが、上位1%は政策決定に影響を与えることで、彼らがさらに有利になっている状況などが説明されます。
国鉄や電電公社の民営化成功によって日本では民営化は効率的であるという認識が一般的ですが、本書では例を挙げ、民営化の失敗例は山ほどあると述べられています。またアメリカの医療保険の例では政府の方が民間の保険会社より効率がよいと述べ、市場は常に効率よく機能すると限らないとしています(市場の効率性を否定しているわけではありません)。
富豪であるウォーレン・バフェット氏は「私の個人所得税率が自社の従業員平均の36%を大きく下回る17%強にすぎないのはおかしい」と述べましたが、本書を読むとその背景がわかります。バフェット氏自らがそれを発表するまで誰にも注目されなかったこと、そしてそれが上位1%の戦略の結果であったことも。「この20年間、階級闘争が続いてきて、私の階級が勝ったのだ」という彼の言葉はそのあたりの事情を表しています。
一方、アメリカに追従する日本の新自由主義の経済学者、政治家は少なからず存在し、彼らの影響力は無視できないものがあります。アメリカの政治経済の構造、市場主義の限界、負の面を解説した本書はその点からも一読に値すると思われます。アメリカに対する見方が一変するかもしれません。また自由な社会が自然に階級を生みだす実験例として読むこともできます。
本書はけっこう有名になった本ですが、マスメディアの影響力から見れば取るに足らないものです。私は昨年の7月の発売の数ヶ月後に買いましたが、まだ第1刷でしたから、日本での販売は少数です。もっと多くの人に読まれてほしい本ですが、残念なことに翻訳の出来がよいとは言えず、また訳者に経済の知識がないことも読みにくい原因となっているようです。まあそれでも十分刺激的で、大変面白い本であったことは間違いありません。
少年期の短い時間ですらこのとおりで、人間は集団を作ると自然に階級が発生するようにできているようです。集団内での序列の形成は犬や霊長類でも見られるもので、それは集団としてのまとまり、意思決定など生存に必要なものでもあったのでしょう。
そうは言っても割を食うことになる下層階級はたまったものではありません。近代はそうした階級の平準化、希薄化の歴史であると言ってもよいと思います。政府の役割が重視され、所得再分配などによって、下層から強い恨みを買うようなひどい不平等をなくそうという流れが主となりました。ところが最近のアメリカはこの流れに逆行しているようです。
スティグリッツの「世界の99%を貧困にする経済(原題はThe Price of Inequality 不平等の対価)」は帯に「なぜ繁栄の分け前は1%の最上位層によって独占されるのか」とあるように、経済における階層の問題に焦点を当てたもので、1%の最上位層がさらに豊かになっていく現実、階級化の進行を取り上げています。
ノーベル経済学賞の受賞者であるスティグリッツはクリントン政権で大統領経済諮問委員会の委員長を務めた人物でもあり、広範な知識に裏付けられた現実的な議論には強い説得力があります。また昨年ニューヨークを中心に起きた「ウォール街を占拠せよ」運動の支援者でもあります。
この本は、ユダヤが世界を支配しているなどという陰謀論の類ではないかと思うほど衝撃的な内容です。アメリカで暴動や革命が起きないのが不思議とさえ思わせます。本書の第6章「大衆の認識をどのように操作されるか」では、認識や思想が巧妙に操作されていることが説明されます。これは暴動や革命を防ぐ上で重要な役割を果たしています。本書に書かれたことが周知されれば、上位層による認識操作が危うくなる可能性があり、上位層にとっては読まれたくない本であると言えるでしょう。
第1章の表題でもある「上位1%が99%から富を吸い上げる」という事実とその方法を様々な方面から説明されます。例えば自由な市場経済ではもともと富が一部に集中する傾向がありますが、上位1%は政策決定に影響を与えることで、彼らがさらに有利になっている状況などが説明されます。
国鉄や電電公社の民営化成功によって日本では民営化は効率的であるという認識が一般的ですが、本書では例を挙げ、民営化の失敗例は山ほどあると述べられています。またアメリカの医療保険の例では政府の方が民間の保険会社より効率がよいと述べ、市場は常に効率よく機能すると限らないとしています(市場の効率性を否定しているわけではありません)。
富豪であるウォーレン・バフェット氏は「私の個人所得税率が自社の従業員平均の36%を大きく下回る17%強にすぎないのはおかしい」と述べましたが、本書を読むとその背景がわかります。バフェット氏自らがそれを発表するまで誰にも注目されなかったこと、そしてそれが上位1%の戦略の結果であったことも。「この20年間、階級闘争が続いてきて、私の階級が勝ったのだ」という彼の言葉はそのあたりの事情を表しています。
一方、アメリカに追従する日本の新自由主義の経済学者、政治家は少なからず存在し、彼らの影響力は無視できないものがあります。アメリカの政治経済の構造、市場主義の限界、負の面を解説した本書はその点からも一読に値すると思われます。アメリカに対する見方が一変するかもしれません。また自由な社会が自然に階級を生みだす実験例として読むこともできます。
本書はけっこう有名になった本ですが、マスメディアの影響力から見れば取るに足らないものです。私は昨年の7月の発売の数ヶ月後に買いましたが、まだ第1刷でしたから、日本での販売は少数です。もっと多くの人に読まれてほしい本ですが、残念なことに翻訳の出来がよいとは言えず、また訳者に経済の知識がないことも読みにくい原因となっているようです。まあそれでも十分刺激的で、大変面白い本であったことは間違いありません。