噛みつき評論 ブログ版

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人間の市場価格

2014-02-17 09:15:11 | マスメディア
 ニューヨーク・ヤンキースは東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手と総額1億5500万ドル(約162億円)の7年契約で合意したという発表がありました。驚くほどの高額ですが、手放しで賞賛する報道がほとんどです。いつも格差問題を深刻に取り上げてきた左派メディアにもこれを格差問題として捉える論調はなかったようです。

 誰が大儲けしようが勝手だ、という考えもありますが、それは部分的に見た場合の話で、全体としてみれば別の誰かの所得が減ることになり、そこに格差問題があるわけです。

 大企業の社長が10億円の年収を得れば高すぎると批判されるのに、スポーツ選手は別なのでしょうか。

 ヤンキースは昨季、選手年棒総額が一定額を超えると発生する課徴金を2800万ドル支払ったそうです。新自由主義の本家、アメリカでさえ極端な高額報酬に対する批判の存在がうかがえます。

 ヤンキースは選手に高額を払っても、その金額以上の収益が得られれば合理的な投資ということになるのでしょう。162億円は市場価格なのです。米投資銀行が稼ぐ能力のある人に高額の報酬を与えたのと同様、経済的には合理的な行動です。しかしその高額報酬は別の誰かが負担しているわけであって、全体としては必ずしも合理的とは言えません。

 また人間を投資対象とみなして価格を吊り上げ、超高額になるという仕組みにはも違和感を覚えます。一人の人間に払う金額として162億円は常軌を逸したものだと思います。この十数年間、金額が徐々に上ってきて、我々の感覚は麻痺してしまったのではないでしょうか。

 IPS細胞やSTAP細胞の研究は計り知れない価値を生むものと期待されています。他にも価値ある研究が多くあると思いますが、プロ野球の選手の報酬には遠く及びません。社会に提供する価値の大きさと報酬との乖離があまりに大きくなることは好ましくありません。それは研究者の市場が未発達であるからかも知れませんが、その方がまともであり、人間を投資対象として市場価格をつける方が異常なのだと思います。

 有能な人にはより高い報酬が払われるのは自然ですが、人を物と同様に扱い、投資価値だけで評価する新自由主義、市場原理主義の考え方にはやはり違和感があります。この考え方の先には人身売買もないとは言えません。

 162億円はそのようなことを考える機会となりました。日頃、格差問題を云々しているメディアにとっても興味あるテーマだと思うのですが、高額報酬を批判しないばかりか、賞賛しているのはプロ野球とメディアが「互恵関係」にあるからではないかと、勘ぐりたくなります。あるいはただ鈍感なだけかもしれませんが。