噛みつき評論 ブログ版

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大山鳴動して鼠一匹

2014-07-14 08:55:07 | マスメディア
 過去最強クラスだと大きく騒がれた台風8号は気象庁やメディアの期待に反して、衰弱の一途をたどり、拍子抜けとなりました。沖縄など、台風に近い場所には多くの取材関係者が派遣されていたようですが、前評判にふさわしい凄い映像を撮ることに苦労されたことでしょう。

 台風の中心気圧は台風の強さを示す重要な指標で、低くなるほど周囲との気圧差が大きく、強い台風となります。8号の中心気圧は7日には930ヘクトパスカルであったのですが、この程度はめずらしいことではなく、最強クラスと騒がれたのは気象庁が翌8日には910ヘクトパスカルの猛烈な台風に発達する見込みであると自信たっぷりに発表したからです。影響は大きく、海外でもモンスター台風の来襲と報道されました。

 ところが8日には逆に945ヘクトパスカル、9日には960ヘクトパスカルと、衰えてしまいました。気象庁の予想は大きく外れたわけですが、「昨日の発表は間違っており、実は逆に弱くなりました」という明確な発表がなかったため「最強クラス」という言葉がそのまま生き続け、大騒ぎとなったわけです。中心気圧を見れば衰えたことがわかる筈ですが、メディアは理解する能力が足りなかったようです

 災害が予想される場合、気象庁の発表はもともと誇張の傾向があります。災害に備える気持ちが緩んではいけないという配慮なのでしょう。しかし今回のように、予想が外れて台風が弱くなったことを隠せば、もともとの誇張があるだけに実際との乖離がさらに大きくなります。要するに信用を失うということです。

 沖縄では8日午後4時、特別警報に基づいて19市町村の593000人に対して避難勧告が出されましたが、それに応じて避難したのはたったの947人であったそうです。率にすると0.16%。神経過敏な人、役所の言うことを盲目的に信じる人も少数はあるので、この数値は避難勧告の効果がほとんどないことを実証しています。

 気象庁は甘い予想を出して大きな被害が出ると叩かれるので誇張気味の予想を出そうという力が働きます。これを受けて、マスメディアが発表するわけですが、メディアは注目を集めたいために、これまた誇張された報道になりがちです。今回の拍子抜けの騒ぎは予想失敗に加え、気象庁の誇張にメディアの誇張が重なった結果と言えましょう。このようなことの営々たる積み重ねが信用を失わせることになったと思われます。だから警報の効果が弱くなり、昨年から特別警報を導入したと思われます。これもやがて信用されなくなり、次はスーパー特別警報が必要になるかもしれません。

 3.11の震災では津波を当初3mと過小に発表したことが被害を大きくしました。せめて黙っているか、わかりませんと発表しておけば死者はもっと少なかった筈です。吉村昭著「三陸海岸大津波」は105名の死者を出した1960年5月24日のチリ地震津波のことに触れています。前日の23日にはハワイに襲来して60名の死者が出たのを気象庁は承知していながら、日本に来るとは考えず、津波警報を発令しなかったと書かれています。

「チリ津波が三陸沿岸に達するまで22時間30分という時間的余裕があった。しかもその間、ハワイでは死者も出るような津波が襲っていたし、当然日本にも津波の来襲があると予測するのが常識だったに違いない」と記し、気象庁を批判しています。吉村昭氏は綿密な調査に定評があり、これは信頼できると思います。

 まあ気象庁が信用できないのは今に始まったことではなく、それなりの長い歴史と伝統があるのだというお話でした。