噛みつき評論 ブログ版

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トランプ革命

2017-01-23 09:28:41 | マスメディア
 不確実性はしばしばリスクと同様に扱われますが、経済学では起きる確率すらも計算できないものを不確実性とすることが多いようです。両者を厳密に区分することは難しいと思いますが、リーマンショックやこのたびのトランプ大統領誕生はまさに不確実性の好例でありましょう。何が起きるかわからない世界に我々は生きているという事実を改めて認識しました。

 それはともかく、約1年という長い時間と莫大な費用を使って民主的に大統領を選ぶ仕組みからトランプ大統領は生まれました。トランプ氏を支持したのは主として低所得の白人労働者層だと言われています。図式的に言えば既得権益層に対する虐げられた階層の反乱、つまり一種の平和的な革命であるという見方ができます。これは左翼が大好きなパターンであり、従来、このようなケースでは左翼メディアは絶賛してきました。

 ところが今回の左翼メディアの反応は全く異なります。アメリカ国民の意思が示されたとか民主的な手続きで誕生したからという理由でトランプ大統領を歓迎すれば、メディアの見識が疑われかねないという配慮からか、トランプ批判一色の観があります。

 さらにここで問題にすべきことですが、トランプ大統領を生んだ民主的制度に対する言及がありません。民主主義のもつ危険性を検討し、その弱点をなくする努力を怠れば第2第3のトランプが出てくるでしょう。ヒトラーも民主的な手続きによって生まれましたが、その特異な人格は世界に大災厄をもたらしました。国民が直接投票する直接民主制は特に危険性が高いように思います。

 低所得層の増加を招いたものは格差の拡大でしょう。格差を取り上げたサンダース候補は若年層からの圧倒的な支持を得ましたが、それをアメリカ社会の地殻変動だとする見方もありました。またピケティ氏の「21世紀の資本論」が売れたことは格差問題が深刻な域に達していたことを示すものです。トランプ大統領の誕生は格差問題が大きな広がりを持っていたことを証明したと言えます。恐らくそれは新自由主義の副作用なのでしょう。これらのことにメディアはかなり鈍感であったように感じます。

 さらに既成メディアの信頼低下も指摘されています。既成メディアはポリティカルコレクトネスなど理想論の建前があり、このことが社会にあるべき方向性を与えていた部分があります。しかしネット情報は本音中心で、こうした理想とは縁が薄く、これが白人労働者層の投票行動に影響を与えたとも考えられます。投票行動を決めるものは情報です。とは言っても日本の民主党政権の誕生には既成メディアの誤った認識があったと思われるのでいつも既成メディアが正しいとは考えられません。ややこしいことです。ネットの普及が衆愚政治への道を切り開くと言えましょう。

 我が国のメディアでも格差問題はしばしば取り上げられていますが、どこか他人事のような観があります。マスメディア、特に放送は業界別の所得が最高であり、累進課税の強化などが実施されれば不利益を受ける立場にあります。きっと自分たちが損をする方向に行くと大変なので、安保法制のようには熱が入らないのでしょう。

 格差の深刻化や貧困家庭の増加などを報じますが、その改善のために自分たち中高所得者層からもっと税金を出そうとは決して言いません。公正さや公平さを追及すれば課税強化につながり、自分たちが損をするという一種の利益相反の立場なのです。それを解消するには彼らをうんと低所得にする必要があります(実現は無理でしょうけど)。

 オバマ氏の就任演説は理想を高く掲げた格調高いもので、胸に響くものがありました。それに対してトランプ大統領の就任演説は一言で言えばアメリカ一国の利己主義の表明です。トランプ大統領の支持者層を反映した結果なのでしょうけど、理想や正義からあまりにも遠い内容です。アメリカのみならず、今後世界はこういう人の支配をうけることになるわけです。