噛みつき評論 ブログ版

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国が進める『貯蓄から投資へ』に騙されないために

2007-11-30 12:57:00 | Weblog
 「貯蓄から投資へ」は国の方針である。証券業界、日本経済新聞はそれに乗っかって、後押しをしている。その方が儲かるからである。

 ところがうまくいっていない。内閣府政府広報室によれば、預貯金を好み、株式や投資信託などを保有しない人は07年5月の調査では前回(05年12月)よりむしろ増えている(71.7%→73.5%)。投資を現在行わず,今後とも行う予定はないという回答も68.5% → 74.1%とむしろ増加傾向だ。

 「貯蓄から投資へ」とは銀行を通じた間接金融から国民が直接投資対象(会社など)を選んで投資することを促すことである。大きく儲かることもあれば大損することもある。つまりみんなで危険な(リスク)マネーを供給しようというわけだ。

 成功の確率を上げるためには十分な情報と判断力が必要だ。国民の多くが経済を勉強しても(経済紙が売れる)機関投資家などの専門家と互角に勝負できるとは思えない。しかも低成長下の株式市場はゼロサムゲームに近いから誰かが儲かると誰かが損をする可能性が高い。余裕ある人のゲームにとどめるべきものだろう。

 投資信託を買う場合は投資の選択を他人に任せるのだから、その点は銀行と同じである。しかしリスクは本人もちだ。バブルのとき、銀行は「みんなでわたれば怖くない」と不動産業界に融資した金が焦げつき、多くの銀行が消滅した。そして知識・経験の豊富な専門家もそろって大失敗するという教訓を残した。

 その点、証券会社は安心だ。相場が総崩れでも証券会社は損をせず、投資した国民がすべての損を負担してくれる。銀行も投資信託の窓販に力を入れているが、預金を集めるよりおいしい投信の手数料が魅力なのだろう。そして銀行もノーリスクだ。

 銀行は主に預金と貸し出しの利ザヤで生きている。だから双方の残高がある限り収入がある。ところが証券会社の主な収益は売買時の手数料だ。長期の保有は収益にならないから頻繁に売買を薦める。そして客はたいてい食われる。もっとも大口の客は優遇される。大口客に 「飛ばし」で損失補填してつまずいたのが山一證券である。
(飛ばし:値下がりした証券を高値で山一の関連会社に買い取らせ、損を埋め合わせる手法)

 同じ調査で、投資より貯蓄を選ぶ理由(複数回答)として、証券会社や証券市場に対する不信感が28.4%もある。不信感は日本の証券会社の長年の涙ぐましい営業努力の成果である。

 「金融商品取引法」は証券業界の目に余る行動を縛るために、9月に施行された。自ら行動を律することができない業界であることはこの法律が証明している。

 山一證券の一部を引き継いだメリルリンチは頻繁な売買を薦めない米国流の営業方針を採った。しかし数年後、日本での業務縮小を余儀なくされた。わが国伝統の、客を食いものにするやり方に敗北したのである。

 現在、株式や投信を保有しているのは1割ほどだ。ハイリスク・ハイリターンを目指すのは余裕のある一部の人でよいではないか。米英独の保有率は日本より高いが、その差は証券業界の信頼度の差によるところもあるのだろう。

「貯蓄から投資へ」はリスクあるゲームへの勧誘である。直接金融の利点もわかるが、弊害も大きい。国民のために、わざわざ国が音頭をとって進めることだろうか。もっとも、証券業界のためになるのは誰にでもわかるが。


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