Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

薄氷の上での千羽鶴

2020-06-11 | 文化一般
ザルツブルク音楽祭の開催が話題になっている。当然である。発表されていたコムパクト以上の開催と発表されたからだ。それは前日にもヴィーンからの中継でどの程度のことをするかは推測されていた。

なにが驚かせたかはプログラムに大編成のオペラがある事やそのために大会場を三分の一から半分まで入れようとしていることである。具体的には舞台の上下と裏ではもはやソーシャルディスタンシングは存在しない。近づく時にはマスクをしていれば事足りるとなっている。なるほど本番は八月であるから状況は好転しているかもしれない。しかし場合によっては今月にでもヴィーナーフィルハーモニカークラスターが発生するかもしれないのである。

オペラ上演となると舞台組などを含めて準備の為に近々に多くの人が従事するようになる。舞台芸術関係の人と言っても職人さんばかりで労働であることには変わりない。安全な職場は依頼主の責任で、働く者の自己責任などは有り得ない。こうした興行関係に陽の目が当たる時なのにそこに目を瞑ってはいけないのである。

ヴィーンでは先月中盤までは客席も二十平米に一人のスペースが取れることが前提としてそれが批判されて緑の党の責任者が辞職した。オーストリアのその方での闇は深い。観光ツーリズムの一つに成って仕舞った芸術にはもはや社会的な影響力はない。そして昨年の国立劇場記念公演でも嘗てはこの程度では無かったと嘆かれたのであった。

兎に角、席を一つ開けたぐらいの入場では少なくとも現在の見識では怖くて近寄れない。たとえ上演時間を短くしても一時間以上同じ面子の人と近くで過ごすのである。千人も入場者が居ればその中に感染者が含まれる可能性も高くなり、そこで新たな感染が発生することは予想されて、オペラ上演となれば裏方さんから奈落の下までに感染が広がる。

それをしてヒンタホイザー社長は薄氷の上を行くようなものだと語る。各方面からの批判と注目が集まっているからだが、どうして急にあれ程までに厳しかったヴィーンの政府が変わったか?前任の担当者の先月の辞任会見を観た。催し物は一人20平米が確保されないと認めないとした彼女の権力を以っての当事者との交渉は実らず、一斉砲火を浴びたという事だった。勿論その基準では今後とも催し物は不可能であったが、なし崩しになってしまうところが外からは分からない事情である。

ソーシャルディスタンシングは1から2mの間で世界中認識されているのにも拘らず、演奏者同士は75㎝、聴衆は1mと定めそれ以下はマスクで可能とした大変化はどこの国にも無かったことで、誰もその根拠などを信じることはできない。社長曰く、この「規制緩和」が無ければ始まらなかったと、そしてオーストリアはドイツよりも柔軟なのだと。

まさしく最も多くの人が出かける筈のミュンヘンの南ドイツ新聞は、社長は日本人ではないが千羽鶴を折り続けて更に八月も更に多くの鳥を飛ばす為に折り続けなければいけないだろうと、神にも祈るような状況を揶揄している。今迄の再開催し物の発券の状況を見ていると予想に反して可成り動きは遅い。ザルツブルクの支配人が語るように、優先で三分の一以下の券を出しても一体どれぐらいの人が来てくれるか分からない。

辞めた文化芸術が専門の女性政治家の言うようにコロナによって浮き上がって来たオーストリアの文化芸術関係者への社会の保護の不足がこうして再び市場を流れる金の流れの下に沈もうとしている。なるほど彼女が言うように、開かれた議論が必要で、公的資金を流すだけでも創造的なそれは築かれない。これでは文化立国を狙うオーストリアが世界に開かれ、私たちを覚醒させてくれる文化芸術はメッカとしてのそこに実らないことになる。



参照:
Im Schatten Mordors, Reinhard J. Brembeck, SZ vom 10.6.2020
„Ein Erlebnis schenken, das durch nichts zu ersetzen ist“, Jan Brachmann, Simon Strauß, FAZ vom 9.6.2020
Markus Hinterhäuser: "Wir bewegen uns auf dünnem Eis", DW
Lunacek tritt zurück: "Keine Chance mehr", WienerZeitung vom 15.5.2020
ザルツブルクの突破口婆 2020-05-26 | 女
大胆不敵なヴィーナー 2020-06-08 | 雑感
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