関係各位 御中
「
東京電力福島原子力発電所における事故調査の中間報告書」を読んでのコメントを以下に述べる。その視点は、ARD放送網南ドイツ放送文化波ラジオSWR2の聴視者として、事故直後から凡そ三十分以内に刻々と伝えられた最新情報を受け取りながら、インターネットUステュリームでのNHK臨時放送内容と比較しての視点である。尚且つドイツ連邦共和国市民にとってのごく一般的な情報源である公共放送TV網第一(ARD)と第二(ZDF)の報道を時系列に並べたアーカイヴで振り返り、当該報告書を読む。
先ず「Ⅴ 福島第一原子力発電所における事故に対し主として発電所外でなされた事故対処」を読んで、住民の被曝を軽減もしくは回避できたのではないかとの懐疑が生じる。それは、「3 住民の避難」そしてその根拠となるモニタリングの始動の遅れを「1 環境放射線モニタリングに関する状況」に其々示された報告事例として確認して、遅くとも2011年3月12日22時前(日本時刻同年3月13日6時前)に流されたZDFニュース内容の防御対策への解説(
参照1)と福島での実際を比較する時、以下の点の検証の必要性を強く感じるからである。
検証:
2011年3月12日の時点で住民のスクリニングが実施されて、同日15時36分の一号機爆発以降大気中にセシウムの拡散が確認されている。これに伴って原災本部は同18時に避難地域を20KM圏内へと拡張したが、これらの情報を総合して専門家は、「少なくとも一部炉心の溶解」と「更なる水素爆発もしくは水蒸気爆発による原子炉の完全破損」(
参照2、
参照3)、「気象条件下での風向きによる拡散状況(
参照0)」、「ヨウ素をはじめとする各種核種の大気中への拡散による被曝と健康被害(
参照4)」などを予想している。この時点で、IAEAが「相当量の核物質の飛散があった」と発表していると、同日22時前(日本時刻13日6時前)放送のZDF特番(
参照3)で元連邦原子力監視委員長ヴォルフガンク・レネベルクは語っている。
一、
日本政府の爆発事象確認が漸く同日20時32分に発表となり、そこで「放射性物質が大量に漏れ出すものではない」と声明している。この時点において、避難住民被曝のスクリニング状況からまた気象状況から、同心円状を越えて福一から風下へと汚染が広がっていることが首相官邸五階にても状況把握されていたことは間違いない。それではなぜこの時点で、同心円状の避難地域からの避難住民に対してさえ、安定ヨウ素剤による内部被曝防止処置が取られていなかったのか?一号機爆発のプルームは既に避難圏外に到着済みで、ヨウ素剤投与には時遅しとして首相官邸は判断したのか?そうでなければ、なぜか?調査、検証が必要である。
二、
避難誘導に関して、この時点において20KM圏内からの避難者へスクリニングなどが施されたことからしても、原災本部では内部被曝が重要な課題となっていたことは明らかであり、福一から風下への注意勧告があれば無駄な被曝は避けられた筈である。この当該中間報告は専用のシュミレーションシステムSPEEDIについてのみ触れているが、そうした内部被曝を最小に抑えるために地形までを鑑みた局地気象予報などを用いた防御的方策が、当時官邸の五階においてどのように検討されていたのか?調査、検証が必要である。
三、
一、と二、からも明らかなように、放射性プルームに汚染される地域への注意勧告と避難誘導こそが、同心円状に広がる近隣の地域の避難誘導と共に、人道的な見地からオフサイトにおける事故対処の最重要課題であった。しかし原災本部はでこうした必要最小限の注意勧告と避難誘導を一切行わなかった。官邸五階においてどのような経過でこうした決定が下されたのか、厳格な調査と検証が強く求められる。ミュンヘンの放射線医学の専門家ラングフェルダー教授は「チェルノブイリの場合と比較して大気中への同じ拡散量ならばその人口密度から同量の20倍の健康被害への危険性があるとして、困難を伴う避難処置であるだけに早急の対処が必要」としているが(
参照10)、その点は官邸五階でどのように論議されたのか?交通や組織、予測の技術的な困難からか、菅総理がそうした情報と注意喚起を同日20時32分の声明からそっくり排除した官邸五階での議論の経過を明らかにすべきである。
次に、「Ⅶ これまでの調査・検証から判明した問題点の考察と提言」を読んで、その「5 被害拡大を防止する対策の問題点」の内容を、2011年3月13日22時(日本時刻同年3月14日6時)までのドイツ連邦共和国第一ARD放送網、第二ZDF放送の報道内容を振り返りながら、引き続き疑問となる検証点を以下に挙げる。
四、
「(1)原発事故の特異性」における「国民や国際社会への情報提供等の問題点」に関連して、上記三、に述べたような検証が先決であることは確かである。既に一号機の爆発後、「女川原発においても高い放射能が計測」の情報のように、大気中に漏れた放射性物質が風で北方向へと流された相当量の放射性プルームの存在が確認されていたので、同年3月13日13時(日本時刻同日21時)のARDの報道番組(
参照5)にて、風向きと放射能汚染の関連を低層と高層の気象状況に分けて、そのプルームの拡散に伴う週明けの日本での危険性を予測している(
参照9) ― その後数ヶ月間以上ドイツ気象台のプルーム情報を掲示したHPが日本から集中したアクセスを受けたことは周知の事実である。一方NHKはこうした放射性プルームによる内部被曝の危険性を隠すかのように、外部被曝に関わる放射線源からの距離の二乗に反比例する影響や放射線の透過・遮蔽を爆発直後から盛んに説明するなど所謂安全デマ放送を流し続けた。この点に関して、当然のことながら日本の識者も内部被曝を齎す風向きによって拡散するプルームの危険性を熟知していたにも拘らず、敢えてこうしたコメントを発信続けた報道の背景の検証が欠かせない。そこに、報道規制が存在したのか、存在したとするならばどのような配慮をもってどのような手順によって報道現場への指示が下されたのか?
五、
「(2)初期モニタリングに関わる問題」ならびに「(3)SPEEDI活用上の問題点」が、そのもの「(4)住民避難の意思決定と現場の混乱をめぐる問題」である最大の問題を誘引しているが、それらの問題点を解決する機関として有識者や監督官庁を交えた原災本部等が存在して、同年3月13日22時(日本時刻3月14日6時)までにARD放送、ZDF放送にて紹介されたドイツの専門家によってと同じく、もしくはそれ以上に正確な予想がそこでなされた筈である。その時点では、従来から知られていたジルコニウム反応による「水素爆発が三号機で起きる可能性が高い(
参照6)」こと、「風向きや地形によって放射性プルームによる汚染域が変化拡大する」こと、その後「更に大量の放射能が大気へと拡散する可能性が高い」ことなどが共通した識者の認識であって(
参照9)、そうした危険に備えて予防的処置として避難対策や広報が背後では検討されたに違いない ― 実際にその予想通りなったことで科学的な見地による推測はことごとく実証された。しかしコメンテーターとして日本のマスメディアに登場していた専門家のみならず政府発表もこうした危険に対して何一つ情報を発していなかったどころか、それ以前に政府が発表した「炉心溶融」を覆して、また三号機の爆発の危険性をすら否定している(
参照7、
参照9)。こうした一連の安全デマ情報を政府が流して、マスメディアが正しい情報を隠蔽した背景には、住民を混乱に陥れまいとした配慮があったとする観測が一方にはある。その事実関係こそ検証すべき点である。それが事実とするならば、混乱による被害と無用な被曝による被害が天秤に掛けられたに違いないが、その判断の基礎となった根拠とする情報を検証して明らかにすべきである。
六、
止むを得ない理由での事実の情報隠蔽や情報操作が政府によって行われていないと仮定しても、「b 地方自治体および住民の避難の問題点」で描かれているような惨状は健全なジャーナリズムが存在したならば避けられたのである。同じ情報源を判断材料としながらも正しい科学的知見を流し続けたドイツの公共放送にそれが例示されている。つまり、「c住民避難の問題点と今後の課題」にて課題とされてる一般市民への啓蒙は、NHKが的外れな放射線の透過・遮蔽率などの安全デマのために使っている時間をそのまま放射能、特に内部被爆を避けるための放射能汚染・拡散・防御、避難に関する基本的知識の広報に使っていれば、未必の故意による住民の無駄な被曝と混乱を避ける啓蒙が出来たに違いないのである。その点を課題とすべきなのであり、検証すべきなのである。
七、
「(5)国民・国際社会への情報提供」に触れられている情報提供というのは、住民個々の判断の基礎となる情報を提供することであり、専門家・学識経験者がいればいるだけ種々雑多な考察と見解がそこにあるのが当然であり、それを自由に議論することで正しい情報と判断が齎せることを改めて肝に銘ずるべきである。要するに、活発な議論のあるところでは危険な安全デマや扇動的なデマもしくは風評被害と呼ばれるものなどは存在しないのである。
国際社会への情報提供とは、そのもの国民のなかでの活発な議論を指すのであり、ドイツ連邦共和国は福島の事故を受けて一貫してメルケル首相や大統領などの見解として直接口頭で日本政府に対して何度も繰り返し「(日本政府の情報政策を批判して)日本国内での情報の自由化」を要請したのであった。こうした要請を故意に誤って翻訳したのか、日本政府は「英語による情報発信の必要性」などと対応しており、その真意を知りながら敢えて的外れの反応をし続けているのである。そこに外務省担当局のサボタージュ行為が存在するのか、首相官邸の嘯くような外交手段によるものだったのかも検証すべきである。
以上、各々の問題点に関して、ドイツ連邦共和国の一般市民を代表して、「東京電力福島原子力発電所における事故調査の中間報告書」に対するコメントとする。是非、最終報告書に活かすべく、其々の厳正な調査と検証を懇願したい。
参照:ドイツ連邦共和国第一放送網ARDならびに第二放送ZDFのネットアーカイヴよりの一覧
参照0
http://www.ardmediathek.de/ard/servlet/content/3517136?documentId=6699164
SR3 Rundschau 12.03.11 08UHR
参照1
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1282404/R%C3%A4tselraten-nach-Explosion-im-AKW
Rätselraten nach Explosion im AKWZDF heute journal, 12.03.2011 21:48I
参照2
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1282282/Gen%C3%BCgend-Grund-zur-Besorgnis
参照3
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1282306/Halte-Kernschmelze-f%C3%BCr-wahrscheinlich%22
"Halte Kernschmelze für wahrscheinlich"ZDF heute journal, 12.03.2011 21:55
参照4
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1282594/Was-passiert-w%C3%A4hrend-einer-Kernschmelze
Was passiert während einer Kernschmelze?ZDF heute journal, 12.03.2011 21:59
参照5
http://www.ardmediathek.de/ard/servlet/content/3517136?documentId=6705022
参照6
http://www.ardmediathek.de/ard/servlet/content/3517136?documentId=6704982
13.3.11 13UHR
参照6
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1282870/Die-Lage-ist-sehr-dramatisch%22"
Die Lage ist sehr dramatisch"spezial, 13.03.2011 13:15
参照7
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1282842/Japans-Regierung:-Lage-unter-Kontrolle
Japans Regierung: "Lage unter Kontrolle"spezial, 13.03.2011 15:30
参照8
http://www.ardmediathek.de/ard/servlet/content/3517136?documentId=6708096
Angst vor nuklearer Katastrophe wächstWELTSPIEGEL19:20 13.3.11
参照9
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1283088/Massive-Probleme-bei-AKW-Fukushima
参照10
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/hauptnavigation/startseite#/beitrag/video/1283254/Experte:-Lage-nicht-mehr-beherrschbar%22
Experte: "Lage nicht mehr beherrschbar"ZDF heute journal, 13.03.2011 21:58"