殆ど禁断症状であった。レープホルツ醸造所のカビネットが切れて長い。昨年の夏には雑食砂岩からのリースリングカビネットが無くなり、補給しようと思うとシュペートレーゼクラスしか残っていなかった。そのSは寝かさないと本当の凄みは出ず、素晴らしく開花していた2008年産も続けて飲むのは惜しい。
だから九ヶ月ほどは切れていたのである。2010年産のそれが決して良かった訳ではないが、除酸や酸の強さで苦労している各醸造所の中にあって上手に造ってはいたのだが、生産量も少なく夏には売り切れていた。
そこでこちらも気合が入るのである。なるほど2011年は収穫量も十分で更にもう一つ上のカビネットが出ることはそれとなく奥さんから聞いていたのだが、それでもやはり飲んでみるまでは分らない。
酸の穏やかなジルファーナーや酸っぱいリッターワイン、そして酸の立った雑食砂岩リースリングに続いて、お披露目の「エコノミラート」である。
2009年に出ていた「ナテューウーアシュプルング」の後釜であるが、価格も上昇している。雑食砂岩がスクリューキャップになって、そもそもその質の違いは2009年にあったのだから当然であろう。
石灰の混ざらないミネラル質の透明性と逆に立たない酸が興味深く。残糖0.4Gまで落としていることから、逆にアミノ酸のような甘みすら感じるのである。「ティピカルなレープホルツワインの提示」に基本コンセプトがあったようだが、どうしてもう一つ突き進めてしまっている。完全に病気である。酸も8.1Gと決して少なくないのであるが、分解が進んでいるのかシュペートレーゼ的な深みがあるのだ。
親仁さんは完全にいってしまっているが、これを味わうと何処までもついていくよとなってしまうのだ。こんなに危険なワインは知らない。そしてこの後味、塩気に混ざって、長く尾を引く懐かしいあの味は何だ?その後味が糖が無いだけに水のように喉を流れ風味だけが残るのだ!
なんたることだ!なんでもない、酸を綺麗に分解して、糖が無くなるまで醸造すれば良いのである。24時間の葡萄付けした果汁を素にして。
これ以上付け加えることはないのだが、記録として、雑食砂岩Sは酸が少ない分若干弱弱しく、まだまだ樽試飲的な出来上がりである。九月に再度試飲するしかない。貝殻石灰Sはバランスが良く、万人向けであろう。さて、ロートリーゲンスSであるが、先日のシェーンレーバーと比較して明晰さで秀でているが、それが甘みとして感じるところは代わらず、少し物足りない。しかし引っ掛かりが無い分、今年のカスターニエンブッシュは、良いかもしれない。
その他ブルグンダーでは、いつもながらの糖を残した造りで一般向けである。ゲヴュルツトラミナーなどはゲオルク・モスバッハー醸造所のそれよりも甘く、些か商業戦略をここに見る思いだ。それでも、メロンパンのようなムスカテラーの透明感や、ソーヴィニオン・ブランの緑のピーマン臭さは流石である。
そしていよいよ恒例のレープホルツ講話の時間である。今年はリースリングの古いものが次々と出された。先ずは2.08G残糖の1983年もの、私はブルグンダーと判断して恥をかいたが、やはり完全に逝っていた。
二つ目は、エコノミラートで、その将来性を考える。
三つ目は、雑食砂岩カビネット2001年物である。2001年は私のペッヒシュタインなどの絶好調のリースリングと比較すると、お話にならない。糖が無いということは経年変化の可能性をなくしているとことでしかない。それでもまだ飲めることを主張するレーブホルツ氏の悩みはそこにあるのだ。
更に対照的なふくやかな2002年のロートリーゲンデスのシュペートレーゼである。なるほどその差は分るのだが、私の2002年のペッヒシュタインの豊穣さとは比較の仕様が無い。
五つ目は、1991年のムスカテラーである。これはゲヴュルツトラミナーではないかとの声が出たが、そのようにそれらしさがなくなっていた。
六つ目が1991年のゲヴュルツトラミナーで、これはまさにレヴァーなどの食事にあわせられる。
それと現在のゲヴュルツトラミナーを比較する。
八つ目が、2011年のシュペートブルグンダーのロゼで、最後は6.8Gの酸の1991年のロゼで酸だけの味だった。
レープホルツのティピカルなワインを理解している家庭は世界に三桁もいないだろう。そして、その瓶熟成の可能性もグローセスゲヴェックスの経験がまだ足りないので、実証的証明不可能なディレンマがある。それはある意味正直な態度であって、彼のビュルクリン・ヴォルフ醸造所でさえ未だに2001年産の将来に掛かっているのである。そこでも精々十年の可能性を証明しているに過ぎない。
しかし、ドイツのリースリング批評において顧客としてオピニオンリーダになりつつある私としては、それほど気にすることは無いと言いたい。五年経った時に完熟していればそれで良しなのだ。むしろ、彼らに示したようにSの飲み頃や、食事とのあわせ方に醸造所内で十分な議論がなされる方が重要なのである ― これに関しては顧客からのフィードバックが大切であることを醸造所にそれとなく指導している。九月にはクリストマン氏とヴィットマン氏を迎えてお披露目をするようだが、招待状がこれば考える。
帰りに最後まで居残っていた、「二日続けて来る」と言うとレープホルツ親爺に「明日も同じワインしかない」と言われていた馴染みの夫婦づれと情報交換をした。ベッカーのベーシックなピノノワールとゼーガーのセメント味のピノノワールやバーデンのフーバーに関してである。
それにしてもレープホルツ親仁やそのおじいさんの言うことが私の言い草に近い。つまり、幾ら飲んでも飲んでも飲み飽きない、飲めるワインが日常消費の良いワインであり、勿論酔い心地が良いことである。同時に食事に合うワインとは感覚を鋭くして、その食事の味を引き立て、食事がワインを引き立てる感覚的な遊びなのである。その意味からも「エコノミラート」は凄い。
参照:
六月とはこれ如何に? 2011-06-07 | 試飲百景
辺境の伝統の塩味ピーマン 2009-05-26 | 試飲百景
偏屈者の国際市場戦略 2008-05-28 | 試飲百景
良酒に休肝日など要らない 2009-05-08 | ワイン