初めての指揮者ユロスキーの音楽、二回目のベルリンの最も古い放送交響楽団での指揮、二回続けて聴いた。今迄放送等で評価していた以上に幾つかの点に気が付いた。特に二回目は比較的関係が新しい管弦楽団で、辞めるロンドンのフィルハーモニカー指揮とはまた異なる面が見えた。
彼の言うチームワークという言葉が具体的に分かって来たと思う。この放送管弦楽団を生で聴くのは初めてなのだが、管楽器のソリスツなどはバイエルンの同僚には及ばないが弦のアンサムブルはそんなに悪くはない ― オーボエのボグナーニ教授は今まで聴いた女流の中で一番よく吹けていた、ロンドンのコッホより吹く。しかし、ユロスキーが敢えて指揮台を叩いて「おめでとうございます、拍手はここですよ!」と称えたコンツェルトマイスターやチェロの独奏などは恐らくバイエルンの方が上だろう。アンサムブルがプロシア風というか、同僚のフィルハーモニカーなどを彷彿させるものがある。所謂プロシアの規律というやつだ。
そうした管弦楽団を振って、第一曲のプロローグから二曲のとても興味深いアクセントと明らかにロンドンのそれよりも明白にそれどころか視覚的にも分かり易い形で表現される。また三幕でのトラムペットなどはよくもここまでロシア風の音を出させたなとその練習風景振りが気になった。
しかし、この指揮者がミュンヘンの前任者ペトレンコとは全く違うのは細かなことを押し付けない大らかさだ。特に木管楽器への指示はもう少し与えてもと思ったがとても大まかに吹かせておく。こちらがあまりにもペトレンコに慣れてしまったので正常な判断が出来なくなったかと思うほど、細かな表現の揺れはそのまま放置する。明らかにペトレンコの様に指揮棒で矯正が出来るのにと思うのだがやらない。その点からは、この人がヤンソンスの後任としてバイエルンに移れば本当に優秀な奏者がそこにいるならば間違いなくヤンソンス時代を超える。要するにチームワーク重視なのだ。
なるほど、家庭環境もそうであり若い頃から一流管弦楽団を振ったり客演したりを繰り返していると、業界の慣れが身体に沁み込んでいるのだろう。良い意味でも悪い意味でもコンサート指揮者慣れをしている。再来年からミュンヘンの音楽監督になるので、明らかに別の次元へと入って行く。気になるのは指揮の指示をどこまで出すようになるかで、歌手にだけでなくある程度出して行かないとやはり奈落では落としてしまう事が無いのだろうかと危惧する。
しかし、その反面、管弦楽団に特に技術的な冴えが無くても、音楽を表現させる力は抜群で、二時間以上の曲を全く緊張感を緩ませることなく指揮した。ヴェテラン指揮者の様に曲を良く抑えていると思わせる。最初の曲に続き何回か自然に拍手が沸いた。バレーを思い浮かべて拍手する観客もいたかもしれないが、それだけの音楽的な小山を幾つも作っていた。間違いなく、この指揮者はミュンヘンで大成功するだろう。それどころかバレーを振っても大きな話題になると思う。
予習では一幕は弱いと思っていたが、既に言及した様に音楽的な表現力は充分で、動機毎の描き訳が綺麗に浮かび上がり、二幕でも短調への扱いが劇以上にとても沢山の事を物語っていた。本番前に司会者が今回のこのプログラムへのユロスキー自身の編纂が世界初演で、続いてミュンヘン、ベルリンへと続くと強調していたが、ユロスキーのその音楽的な企画力はその効果で証明されていた。
三幕の「長靴を履いた猫」の所ではとても分かり易く、またポルタメントもとても効果的に使っていた。ポロネーズの扱いもとても自然で好感が持てた。チャイコフスキーにおけるグスタフ・マーラー的な側面だけでなく、ここではリヒャルト・シュトラウス的な管弦楽法上の扱いも作曲家自身が書いているように明らかになっていた。
そこでやはり気になったのは例えばコントラバスの刻みだったりと、まるで劇場の管弦楽団が弾くような若干お粗末な音も出ていたので、これは流石にミュンヘンの劇場ではもはや鳴りようが無いと感じさせる。我々からするとどうしてああいうのを放置するのかなという嫌いもあるのだが、客演などを含めてまたはモスクワの楽団などを振るとなると少々のことには目くじらを立てないというのが身に付いてきているのだろう。放送される月曜日の公演は演奏が良くなっているだろうか?
そして最後の王の音楽などがあれ程までに堂々と鳴らされると、一瞬にしてチャイコフスキーが帝政ロシアに於いてどのような位置にいたかなどがとてもよく分かるのだ。勿論とても夜長なコンサートの終わりにこうして鞭を入れて盛り上げる意味を熟知している指揮者であり、それと同時に音楽を通じて芸術を超え文化や歴史までを語る演奏会とする手腕は見事としか言えない。そしてチームの乗せ方も巧く、彼らへの気の使いようも尋常ではない。ドルニー支配人体制で空前絶後の大成功を期待したい。同時にヤンソンスの後任になるべく先ずはBR交響楽団でデビューして欲しい。
参照:
カジノの駐車場から帰る 2019-12-22 | 文化一般
交響曲をぶっ潰せ! 2019-12-18 | 音