Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

争そってはじめて学ぶこと

2009-12-03 | 雑感
裁判の日であった。前日から血圧が上がったようで、探し物などをして神経を尖らせていた。二回に渡って延長されたことで、事件から七か月も経過している。まるで嘗ての日本の重大犯罪の裁判日程のようだ。

少し早めにハイデルベルクの地方裁判所について停めた車のなかでラジオを聞く。前日から流れたダイムラー社の本拠地ジンデルフィンデンでのCクラスメルセデス製造中止の話題で朝からもち切りである。その会社の判断は正しく、既にスペイン生産などを中心に海外輸出していた履歴があり、今更とも思うのだが、たとえその代わりに高級社のSLクラスの組み立てを持ってきても本社工場の将来への構造的変化に繋がる事は間違いない。最後の砦であった自動車工業が海外へとその機能を移すことは本当のグローバリズムへの重要な契機となる。つまり米国市場で売るCクラスはドル安ユーロ高に影響されずに細かな対応が出来て尚且つ多大な有益となる。中国市場も然りである。もちろん労働組合側は危機感を持って土曜日の作業を拒否するとしているが、世界最高級のジンデルフィンデンの労働者貴族の工賃と輸送費などを加えるとCクラス一台辺り二千ユーロの生産コストの差が出ると言うから、このままおいておく訳にはいかない。高級車を高度な技で製造してこそその価値があり、将来的にはジンデルフィンデンは研究などに集中することになる。もちろん高度な熟練工の製造技術を無闇に絶やしてはならない。メリハリをつけることは重要である。

さて、判決は、異議申し立ての一応の目的を達したものとなった。若い裁判長女史に判決の礼を述べた。判決「免許停止一月処分の撤回と減点と罰則金の支払い」、「速度違反行為の事実関係は、計測やその他の状況説明の合致から、動かないが、本人の説明する ― その人間的信憑性から ― 危険な状況を回避するための止むを得ない処置としてのその行動を認知する。」

その結果だけを見ると、160ユーロも支払わなければならなく、二年間減点が付き纏う。しかし、途中退場して弁護士が説明するには、完全無罪を主張することも出来るが、そうなると裁判費用を敗訴する行政当局が支払う義務が出てくるため、控訴が予想されると言うのである。つまり、具体的証明能力のない当方にとっては更に難しい状況に追い込まれる。「速度表示を見落としたこと」と「速度超過したこと」そして「誤認識があったこと」、これは間違いなく当方の落ち度であり、この妥協案を受け入れた。

そして結果、必ずしも悪くはないと考えた。先ずなによりも危険回避の行動が認められたことから、「温情を求めた免停執行停止ではないこと」が裁判文書に刻まれること、要するに今後なにか事故に巻き込まれたときも「この公判事実が残る」ことは大きな成果だろう。そして、「人命尊重の判断」が認知されたことから、自身の法秩序への信頼が崩されなかったことは、今後の遵法精神の土台となる。もう一つ、意外に重要かも知れないのは、十年以上もなかった違反減点を一挙に貰って、遵法安全運転に一段と配慮した日々をおくれることだろうか。裁判長にも第二点の「法秩序への懐疑を避けたいがゆえの意義申し立て」であったことが理解されたようで、大変満足している。予想を越えた判決であり、裁判費用を保険から支出して大変貴重な勉強をさせて貰った。



参照:
知性に劣る民を卑下する美徳 2009-04-06 | マスメディア批評
書斎でほくそえむ確信犯 2009-04-30 | アウトドーア・環境
執行猶予期間を先送りする 2009-06-10 | 生活
何かが段々と見えてくる 2009-07-26 | 雑感
暗闇から鏡に映し出される 2009-09-19 | 雑感
醜悪を隠す被り物を取れ 2009-11-14 | 歴史・時事
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高等文化のシンクタンク

2009-12-02 | 文学・思想
フランクフルトの自由ドイツ高等文化協会など誰も聞いたことがないかもしれない。その実は、世界からの観光の人気スポット「ゲーテハウス」の中核を占める財団であり本年創立百五十年になるシンクタンクである。その創立場所や創立時期からある程度想像はつくかも知れないが、ドイツ近代文化の核心を占める「自由と革命」精神であるドイツェロマンティックが其処にある。なるほど世界的に注目される運動であるのは分かるのだが、その核心はドイツの1848年革命で実らなかった自由主義思想の知的な世界での実現の希求でしかなかった。シラーを初めとする故人に所縁のある面々から資料などが引き継がれ、クレメンス・ブレンターノらのロマンティックな文人を越えて19世紀末にはリヒャルト・ヴァーグナーなどの作曲家ら文化人が広くこのシンクタンクの後援者となった。

第三帝国時代は、その危険な自由主義思想ゆえに再三に渡って圧力が掛かったことは展示されているルドルフ・へスの手紙で事情が知れるのだが、ポーランド侵攻の戦争勃発から危険な状況は増したに関わらず定期的な講演会や催しものは続けられていて、フランクフルト市民の知的関心を満たしていた事が知れる。空爆の危機に慄いて、フランクフルト市美術館のファン・ヴァイクの「マドンナ」などと共に七台の塵運搬車でタウヌスの森へと疎開を果したと言うが、案の定直ぐにゲーテハウスも別棟の博物館も空爆を受けることになる。

そして終戦を前に当時のエルンスト・ボイトラー館長は、戦後には直ぐ再建する強い意志を会員であるカール・ヤスパースに書き送っている。戦後の再建計画への議論の中には、「飲み食いを困っている時に、先にする事がある」とする意見も文化人から出され、現在のベルリンの城再建計画のように激論が交わされたが、そうした意見に対して十分な準備が出来ていた事はその戦時中の意志表明から分かるような気がする。

しかし、現在でも殆どの者が素通りしてその存在すら留意しないその協会がそれほどまでに存在を主張する理由は何処にあるのか?それは、やはり創立当時に知的世界の重要性として、自然科学までを網羅していた教養や教育という啓蒙思想の根幹があったことと、職人の伝統や技能を重要視するフリーメーソンの世界観が基本にあったことが伺われる。

因みに戦後再建の定礎式には、戦時中当地のゲーテ大学を追われたアンドレ・ジードによって槌が打たれた



参照:
印象深い精神器質像 2009-11-20 | 雑感
トンカツで流感感染に備える 2009-11-21 | 生活
欧州のユダ、ユダヤの欧州 2009-10-28 | 歴史・時事
石壁よりも堅い「友愛」哲学 2009-09-02 | 文化一般
山羊の競り落とされる日(番外3) 2005-05-21 | 暦
コメント (4)
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不思議な言葉の文化的感覚

2009-12-01 | SNS・BLOG研究
言葉の不思議のようなものを感じることがある。それは文化体系が固有している記号論的な意味合いよりも、さらに具体的な生活感覚のようなものがそこに伴うからである。

Aufhoerenという動詞はやはり不思議なのだ。「止む」とか の意味で「始る」のAnfangenと対になる言葉である。ドイツ語の動詞は、幹となる動詞に接頭語がついて似通った動詞群を構成するが、この場合のHoerenの「聞く」の意味は止むの意味には一切関係ない筈である。WIKIにはそのものAufhorchenの「聞き耳を立てる」という言葉が挙げてあって、同じような危険な状況にあってぢちらかといえば消極的に耳を済まして環境を値踏みする行動である。それには、「じっとする」積極的な行為がその前に存在する。つまり止めるのである。

このようにみると如何にもゲルマン民族が狩猟民族で、自らの逸る鼓動を感じながら深い森で獲物の動きにじっと息を潜める雰囲気さえこの言葉が伝える。実際にそれがまたItなどの仮主語によって表現されるときに、使用言語がもつ文化的な意味に彩られるかもしれない。

そうような意味の相違は、モスクワで何十年振りかの「ヴォツェック」の新演出がドレスデンからの引っ越し公演とかで実現したというが、そもそもソヴィエトを代表する作曲家の一人シュスタコーヴィッチなどへの、その1927年のペテルスブルクにおけるこの作品のロシア初演が与えた影響が語られる時も、美学的な相違としてのそれが語られる。

作曲家アルバン・ベルクの弟子のアドルノが認めるように、ビュヒナーの創作自体が大変優れた十九世紀前半の自然科学者的な視線で描かれていると同時に、二十世紀前半を代表するオペラ作曲家ベルクのオペラ化でフロイト的な二十世紀の心理劇の光りが与えられた事は否定しようがない。なにも音楽の形式や調性の相対的な視座を持ち出すまでも無く、そこにおいて鋭く発声される台本の言葉の記号論的な意味につけられた音を受け取るだけで十分である。



参照:
雨がやみました (☆ ドイツに憧れて ~ in Japan ☆)
ヴォッツェック鑑賞 (ワイン大好き~ラブワインな日々~)
そのもののために輝く 2006-11-13 | 生活
瞳孔を開いて行間を読む 2006-10-22 | 音
印象の批判と表現の欠如 2006-03-11 | 文学・思想
意志に支配される形態 2006-01-05 | 音
ある靴職人の殺人事件 2006-01-04 | 文学・思想
コメント (3)
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