1977年
このほどフィアンセのスー・ホールストロームさんと連れだって来日した鯨の救世主ロバート・レイノルズ投手が26日川崎球場でナインと合流、初練習を行った。上半身の発達した白鯨を思わせる183センチ、93キロ、一見プロレスラーのような巨体にアフロヘアがよく似合う憎いヤツといった感じ。レイノルズは目下、フィアンセのホールストロームさんと同せい中。今年のシーズンオフには、アメリカに帰って結婚するのだそうだ。「彼女はうまく適応したみたいだけど、オレはまだ朝の5時に目が覚めたりするんだ。できることなら彼女と変わりたいよ」時差ボケがまだ完全に解消されないらしく、眠い目をこすりながら午後2時前、シピンの車に同乗して球場入りしたレイノルズ。さっそく別当監督とご対面だ。「首を長くして待っていたよ」と監督が手を差し出すと、グラブのような大きな手で「よろしく。頑張ります」とガッチリ握手。待ちこがれていた恋人だけに、監督の表情は崩れっ放しだ。「全試合投げてもらうぞ。ハードワークだ」とハッパをかけられると、口を真一文字に結んで愛きょうのある顔を作り、大きくうなずいてみせた。ユニホームに着替えるとシピンとともにグラウンド入り。すでに練習を始めていたナインが右翼に集合し、牛込マネジャーがレイノルズを紹介する。「今度入団したロバート・アレン・レイノルズ投手です。呼び名はボブ、あるいはタマの速いことからブリット(弾丸)と呼んでください」無言のまま笑顔を作り大きくうなずいてあいさつするレイノルズを、全員が拍手で迎えた。晴れて鯨の一員となったわけだ。さあ、初練習だ。いよいよそのベールを脱ぐ。軽いキャッチボールを6球。ノーワインドアップでテークバックをほとんどしないスナップスローに近い、なんとなく心細くなるような投球フォームだが「アメリカでもコーチからテークバックを大きくしろといわれていたが、自分としては長い間このフォームでやってきたし、変えるつもりはない」とレイノルズ。別当監督も「腕力で投げるタイプ。上半身さえしっかりしていれば問題はない。タマはよく伸びているし、速くて重い球質だ」とニンマリ。レイノルズのデビューは5月3日の巨人戦が予定されているが、ライト、王の話になると顔を真っ赤にしてまくし立てた。「オレのブリットはアーロンでさえ打てなかったんだ。だから王にも打たせないよ。ライトにももちろん、負けないサ。負け犬はオレは大きらいだ」体もデカイが、いうこともデカイ。こりゃ、やっぱり、大物ダア!果たしてー。なお、球団では呼び名をブリットにすることを決めた。
「ブレットです。よろしくネ」投の助っ人、ロバート・アレン・レイノルズ投手の登録名が相性のブレットに決った。愛称を登録名にしたのは南海のブレイザー(燃える男)に次いで2人目で、本人はブレットに大喜び。ブレットの意味は弾丸。速球が弾丸のように速いところからつけられた愛称だが、投球間隔の短さもまさにブレット。別当監督は「ブレットで巨人をギューッといわせてみせるぜ」と、大変な意気込みぶり。もちろん、ブレットの意気込みようも別当監督以上で「3イニングぐらいなら毎試合登板してもOKヨ」さてされ、ブレットがブレット投法のブレットで巨人を打ち殺すことができるか。
ブレットが来日して約1カ月になるが、「おはようございます」「こんにちは」と日本語も大分達者になってきた。そこで、次に覚えた日本語がなんと「気狂い」実はこれ、ライト(巨人)の大暴れぶりを書いたスポーツ紙を牛込通訳に読んでもらい、その見出しを覚えたもの。「ライト、気狂い。奴はアメリカでは有名な気狂いだったんだが、相変わらずだな。オレ?オレは違うサ、時々気狂いになるけど…」といっていたブレットだが、ライトも真っ青の気狂いぶりを見せた。5月28日の広島戦で先発して2回でKOされると、ロッカールームに引き揚げるなり、バットをロッカーに叩きつけて2本折り、灰皿まで蹴飛ばす暴れぶり。これには球場職員のオバさんたちも「怖い、怖い…」