想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

土の匂い 四度目の春

2015-03-08 23:20:57 | Weblog

遠く北米の自然のなかにいると、人の気配がなくていい。
とつぶやいている人がいた。雄大な森林の写真を添えて。
都会に憧れたり、自然に憧れたり、ヒトはわがままである。

で、ここはというと、東北の一番南の端っこであるが、
けっこう北国の風情もあって、夏は涼しくて避暑にいい。
そして何よりも、人の気配がない、それがいいのである。
北米まで行かずとも、静かで人知れずな場所はあるだろう。
たまにならいいが、そこに居続けるのを望む人は少ないからだ。

wifi電波届かず、コンビニ無し、遅れて届く郵便物、
注文しにくいネット通販。恐ろしく降る雪となかなか来ない除雪車。
そういうのに慣れれば、幸せなところだ。
ああ、こないだはハヤブサが迷子になってやってきた。
野生のではなく通信機をつけたハヤブサだ。
あとでやってきた不審人物は受信機を持った動物園の職員だった。
裏山や周辺をしばらく歩き回っていたが、あきらめて帰って行った。

で、…ここはうち捨てられた土地なので、人気はなくて当然である。

満州開拓団の引揚者が政府から割り当てられ住んだそうだ。
だが、気候が厳しすぎて作物が育たたなかった。
日照時間が少ないし、開墾するには傾斜が多くて広い畑はできない。
炭焼きするほどの山でもない。
みな下の方へ降りてしまった。

ある日、駅前からタクシーに乗った。
道案内もせずにすいすいと山道を行くので、どうしてわかる
のだろうかと変な気がしていた。
運転手さんは、ここ、ここ、おいらの畑があったとこさ、
急に指さして言ったのである。びっくりした。
そこは雑木林がいったん途切れ、樹木の高さがそこだけ低い。
だから日当りがよくて、雪解けも早い場所だ。といっても
まだたくさん残っているが。

そのおじさんは、他の人とは違うことを言った。
こんなとこさ、よく住むねと言われることは多いのだが、
いいとこだべ、川があるっぺ、広かったぺ、水が澄んで、
と懐かしそうにしばらく眺めていた。
運賃メーターを途中で止めて。

うちの裏に流れる小さなせせらぎは、昔はもっと幅があった
そうだ。水量も多かったという。
土砂が崩れ埋まり、片側は浸食して蛇行し、幅1mくらい
になっている。周辺は湿地だから夏になると溢れてくる。
水の流れは途中、道を横切り、おじさんの畑だったところまで
ずっと続いている。今では川とはわからないが。

作物が育たないので、小さな集落はやがて誰もいなくなった。
便利なところに移り住み、半世紀が過ぎ、ようやく老後を
楽しめる時が来たわけだが。
放射能が降ってくるとは思わなかっただろう。
海辺からこんなに遠くまで。

集落は兼業農家が多い。
庭先に、野菜畑とバラの花畑が隣あっている家が点々とある。
道路沿いは、春から一斉に花が咲き乱れる。牧草地の緑。
そこを走って家へ帰る。
自慢したいような景色だった。

どの家の庭も、山砂を撒いた黄土色と除染なかばの、ひっくり
返した黒い地面しか見えなくなった。
通るのが苦痛である。
ほんとうに苦しくなる。
大げさでなく、辛い、胸が痛くなる景色になってしまった。
また、元に戻るさ、戻すべ、とおじさんは言ったが。



山に戻ると、樹の根元にきれいに円を描いて土が顔を出していた。
土はすこしは生き返ったろうか。
樹は元気を取戻したろうか。
もうじき春がくるね。




仮置き場のフレコンバックを中間貯蔵施設へ早く移動させて
欲しいと思うけれど、双葉や大熊町の人々は土地を失う。
そのことをすまないと思う。
石原元環境大臣があとは金の話と言ったが、そうじゃない。
金ではなく、心の問題なのである。
心の問題を金で片付けるのはとても難しいのだ。
そんな大事なことを知らない者が背広を着て、握手をして、
未来を語る。我欲のために嘘をつく。
いやらしい奴ら。
わかりやすすぎる嘘なのに、と思うのだが…

黙っているとひとでなしに国も土地もくいつぶされてしまう。
黙ってないんだかんな、と歌う友川かずきの歌声が、応援歌
のように聴こえる。





コメント
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