林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

遠慮名人の後悔

2007-11-02 | 拍手

  色絵金銀彩羊歯大飾皿 富本憲吉

 ドナルド・キーン先生は「遠慮名人」、と自称している。
そして、名人であったことを後悔している。

・後悔することは大体、何のためにもならないが、50年を超える日本での生活を
 振り返れば、やはり後悔がないとは言えない。

そうである。そして具体的に後悔している事柄をあげている。
  
・始めに、留学生だった頃、骨董品が安かったが、学者だから本ばかり買っていた。
 いまその本は粗末な紙質のために粉になってしまい、読めないものが多い。
 美しい骨董品を買っていなかったことを後悔している。

ここまでは普通に読めたけれど、以下がもの凄い。それを要約します。

・雑誌に民芸運動「批判」記事を載せたら、富本憲吉が記事を褒めてくれた上に、作
 品を一つ贈ろう、と言われた。
・マンションを探しているときに、吉田健一から、ウチにしばらく泊まらないか、と。
・川端康成からマンション購入祝いに、長持ちを差し上げる、と。

キーン先生は、これらの素晴らしい贈り物を、日本の遠慮文化を習得している事を示し、毎晩の晩酌に付き合うのは大変だし、マンションは狭いので、断ったことを後悔している。

ただ、一時帰国する際に、谷崎純一郎から、お土産は何がいい?、と聞かれて、いっぱしの粋人であることを見せるために、谷崎夫人の狂言小舞を所望し、願いは叶えられて、それはそれで満足した。
しかし本当は大谷崎の色紙も欲しかったらしい。

それで、先生の教訓は、

・尊敬する人が物を下さる好意を示す場合、躊躇無く頂かないと、相手はガッガリ
 するだろうし、自分も後々まで後悔するだろう。

と書いている。

う~む。羨ましいなぁ。
森男だったら躊躇無く頂いてしまい、後悔なんかしないだろう。
長持ちは頂いて、中で寝起きしているだろう。

キーン先生には失礼だが、例のジュゴン前事務次官である。

前次官は打ち出の小槌のような素晴らしい親友に恵まれて、自分ばかりでなく夫人や部下や、怪しい先生たちにまでご馳走や贈り物をした、はずである。

森男も貰い名人だから、家族どころか近所の方々までお裾分けして、今頃はもしかしたら、社長か市長になっていたかもしれない。
つくづく親友作りに失敗したことを後悔している。
ま、相手だって、お互いさま、と後悔してるだろうが.......。

ただ、前次官のような体力を親から授からなかったけれど、あり難い親友がいなかったので、糖尿病で失明もせず、片足を失うことも無かったことは、不幸中の幸いではあった。

前次官は、現在、どんな心境だろうか?
大勢親友がいる。後悔なんかしてないやね。
元親分は病院に逃げ込み、親友たちは知らん顔。
きっと、怨んでいることだろうね。

 

朝日新聞11/1付け「遠慮の名人 私の後悔」ドナルド・キーン氏随筆を材料にしました。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿