・・・秋刀魚苦いかしょっぱいか・・・
というところだけ覚えていた。
そもそもこの長い詩を、全部は読んではいなかったのだ。
確か、高校で教わったような気がするが........。
いや、そんなことはないだろう。
何故なら有名なこの詩、とんでもない状況下で作られたのだ。
つまり、佐藤春夫は奥さんに逃げられ、兄貴分の谷崎潤一郎の千代夫人に片思いをしていた。これはその時作った詩なのだ。
谷崎潤一郎は変わった性癖があった。自分の熱い身体で、女の冷たい身体を暖めてやるのが好みだった。
芸者上がりの千代夫人、その妹の映画女優の葉子、後に門弟3千人の文豪になった佐藤春夫、千代夫人の愛人......、等々がこんがらかってのどろどろ。
佐藤は千代夫人に同情し、やがて恋になり、千代夫人は別の小説家志望の青年と不倫し、谷崎は佐藤と絶交し......。
その後、千代を佐藤に進呈し、そのことを関係者3人連名の新聞広告を出し、世間を唖然騒然とさせたのだ。
以上は瀬戸内寂聴著「奇縁まんだら」の「佐藤春夫」に書いてあります。
本にはもっと詳しく、ややこしく、面白く書いてありますので、お読み下さいね。
そこで「秋刀魚の歌」のおさらいです。
「秋刀魚の歌」
あはれ
秋風よ
情あらば
伝へてよ
.......男ありて
今日の夕餉にひとり
さんまを食ひて
思ひにふける と。
さんま、さんま、
そが上に青き蜜柑の酸を したたらせて
さんま食ふはこの男のふる里の ならひなり。
そのならひを あやしみ なつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎ来て 夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする 人妻と
妻にそむかれたる男と食卓に むかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男に さんまの 腸をくれむと 言ふにあらずや。
あはれ
秋風よ
汝こそは 見つらめ
世のつねならむ団欒を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証せよ かの一ときの団欒 ゆめに非ずと。
あはれ
秋風よ
情あらば 伝へてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児とに伝へてよ
.......男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
涙をながす と。
さんま、さんま
さんま苦いか 塩っぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふは いづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは 問はまほしくをかし。
嗚呼、文語はじれったいね。
テンやマルがどうも滅茶苦茶だし、1文字開けたり開けなかったり、だ。また、
げにそは 問はまほしくをかし。
とはどういう意味だ?
どうも佐藤春夫の秋刀魚は生焼けだ。
まだ勉強が足りぬ。