大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・改 001:今日からやさかいに

2025-03-06 15:26:32 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
001:今日からやさかいに   
 
『せやさかい』は年号がまだ平成であった2019年3月から2025年2月まで6年に渡って連載してきた愛着のある作品です。手を加えたいところが随所にあるのですが完結するまではと控えておりました。練り直して良くなるとは限りませんが、3年ほどかけて改定することにいたしました。初稿を読まれた方、本稿から読まれる方、拙い作品ですがお付き合いいただければ幸いです。


 
 ここで降りるん?

 財布を出したお母さんは「そこで停めてください」と運転手さんに言う。

 お祖父ちゃんの家は、ここからやと、まだ五百メートルはある。いつもは、お祖父ちゃんの家の前で降りるんやけど……ひょっとしてタクシー代にまで困ってるんやろか……(-_-;)?

「今日から住むとこや、どんな街か知っとかならあかんやろ。ほら、こっちが堺東の駅の方角や」

 タクシーでやってきた四車線の北を指さすお母さん。駅に着いた時に降ってた雨は上がってお日さんが顔を出してる。せやけど、道路は、まだまだ水浸し。おニューの靴で歩いて行くのは気が進まへん。

「そんで、そのファミマの横を西に入っていくんや」

 運転手さんがトランクから荷物を出してくれる間にザックリと説明。「そんなん分かってるわ」と言うてみるけど、ファミマが目印やったのは初めて気ぃついた。お母さんに素直になられへんのは、この四月で中学生になる思春期のせいばっかりやない。

 ないけど、胸に仕舞い込む。

「信号青」

 スマホに気ぃとられてるお母さんに言う。「分かってる」と返すお母さんもツッケンドン。お母さんは、ええ歳して、どこか思春期を引きずってるようなとこがある。言わへんけど。

 信号を渡ると住宅街。

「角を二つ曲がるよって、よう覚えときや」

 いままでは堺東の駅からタクシーで来るばっかりやったから、しょうじき道は分からへん……大人しい付いていく。

 三階建てのマンションが見えたとこで、お母さんがクイっとうちの首を捻る。

 ウグ(;'∀')

 左手にキャリーバッグ、右手にスーツケース持ってるからしゃあないねんけど、せめて「右に曲がる」くらい言うてほしい。

 チラ見したら、ちょっと目尻に力が入ってるしぃ。

「今のが、介護喫茶の『ひらり』覚えたか?」

「うん『ひらり』」

 次の曲がり角は駐車場やったけど、今度は言わへん。

『ひらり』からパンのええ匂い。けど食べたいとは思わへん。

 道を覚えならあかんし。

 お母さんの胸にも、いろいろ迫ってくるもんがあるんやろと思て、駐車場の『コトブキパーキング』の看板をしっかり覚える。

「『コトブキパーキング』!」

 ビシ

「指さし確認はせんでよろしい」

「「ハーーーー」」

 親子そろてため息、ちょっと気まずいけど互いに知らん顔しとく。


 わたし、田中さくらは今日から酒井さくらと名前を変えて堺の街で生きていきます。


 ちょっと振り返った道の向こうには小高い山が見える。

 それがニントクテンノウリョウやと思いだしたころにお祖父ちゃんの家の前に着く。

 お祖父ちゃんの家には大きな屋根付きの門がある。門には『安泰山如来寺』の看板がかかってる。

「いくで」

 実家に入るのに「いくで」はちゃうやろと思うねんけど「うん」と返事して足を踏み入れる。

 そのとたん。

「ヒヤ( ゚Д゚)!」

「なにぃ……いや(;¬_¬) ?」

「ちゃうちゃう、屋根の水が落ちてきて背中に入ってん」

 ほんまに水が落ちてきたんやけど、うろんな顔のお母さん。

「……そうなんだ」

 口グセの東京弁を言うと、ズンズンと庫裏に向かって歩いて行く。

「ハーーー」

 ギロ

 無意識にため息が出て、またお母さんに睨まれる。

 見上げた空は完全に回復して青空が覗いてる。

 せやけど。

 わたしの心はお天気ほどには切り替わってわいてません。


 せやさかい。


 顔は、まだこわばったままです。


 
☆・・主な登場人物・・☆
  • 酒井 さくら   安泰中学一年 この物語の主人公
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
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銀河太平記・284『北京のボスは月城かける』

2025-03-06 08:37:39 | 小説4
・284
『北京のボスは月城かける』 ツナカン 




 春すみれ咲き~春を告げる~ 春 何ゆえ人は汝を待つ~(^^♪


 せっかくケツを寄せて空けたベンチには座らずに池のほとりの方に行って季節外れのテーマソングを歌うかけるさんっす。

 かけるさんは『月城かける』って名前で、まるで宝塚の男役みたいなんすけど、じっさいに元宝塚ジェンヌっす。

 とりあえず北京に来たのはいいけど、金もドヤも無いんで、とりあえず仕事を見つけなきゃ殿下の捜索もできねえ。

 どうしたもんかと、職業紹介所でキョロキョロしてたら声をかけてくれたのがかけるさんなんす。

「あら、よかったらうちで働いてみない~?」

「え、自分っすか!?」

「うん、美人だし、馬力ありそうだし、ギャップ萌えって感じがいいわ」

 どうも、求人票を声を出して読んでたみたいで、職員のオネエチャンなんかがクスクス笑ってて、その様子が気に入って声をかけてくれたらしいっす。

「……で、お名前は?」

 その日の寝床にも困っていたんで、熱っぽく自己アピールして、それをニコニコ聞いてくれて、最後に名前を聞かれたっす。

 ツナカン……では漢明っぽくないんで、一瞬詰まったら、紹介所の前の道を猫が二匹歩いてるのが見えて「猫猫っす!」と答えたっす。

 それ以来、かけるさんが所長を務めるシマイルカンパニー北京支店の臨時雇いをやってるというわけっす。


 すみれの花~~ 咲くこ~ろ~~~(^^♪


 最後まで歌いきって、ようやく自分の横にケツを下ろすかけるさんっす。

「三里屯の営業、おつかれさまでした、お得意さまを周ってきたけど、どこも売り上げ伸びてて喜んでくださってるわ(^▽^)」

「そうっすか、いやあ、力入れて周った甲斐があるっす(^_^)!」

「ウフフ、なんべん聞いても猫猫のギャップ萌えは癒されるわ~」

「あ、恐縮っす(#*´ω`*#)」

「言葉は荒っぽいけど、カラッとしてて毒が無いし、北京の女の子たちにも受け入れられそう。そう、それでねアクセとかファンシーグッズだけじゃなくて、アパレルの方もね」

「え、衣料品もっすか!?」

「うん、トラッドなものとかイノセントピュアとかをね」

「イノセント、清楚系っすか!?」

 元々が戦災孤児のツナカンっす、清楚なんてありえねえっす!

「うん、そのままでもいいんだけど、ちょっとヤンチャにアレンジとか着こなしてみるとか、そういう線よ。ほら、たとえばぁ……」

 かけるさんがハンベをタップすると、ラブストーリーの古典『ローマの休日』のオードリーが出てきたっす。

「オードリー王女さまのファッションとかが典型だと思うの」

「あ、なーる……」

 ロングの清楚姫が、ローマで一日好きに過ごしてみようと決心、ブラウスを半袖に、リボンは外して首にはバンダナ、髪はショートの巻き毛。

「足のサンダルもいいっすね!」

「あ、こういうのヘップサンダルっていうんだけど、この映画でオードリーが履いたのがきっかけなのよ」

「へえ、そうなんすねぇ」

「ま、そういう線で営業してみてよ」

「ガッテンっす!」

 かけるさんは仕事も人を使うのも上手いっす。

 シマイルカンパニーは、世界を股に掛けるブランドなんすけど、重役と言っていいかけるさんは、自由にやりたい仕事をやってるっす。

 漢明じゃ、上海と香港に支社があるんすけど、かけるさんはあえて政治都市の北京っす。

 世界的な企業ともなると、政治的な風向きにもアンテナを張ってないといけないんすねえ。それも、肩ひじ張らずに力を抜いてねえ。

 ちょっと、うちのボスのアルルカンに通じるものがあると思った北京の秋っす。

 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 
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