ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第115話《最後の七不思議・1》さくら
「起立」の声がかかって――アレ?――っと思った。
いつものところからじゃなく、廊下側の後ろからだったし、声が違う。
続く「礼、着席」の声で気づいた。
いつもの米井さんじゃなくて、副委員長の加藤さんだ。
米井さんは休んだことが無い。まして今日は七不思議の最後を取材しなきゃならない日だ。こんな日になんの連絡もなしに休むわけがない。
わたしと米井さんは、夏休みにTデパートで佐伯君といっしょのところを見かけるまでは、ただのクラスメートだった。それがチェーンメールのことが問題になることで、その容疑者と思われ、怖い顔で文句言われた。でも、それがきっかけで、その容疑が晴れると共に友達になっていったんだ。
それからは文化祭の『帝都の七不思議』を一緒に取り組むようになった。スマホ番号の交換もやって、恵里奈、マクサと同じくらいに親友になりかけていた。
「米井さん、なんでお休みなんですか?」
いつもの米井さんじゃなくて、副委員長の加藤さんだ。
米井さんは休んだことが無い。まして今日は七不思議の最後を取材しなきゃならない日だ。こんな日になんの連絡もなしに休むわけがない。
わたしと米井さんは、夏休みにTデパートで佐伯君といっしょのところを見かけるまでは、ただのクラスメートだった。それがチェーンメールのことが問題になることで、その容疑者と思われ、怖い顔で文句言われた。でも、それがきっかけで、その容疑が晴れると共に友達になっていったんだ。
それからは文化祭の『帝都の七不思議』を一緒に取り組むようになった。スマホ番号の交換もやって、恵里奈、マクサと同じくらいに親友になりかけていた。
「米井さん、なんでお休みなんですか?」
「ご家庭の事情……としか言えないわ。ごめん」
朝礼終わって、担任の水野先生に聞いても要領を得ない。先生も詳しいことは分からないようだった。
水野先生は、普段は亜紀ちゃんと呼ばれている。歳が近いせいもあるけど、ウソを言うときには女子高生みたいに目線が逃げるので、非常に分かりやすい。その亜紀ちゃんの目線が逃げなかったので、本当に知らないのだろう。
想像力のたくましいわたしたちだけど、お父さんの会社の問題とかお父さんの浮気がバレて大変なことになってるとか、強盗が入って人質になり、学校にも「家庭事情」としか言えないとか、今思えば下衆の勘繰りみたいなことしか頭に浮かばなかった。
いかに普段から安物のラノベくらいしか読んでいないことが分かる。ちなみに強盗説はバレー部の恵里奈。こいつは吉本新喜劇の観すぎ。
朝礼終わって、担任の水野先生に聞いても要領を得ない。先生も詳しいことは分からないようだった。
水野先生は、普段は亜紀ちゃんと呼ばれている。歳が近いせいもあるけど、ウソを言うときには女子高生みたいに目線が逃げるので、非常に分かりやすい。その亜紀ちゃんの目線が逃げなかったので、本当に知らないのだろう。
想像力のたくましいわたしたちだけど、お父さんの会社の問題とかお父さんの浮気がバレて大変なことになってるとか、強盗が入って人質になり、学校にも「家庭事情」としか言えないとか、今思えば下衆の勘繰りみたいなことしか頭に浮かばなかった。
いかに普段から安物のラノベくらいしか読んでいないことが分かる。ちなみに強盗説はバレー部の恵里奈。こいつは吉本新喜劇の観すぎ。
――兄が亡くなりました。詳しくは後で。由美――
昼休みに、このメールが入ってきた。
米井由美は弟と二人姉弟だ。兄と言えば、この夏に双子の兄と分かった佐伯君しかいない……。
そうだ、佐伯君は不治の病で入院していて、七不思議の取材協力にも病院から来ていたんだ。
米井由美は弟と二人姉弟だ。兄と言えば、この夏に双子の兄と分かった佐伯君しかいない……。
そうだ、佐伯君は不治の病で入院していて、七不思議の取材協力にも病院から来ていたんだ。
見かけは元気で乃木坂の制服着てるもんで、あたしたちは頭から抜けていた。帝都の女生徒らしい抜け方だ。昨日気まずいことがあっても、今日が楽しければ、そんな気まずさは忘れてしまうという長所でもあり、短所でもある。
「いまSセレモニー会館に兄といっしょにいます。明日は通夜で込み合うので、来てくれたら嬉しいです」
「え、亡くなった夜がお通夜とちゃうのん?」
恵里奈の素朴な質問にマクサが答えた。
「亡くなった夜は、故人と、ごく親しい者だけで過ごす、仮通夜ともいうの。いわゆるお通夜は本通夜と言って儀式だから、本音の話なんかできない。由美、きっとあたしたちに話があるのよ」
さすがにお茶の家元。洞察力が違う。
地下鉄を一回乗り換えて三つめの駅で降りる。
地上に出ると「Sセレモニー会館こちら」の看板が目に飛び込んでくる。ファミレスやパチンコのそれと違ってモノトーンの案内板は、地味だが、かえって目立つ。
会館に着くと「佐伯家控室」の白地に黒の案内が出ていた。
「いまSセレモニー会館に兄といっしょにいます。明日は通夜で込み合うので、来てくれたら嬉しいです」
「え、亡くなった夜がお通夜とちゃうのん?」
恵里奈の素朴な質問にマクサが答えた。
「亡くなった夜は、故人と、ごく親しい者だけで過ごす、仮通夜ともいうの。いわゆるお通夜は本通夜と言って儀式だから、本音の話なんかできない。由美、きっとあたしたちに話があるのよ」
さすがにお茶の家元。洞察力が違う。
地下鉄を一回乗り換えて三つめの駅で降りる。
地上に出ると「Sセレモニー会館こちら」の看板が目に飛び込んでくる。ファミレスやパチンコのそれと違ってモノトーンの案内板は、地味だが、かえって目立つ。
会館に着くと「佐伯家控室」の白地に黒の案内が出ていた。
旅館の入り口みたいなところに『佐伯家』のぼんぼりがあった。
「失礼します」
あたしが代表で声をかける。
………………。
入ったところで畳の上に座ったけど、それ以上の声がかけられない。米井由美は兄の骸の前で俯いて、必死に悲しみに耐えていた……。
「失礼します」
あたしが代表で声をかける。
………………。
入ったところで畳の上に座ったけど、それ以上の声がかけられない。米井由美は兄の骸の前で俯いて、必死に悲しみに耐えていた……。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
- 周恩華 謎の留学生