大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 37『目の前の函谷関』

2021-10-09 13:02:15 | ノベル2

ら 信長転生記

37『目の前の函谷関』  

 

 

 東に進んだ信玄と謙信は三十分ほどで戻て来た。

 二人とも――こちらは違う――と思い至ったらしい。濃霧の川中島で、何度も互いの居所を探り合った戦国武将の勘が働いたのだろう。

 そして、その勘の通り、眼前の薮の向こうに巨大な関城が見えてきたのだ。

「函谷関か?」

 信玄が呟く。

 函谷関と言えば関中と中原を隔つ中国の関所だ。

 

 それが、途中に森があるとは言え、こちらの世界と繋がっているのは面妖だ。

 JK言葉で言うなら「あり得な~い!」になる。

 だが、四人とも見てくれは美少女JKだが、中身は天下無双の戦国大名と剣豪だ。草に伏して「ムムム」と木の間隠れに見える城壁を窺うばかリ。

「初めて見るよ、函谷関……」

 謙信は目を細めて、函谷関が現前に存在していることを楽しんでいる風だ。

「どっちの函谷関だ?」

 信玄は冷静に観察を続ける。

 どっちの函谷関と呟かれると、並の人間なら――何を言ってる?――と首をひねるだろう。

 しかし、俺たちは戦国の三傑と剣豪なのだ、歴史上函谷関が二つあることは承知している。

 函谷関には、秦の孝公が作った旧関と、前漢時代に新安に設けられた新関とがある。他にも魏が設けたものなど函谷関と銘打っているものが複数あるが、三国志を代表する関であるのだから、二つのうちのどれかだ。

「袁紹が現れたのだから旧関ではないのか」

 俺は関所には興味は無い、関所の堅門を潜って来る敵を警戒する。

「三層の楼門が二つある……様式から言って古関の方だ」

 武蔵は関の建造物の様式から判断する。

「古関なら、先月のキングダムで舞台になっていた方だ。楚・趙・魏・韓・燕の五国合従軍が攻撃してきたが、政や信の活躍で見事に合従軍を撃退するんだよ。自分の謙信という名に『信』の字があることを、ちょっと誇りに感じたよ」

「儂は、政の心の強さに見習うものを感じたぞ」

 二人とも、しっかり見ているんだ(^_^;)

「アニメの城壁は誇張してあると思っていたが、現物もなかなかのものだな」

 なかなかのものと言いながら、信玄は、なにか楽しそうだ。

 戦の名人は、攻めにくい城塞を見ると、理屈抜きで嬉しくなるもののようだ。

「城壁も城壁だけど、問題は、あの向こうにどんな軍勢が居て、どんな準備をしているかだね……」

 謙信は、城壁の向こう、軍勢の配置や規模、性格や特徴を気に掛けている。

「数万の軍勢の気を感じる……しかし、突けば爆ぜるほどには張り詰めてはいない、ここで大攻勢をかける気持ちは無いようだ」

 武芸者らしく、立ち上る気で闘志を計る武蔵。

 俺の結論ははっきりしている。

「向こう側に行ってみなければ、本当の所は分からん」

「信長の言う通りだ、いったん引き上げて、対策を考えよう」

 信玄が立ち上がろうとすると、武蔵がスカートの裾を掴む。

「物見の兵が来る」

「……近いようだね」

「切る」

「待て、武蔵!」

 通学カバンの中の脇差に手を伸ばした武蔵を信玄が押しとどめる。

「あいつらを切ったら、騒ぎになる」

「一人も撃ち漏らさない!」

「じゃなくて、物見が帰ってこなければ、すぐに中の部隊が動いて、この人数では対応できなくなるよ」

「仕方ない、女子高生らしく振舞ってやり過ごすしかない。いいな、謙信、信長」

「「ああ」」

「わたしにも聞け」

「武蔵は、気分が悪くなって動けない子にしよう」

「なぜだ、信玄?」

「おまえが敵と目を合わせたら、ぜったい切り合いになる」

「そんなことはない、おい、なにをする!」

 信玄は謙信と二人で武蔵を草の上に横にした。

「お前の殺気はハンパじゃないんだ。信長、ハンカチを濡らして、武蔵の目にあてろ」

「承知」

 なるほど、武蔵を具合の悪い女生徒ということにして、問題の三白眼も隠してしまおうということだな。

 武蔵もいやいやながら承知して、道に迷った四人連れの女子高生ができあがった。

 ザク チャラ ザク チャラ ザク チャラ

 武装した物見の足音と具足の音が近づいてきた……

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

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