頑固爺の言いたい放題

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カキ缶詰を鍋物に使うアメリカ人

2017-07-06 16:11:00 | メモ帳

(この投稿は私の元勤務先のOB会報に掲載したものを骨子として、このブログ用に組み立て直したものである)

グローバルな視点では、カキ(オイスター)の缶詰には燻製と水煮の2種類がある。燻製はアルコール飲料のつまみとなり、水煮は料理食材として使用される。

米国では、ニューオルリーンズを中心とするルイジアナ州がカキ缶詰の主要生産地だったが、20世紀半ばに同州でカキの養殖産業が衰退し、さらにカキの手剥き作業に人が集まらなくなって、生産者は1950年代から1960年代にかけて、日本を供給源とする輸入販売業者へと転身した。そして、日本でも同じ問題がおきて、1970年代から供給源は韓国に変わった。(このルイジアナ州の缶詰メーカーの転身をサポートしたのは日本の総合商社であり、私自身もその一端に関与していた)

さて、日本では、燻製も水煮も需要がなかったので、国内用には販売されなかった。しかし、燻製は最近国分商店のカンツマ・シリーズの一つになって、ファミリーマートの人気商品に成長した。しかし、水煮は需要がないために、今後も製造・販売されることはないだろう。

一方、米国では1960年代以降もずっと韓国産のカキ缶詰が大量に輸入されており、ミシシッピー川流域を中心とする内陸部が主な消費地域となっている。

では、なぜ米国には、カキ缶詰に巨大な需要があるのか。そして、なぜ内陸部が主要消費地域なのか。

内陸部の家庭ではカキの水煮をシチューやブイヤベースに使う。つまり鍋物である。さしずめ、土手鍋に缶詰を使うようなものだ(笑い)。缶詰のカキは加熱すると形が崩れるので、料理がほとんど出来上がった時点で、鍋に入れる。「それではカキの風味がないだろう?」という疑問があろうが、それはカキの煮汁が缶に入っているのでノープロブレム。

この食習慣には地理的条件が影響している。ルイジアナ州の缶詰メーカーは創業以来、製品の輸送にミシシッピー川の貨物船を利用し、その流域の需要を地道に開拓してきた。今でこそ高速道路が発達して船舶輸送は廃れたが、カキ缶詰の需要そのものは残ったのである。

交通網の発展でかなり内陸部(例えば、カナダ国境に近いミネアポリス)でも生カキを賞味できるようになったが、米国特に内陸部の消費者には「生は不衛生」という固定観念があるから、内陸部では生カキの需要は限定的である。その点、缶詰なら衛生的というわけだ。

一方、日本人には「生」崇拝志向がある。生ビールしかり、生ハムしかり、生野菜しかりで、「生」イコール新鮮 (fresh)という認識があるが、欧米人には「生」(raw)イコール不衛生という認識がある。

それなら「寿司ブーム」をどう説明するのか、という疑問があると思うが、海外の寿司ブームの正体は生魚ブームというより巻物ブームなのである。そして、その巻物の具の主力はカニカマやゆでたエビ、アボカドであり、生魚ではない。マグロ、ヒラメ、タイ、ブリなどを具にする握り寿司を食べる欧米人は増えたことは増えたが、それでも生魚の握り寿司を食べるのはライフスタイルが先端的に人々なのである。

 米国でも、海岸地帯はライフスタイルが先端的だが、内陸部では保守的で、今なお「生」に拒絶反応を示す人々が多い。それが、カキの水煮という日本人なら見向きもない食品に根強い需要がある理由である。