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「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」書評

2017-07-10 09:26:08 | メモ帳

書店で「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」という題名の文庫本をみつけ、衝動買いした。コナンドイルが創作した架空の人物が伊藤博文とコンビを組むという奇抜な組み立てに興味をそそられたのである。

この作品は、シャーロック・ホームズが伊藤博文とともに、明治24年(1891年)に起きた大津事件の謎(といっても著者が謎に仕立て上げたのだが)を解くというスケールが大きなストーリーである。

大津事件とは、警察官津田三蔵が日本各地を旅行中だったロシア帝国の皇太子にサーベルで斬りつけ頭部に傷を負わせた事件のこと。当時はロシアが報復のために日本に攻撃を加えるのではないかと日本国を揺るがし、市井の女性が剃刀で喉を突いて自殺したくらいである。

政治外交の見地からは、津田三蔵を死刑にすべきだという意見がある一方、司法の見地からは、怪我をさせただけでは死刑を適用できないという問題があった。江戸時代なら死刑が適用されただろうが、明治になって三権分立を基盤とする文明国家に生まれ変わった日本としては、結局終身刑を適用した。

こうした時代背景を下敷きにして、著者の松岡圭祐氏はシャーロック・ホームズを登場させ、さらにいろいろなひねりを加えた。そもそもシャーロック・ホームズのシリーズはホームズがワトソンという相棒とともに、普通の人では到底思いつかない視点から謎解きをするところがウリであるが、この「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」では伊藤博文がワトソン的役柄を演じる。あまり現実離れした小説は私の好みではないが、この作品は虚構がいかにも史実であるかのように錯覚させる。脱帽である。

巻末にある解説を読んで初めて、「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」の著者が5月31日にこのブログに投稿した「黄砂の籠城」と同じ松岡圭祐であることに気付いた。人の名前が覚えられない高齢者特有のボケである。

松岡氏の次作が楽しみである。その時はまさか著者の名前を忘れていることはないだろう(笑い)。