新型肺炎の感染者数も死者数も増え続けており、終息には程遠い状況である。しかし、いつかは終わるはずであり、終息した時点で世界の勢力図はどう変わるか。一方、中国の習近平主席の来日が4月上旬に予定されている。この二つの事案を合わせて考察してみたい。
中国の隠蔽体質がコロナウィルスの拡散を招いたことは中国も認めており、国際社会の中国に対する不信感・嫌悪感が強まるだろう。その影響として、Made in China の商品が販売不振を招くことは必至である。さらに、中国で生産活動を行ってきた外国企業は、他国または自国への生産移転に拍車をかけるだろう。その結果、中国の雇用状況が悪化する。輸出は大幅に減少し、元安が進行するだろう。元安は輸出に有利だが、そのメリットは元安によるインフレで帳消しになる。
要するに、中国経済は未曾有の危機に見舞われる。一帯一路も急ブレーキがかかるだろう。そして、習主席の進退問題にも発展する可能性がある。
世界経済も中国の経済危機の影響を受けて、大打撃を蒙る。しかし、国際社会における中国の影響力・発言力が弱まるのは、日米欧にとってプラス要素であり、日本がそのプラス要素をどう生かすかが次の課題である。
さて、習主席の国賓待遇による来日が4月上旬に予定されている。彼としては、訪日の際に肺炎問題の終息を国際社会に宣言したいはずであり、その時期が4月上旬であれば問題ないが、終息が見通せない場合は訪日を延期するだろう。
それがいつになるかは別として、日本の世論は国賓待遇に反対する意見が圧倒的であり、国賓待遇をコミットしてしまった安倍首相も、内心では国賓待遇を撤回したいと望んでいるのではないか。
国賓待遇をコミットしてから、ウィグルや香港における人権問題が顕在化し、さらに新型肺炎の震源国になる事態が生じた。安倍首相としては、国賓待遇を撤回するいい口実ができたわけだが、さてどうするか。
そこで提案である。国賓待遇は撤回せず、その代わり条件をつけてはどうか。それは、靖国問題にケリをつけることである。すなわち、戦後70余年を経過し、日中両国とも、戦争を知る世代はこの世を去ったかまたは第一線を退いた。この状況において両国は未来志向の親善関係を構築すべきであることは論を俟たない。
ついては、安倍・習が一緒に靖国神社を参拝することを提案する。もしこれが実現すれば、日本国民の対中感情は劇的に好転するだろう。習主席がそれに同意するなら問題ないが、多分共同参拝は拒否するものの、“今後は日本人誰であれ、靖国神社に参拝することに中国は干渉しない”ということで妥協するのではないか。そうなれば、それで十分。靖国問題終結を日中新時代到来の象徴として位置づける。その副次効果は韓国に対する牽制である。
そういう形に持ち込むには、言論界が“国賓待遇にするには靖国問題の解決が条件”であることを書き立てることが必要。世論の動向は在日中国大使館も注視し、本国に伝えるだろう。その水面下で、国賓待遇は靖国問題の解決が条件であることを習主席に伝え、最終的に日本における安倍・習の会談の成果として新時代到来を宣言する。
そもそも、1984年までは三木武夫、福田赳夫、鈴木善幸、大平正芳など歴代の首相が8月15日に靖国に参拝したし、中曽根康弘首相は8回も参拝したが、それに対して中国はなにも言わなかった。しかし、1985年に朝日新聞が“A級戦犯が合祀されている神社に首相が参拝するのは「戦前回帰」「軍国主義復活」である”、“中国も靖国問題の推移を注視している”と報じたことで、局面が変わった。(注)
(注)下線部分は「マスコミはなぜここまで反日なのか」ケント・ギルバート著(宝島社2018年刊)125ページからの引用
この報道に知恵をつけられ、中国は中曽根首相の靖国参拝を非難し、にわかに靖国問題が日本攻撃のカードに浮上した。2013年12月に安倍首相が参拝したときは、米国のオバマ大統領(当時)が「失望した」とコメントした。それ以降、安倍首相は参拝していない。
今では中国に靖国神社の存在を知る人はほとんどいなくなったはずであり、習主席が靖国の終結を宣言しても、批判する中国人はいないだろう。習主席としても、靖国問題を凍結しておくことに何のメリットもないから、靖国カードをいつ、どのように切るか思案しているに違いない。
要するに、靖国問題を終わらせるには、新型肺炎の終息が絶好の機会なのである。頑固爺ごときがここでゴチャゴチャ言わずとも、安倍首相も同じシナリオを考えているのではないか。もし、習主席が国賓待遇と靖国問題のバーター取引を嫌って、訪日をキャンセルするなら、それでもいいではないか。ダメでもともと、やってみる価値はあると考える。