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定年退職してしまいましたが、再任用でまだまだ老後の蓄えをしなくてはなりません。それでも悔いのない人生にしたいと思います。

手作りナタ②(焼き入れ・仕上げ研ぎ編)

2017年02月19日 22時35分21秒 | Weblog

2017年1月中旬

さあ、やっと焼き入れ前の研ぎが終わった。

鎬(しのぎ)部分は、焼き入れ後にはもう研がない~酸化鉄のままにしておきたいので、今の内にと仕上げ研ぎまで鏡面仕上げ~

一方、刃の部分は焼き入れ前だから、切れる刃にはしていない。
中研ぎ段階でストップし、焼き入れのタイミングを待っていた。




焼き入れ前の水桶準備~
長モノなので、園芸の土桶を利用した。

樹脂製なので、熱い鉄を投げ込めば、底に穴が空くかも?と敷居を置いた。



焼き入れに備えて、フイゴの改良をした。
掃除機のくねくねホースをブロワーと、フイゴの鉄パイプに繋いだ。
これでブロワーを邪魔にならない所に自由に動かせる。

 

炭を熾し、ブロワーのフイゴでガンガン焼いていく。



下の写真のように、鉄やステンレスを焼くと、綺麗な虹色が出る事がある。
これは、酸化皮膜に水に含まれる微量の鉄、銅等のイオンが水の蒸発によって金属の表面に付着して虹色に見せている現象で、これを過ぎると黒い酸化鉄に包まれてしまう。




ちなみに、黒い酸化皮膜はさびにくいコーティングとなり、この酸化皮膜はキズがついてしまっても、空気に触れると、金属表面が空気中の酸素と化合して、再び皮膜が再生され、防錆の働きを取り戻す優れものです。 



鍛造と違うので、目標温度は900℃。
実は、ここで携帯カメラが熱により、エラー・・・ストップした。
カメラが冷え復旧するまで、炭に突っ込み、まんべんなく焼いた。

いよいよ、焼き入れ~ヤットコで摘み、一気に投入!
『シャーッ・・ジョブ・・ジョブッ』と一面水蒸気が立ち上がりメガネも曇る。


 

ところで、 『焼入れ』 とは 鉄(鋼)を焼いて高温にしていくと、金属構造はオーステナイトに組成が変化します。
そしてこれを水や油で急激に冷やすと、鉄は炭素を強制固溶した組織となり、マルテンサイト変態)と呼ばれる、非常に硬い性質に変化します。
焼き入れがうまく出来ていないのは、不完全焼入れ甘焼き と言われ・・・。
さあ、うまく マルテンサイト変態 になっているか?



実はこの後、焼き戻し作業をしています。
焼き戻しとは、金属に粘り(靭性:ジンセイ)を与える処理で、150~250℃で行う 低温焼戻し と、400~680 ℃で行う 高温焼戻し がありますが、温度計も無いので、低温はかえって難しいので、500℃位での高温焼戻しをしました。



ホントはここで養生として熱い灰とかに埋めて、ゆっくり冷やさなければならないけど、それも出来ない。

時間がないのもあって、直ぐに粗研ぎです。
でも、研ぐのは刃部分だけです。
鎬部分の酸化皮膜を研がないように注意して、ひたすら切れる刃まで研ぎ落とします。




鍛造の時には必死で叩いていますので、平たいようですが、ハンマーの波打ちが残っています。
それを研ぎ落として、平面・鏡面にする訳ですから、へんな打ち方をしていると、研ぎで苦労します。
一生懸命研いでいると、砥石に触れている指の感覚を忘れてしまいます。

そしてこんな感じで、出血して初めて気付きます。
砥石での擦り傷は、刃物のキズより長く数日間、ヒリヒリと痛みます。

 

鍛冶屋通いの頃は、なかなか刃が付かず、あんまり大変なので、師匠に聴いた事があります

私:『焼き入れの前のまだ柔らかい時に、あらかじめ刃を尖らせておけば、粗砥も楽になるんじゃないですか

師匠:『あのねチミ(君)粗砥段階で、そんな楽をしようなんて考える事が、だいたい根性がハイッとらん

私:『いや、そんな、そ、そ、素朴な疑問です

師匠:『焼き入れされる、鉄の気持ちになってごらん 1000℃も焼けたのが、常温の水に投げ込まれ、一気に冷やされるの 焼けたガラスに水かけた事ある
パチパチッて割れるど あんな感じで、尖った刃を焼き入れすると、欠けたり、小さな目に見えないヒビが入るの チミに分かるかな

私:『ハイ良く分かりました

口答えの多い見習いと、師匠の、そんな会話を思い出しながら研ぎました。




スマホに接写用レンズをはめて、刃を撮影してみました。
なかなかピントが合わず良く分かりませんが、段々と鋭い刃になっていきます。



2017年2月上旬

実は、1~2月の寒風の中、冷たい水で、粗砥工程をトータル10時間くらい研いでいました。
その間、とうとうインフルエンザA型で寝込んでしまいました。
それだけ鍛造で凸凹になった面を平面・鏡面にするのはたいへんな事です。

今日は、いよいよ中研ぎに進みました。
先ずは、砥石面をフラットに研ぎます。中砥石は粗砥で、仕上げ砥石は中砥石で研ぎます。



刃はもう切れる刃になっていますので、タオルを巻いての研ぎです。
うっかり横滑りすると、ザックリと手が切れます。



縦研ぎ、横研ぎを交えて、鏡面と刃を付けていきます。



良く見ると、白い刀身に黒い部分があります。
これが凹の部分で、ハンマーで強く打ちすぎて凹んだ部分です。
この凹の底面まで研がないと平面・鏡面になりません。



なかなか凹が取れないと、また粗砥に戻る事もしばしば~
この苦労?を知って、日本刀を観賞すると、刀鍛冶や研ぎ師の匠の神業が本当に良く分かります。



中研ぎも数日間に渡って、指がかなわなってもバカみたいに研ぎました。



実はこの間、取っ手(柄:ツカ)も作って、はめました。
もう危なくて、握ってられないからです。
※次のブログで紹介予定。

妻の居ない所で、夜な夜な光にかざし、研ぎムラを見つけます(笑)
酸化皮膜研ぎ落とし防止の、ガムテープが目障りです。




いよいよ、仕上げ研ぎに進みました。
仕上げ研ぎは、なんとも言い難いのですが、暖簾に手押し~みたいで抵抗が無くあまり好きな工程ではありません。
が、しかし、明らかに鏡面になっていくのは快感です。



切っ先の研ぎは、これまた難しいです。



小刀くらいの短刀なら角度の調整も見えるのですが、こんな長モノになると持つのも大変で難しいです。



仕上げ研ぎは、何十時間も研ぎません。
刀身の鏡面と、包丁研ぎと同じく、カエシの確認と切れる刃の仕上げです。
新聞紙はなんの事無く、ティッシュペーパーも引けば切れますから、試し切りをしたくなるものです。




チャンスが来ました。
柚子を加工する母が居なくなったので、半分伐る事にしました。



直径2cmくらいの枝は難なく一刀両断出来ました。
5cmになると、刀身の厚みもあり、無理でした。



切れ味を試す~と言うより、ナタが目的ですので、これが本命の使い方です。
トゲトゲのユズの枝を長刀身を活かして、バッサバッサと伐りました。




結果:切っ先付近の一番力が掛かる刃が、歪んでいました。
   欠けるではなく、歪むとは靭性のありすぎ?

反省:原因は、焼き入れのマルテンサイト変態が不十分だったのか?
  (焼き入れ温度が低かった?焼き戻しのし過ぎで、オーステナイトに戻った?
   それとも、焼き戻し後の養生時間を取らなかったから?もしかして、鋼とあったものの、粗悪な鋼?もしかして、スマホのカメラ復旧とか待っていたから・・・もしかして・・・)

疑問はつきないが、美術鑑賞品じゃなく実用のナタだから、使えてナンボと、刃物らしくスパッと割り切った!

鍛造の技術を忘れないためにも、良い教材となりました。



次回は、柄と鞘の作成を紹介します。

手作りナタ①鍛造編

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