夫の誕生日は6月中旬なので、当然のように父の日と兼ねてお祝いをする。
「今年はどこのケーキにしようかな」
フルーツが豪華な高野、チョコレートの質が違うベル・アメール、デザイン性の高い千疋屋など、選択肢はいくつもあるが、以前から気になっていたアトリエアニバーサリーを開拓することにした。
ここのケーキはひたすらフェミニンで可愛い。
クリームの盛り付け方が丁寧で、うっとりしてしまう。
一度は食べてみたいと思うこの気持ちを、わかっていただけるだろうか。
一方で、私にブレーキを掛けようとする力が生まれ、脳裏にささやいてきた。
「はあ? 誰のケーキだと思っているの。オジさんというより、オジイさんでしょ」
そうそう、そうなのだ。これは私の良心かもしれない。
フリフリのキュートなデコレーションにまったく見合わない、しおれてオシャレをする気もなくなった男のお祝いとなるのだから。
「でもさ、私とミキも食べるし」
夫に加えて、私と娘の女子チームを含めれば、バランスが取れないこともない。辻褄の合う言い訳を考えて理論武装し、注文をすべくカウンターに向かった。
「この小さなデコレーションケーキをください」
サイズは2~4名用。小さいがゆえに少女もリボンもなく、乙女度の低さが好都合であった。
「プレートはおつけしますか」
「はい、じゃあ、Happy Birthday パパでお願いします」
お会計をしている間に、別の客の会話が聞こえてきた。
「きゃあ、可愛い。ここにしちゃおうよ」
「そうね、いいわね」
しかし、私が注文したケーキがショーケースから取り出されると、「ああっ」という悲鳴に変わった。もしや同じものを狙っていたのか。
こ、これは、決して後ろを振り返るわけにいかないね……。
背後の気配がなくなるまで、タヌキの置物のようにじっと待つ。よしよし、諦めて別の店に移動したようだぞ、ホッ。
「プレートの位置はこの辺りでよろしいですか」
「はい」
「お待たせしました」
商品を受け取り、店をあとにした。あとは家に帰るだけだ。
しかし、暑かったせいか、保冷剤があってもクリームが溶け、家に着いたらケーキの形が変わっていた。プレートの重みでケーキが傾き、箱に接触していたのだ。まさか逃げようとしたわけではないだろうが。
「ひいぃー」
残念ながら、後ろ姿のみご覧いただきたい。
かなりショックだったが、崩れた見た目と裏腹に、かなり美味しいケーキであった。フワフワのスポンジにピンクと白の生クリームがほのかに甘く、酸味を感じるベリー系を引き立てる。ルックスだけでなく、歌唱力も抜群のアイドルみたいなケーキに感心した。
「私の誕生日もここのケーキがいいな」
さてさて。私がリクエストしたいのはこれ。
プレートはいりませんって言わないとね。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「今年はどこのケーキにしようかな」
フルーツが豪華な高野、チョコレートの質が違うベル・アメール、デザイン性の高い千疋屋など、選択肢はいくつもあるが、以前から気になっていたアトリエアニバーサリーを開拓することにした。
ここのケーキはひたすらフェミニンで可愛い。
クリームの盛り付け方が丁寧で、うっとりしてしまう。
一度は食べてみたいと思うこの気持ちを、わかっていただけるだろうか。
一方で、私にブレーキを掛けようとする力が生まれ、脳裏にささやいてきた。
「はあ? 誰のケーキだと思っているの。オジさんというより、オジイさんでしょ」
そうそう、そうなのだ。これは私の良心かもしれない。
フリフリのキュートなデコレーションにまったく見合わない、しおれてオシャレをする気もなくなった男のお祝いとなるのだから。
「でもさ、私とミキも食べるし」
夫に加えて、私と娘の女子チームを含めれば、バランスが取れないこともない。辻褄の合う言い訳を考えて理論武装し、注文をすべくカウンターに向かった。
「この小さなデコレーションケーキをください」
サイズは2~4名用。小さいがゆえに少女もリボンもなく、乙女度の低さが好都合であった。
「プレートはおつけしますか」
「はい、じゃあ、Happy Birthday パパでお願いします」
お会計をしている間に、別の客の会話が聞こえてきた。
「きゃあ、可愛い。ここにしちゃおうよ」
「そうね、いいわね」
しかし、私が注文したケーキがショーケースから取り出されると、「ああっ」という悲鳴に変わった。もしや同じものを狙っていたのか。
こ、これは、決して後ろを振り返るわけにいかないね……。
背後の気配がなくなるまで、タヌキの置物のようにじっと待つ。よしよし、諦めて別の店に移動したようだぞ、ホッ。
「プレートの位置はこの辺りでよろしいですか」
「はい」
「お待たせしました」
商品を受け取り、店をあとにした。あとは家に帰るだけだ。
しかし、暑かったせいか、保冷剤があってもクリームが溶け、家に着いたらケーキの形が変わっていた。プレートの重みでケーキが傾き、箱に接触していたのだ。まさか逃げようとしたわけではないだろうが。
「ひいぃー」
残念ながら、後ろ姿のみご覧いただきたい。
かなりショックだったが、崩れた見た目と裏腹に、かなり美味しいケーキであった。フワフワのスポンジにピンクと白の生クリームがほのかに甘く、酸味を感じるベリー系を引き立てる。ルックスだけでなく、歌唱力も抜群のアイドルみたいなケーキに感心した。
「私の誕生日もここのケーキがいいな」
さてさて。私がリクエストしたいのはこれ。
プレートはいりませんって言わないとね。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
先生のお誕生日用に選んだバラのデコレーションケーキ楽しみですね。
たしかに食べるのがもったいないです。
崩れたおかげで、ためらわずいただきました!
私の誕生日のケーキも、多少はキズモノになった方がいいかも??
見た目より味が大事ですね。
長時間飾って眺めてしまいそう?
その点キズモノになれば、さくっと食べられそうです。
見た目同様お味も上々のケーキ、
とっても喜んでもらえたでしょうね。
キズモノのメリットを思いつくとは、さすが白玉さん♪
たしかに躊躇なくいただけました。
美しいままだとナイフを入れるのに勇気がいったかも。
正直いって、味は期待していなかったんです。
美味しくてびっくりしました。
私が一番喜んでいたかも……。