一人言(七)のノートから
『関係ないでしょ』
「おっじゃまっしまーすっ。おーい、香ー?」
玄関の鍵が開いていたので、勝手に入ってきてしまったが、
「………香?」
ばりばりっぼりっガサガサガサ……という聞きなれない音に、クリスは思わず立ち止まった。
「か、香………?」
「ここ」
ソファーの向こうから香の声がする。近づいてみて、
「な、なに、お前……っ。どうしたんだよ?!」
思わず叫んでしまった。
香がソファーに座り込み、大きな袋に入ったおせんべいをボリボリ食べているのだ。しかも、テーブルの上にはクッキーやポテトチップスの空き袋がいくつも転がっている。
「お…前、これ全部、お前が食ったのか?」
「うん。いけない?」
いいながら、香はおせんべいを食べる手を休めようとしない。
「せんべい類はニキビができるから食べないんじゃなかったのか? それにポテトチップスも。……クッキー、これ12枚入りの箱、二つとも? いつも太るからとかいってあんまり食べなかったじゃねえかよ。……何かあったのか?」
「………別に」
香はムッと口をゆがめ、ちらりとクリスを見ると、
「なんか急に……自分をいじめたくなったの。それだけ」
「自分をいじめる……? ってお菓子いっぱい食べるのっていじめることになるのか?」
「さあ? ……あ、終わっちゃった。あーああっ」
せんべいの袋をぎゅっとしばり、テーブルに放り投げると、香は大きく伸びをしてソファーの肘掛けに頭をあずけた。
「あーああっ。いっぱい食べちゃった。油ものいっぱい食べたし、吹き出物できちゃうやーっ。あーやだやだ」
「……そう思うなら食べなきゃいいのに」
クリスがボソリといい、香の横に腰をおろすと、香は寝そべった格好のままクリスをにらみつけ、
「だから、自分をいじめたくなったって言ってるでしょっ。あ、そうか。やっぱり私が太ったり吹き出物がブツブツできたらやーなのねー。ふーんっそうっ別にいーけどっ」
「なーんでそういうことになる? 何も言ってないだろ」
「だーって、そーでしょーがーっ。別にいーけどさっ」
ふんっと香はクッションに顔を埋めてしまった。クリスはやれやれと肩をすくめると、
「なーに? 機嫌悪いなあ? 何かあったのか?」
ぐりぐりぐりと香の頭をかきまぜた。
「話してみろよ。食べ物に八つ当たりしないでさ」
「やつあたりなんかしてないもん。あーもうやだっ」
香はむくりと起き上がり、クッションをバシバシたたいている。
「今度はクッションに八つ当たりか? ったく、しょうがねぇな」
「なーによっ。関係ないでしょっ」
「………ふーん。そう。オレ、関係ないんだ? ふーん……」
「……なによ?」
わざと冷たく言うと、香の瞳が不安そうに揺れた。
(………こういうところがさあ……)
たまらなくかわいいんだよなぁ……とクリスは思ったが、あえて口には出さなかった。怒るに決まっているからだ。
「……別に関係ないっていうのは、そういう意味じゃ……」
「だって関係ないんだろ?」」
「だから……っ、クリ……。……クリス?」
言いかけた香をそっと引き寄せる。柔らかい感触が腕に胸に直接伝わってくる。
「クリス……?」
「……安心した。お前の機嫌の悪さにオレは関係ないんだろ? よかったよかった」
「………ったく。あんたはっ」
いきなりグイッと押しのけられた。そして香はクッションを元の位置に戻すと、がさがさとテーブルの上のお菓子の空き箱などを片付けはじめ、
「……コーヒー、紅茶、お茶、何がいい? 入れるわ」
「あ? あ、ああ、じゃ、紅茶」
「ん。ちょっと待ってて」
そしてガタガタとキッチンへ消えていってしまった。
「……なんだ?」
オレなんか悪いこといったかなあ……と頭を悩ませたところに、すっとカップをつきつけられた。
「あ、サンキュ。なあ、お前さ……」
「……ごめん。八つ当たりして」
「-----はい?」
思わず思いっきり聞きかえしてしまった。こうも素直な態度に出られると……気味が悪い。
「お前、今日どうしたわけ? 変だぞ?」
「……そうだね。でも……なんか……落ち着いた」
「?? なんかよくわかんねぇけど……ま、食べたいときに食べたいだけ食べれば? オレもつきあうぜ?」
「……ありがと。でも嫌じゃない? 私が太ったら」
横目でちらりとみられて、クリスはニッと笑ってみせた。
「なーんだ、そりゃ? 太ろうが痩せようがお前はお前だろ? 関係ないだろ?そんなこと。……と、香?」
コツンッと肩に香の頭がのせられる。クリスはカップをテーブルに置くと、香をそっと抱き寄せた。
(1995.2.19,20)
なんか無性に食べたくなる時ってあるよね……自分をいじめたくなるというか……。そういうことです。おわり。
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だそうです。当時20歳の私。↑この気持ち、40歳の今の私にはまったく理解できん^^;
『関係ないでしょ』
「おっじゃまっしまーすっ。おーい、香ー?」
玄関の鍵が開いていたので、勝手に入ってきてしまったが、
「………香?」
ばりばりっぼりっガサガサガサ……という聞きなれない音に、クリスは思わず立ち止まった。
「か、香………?」
「ここ」
ソファーの向こうから香の声がする。近づいてみて、
「な、なに、お前……っ。どうしたんだよ?!」
思わず叫んでしまった。
香がソファーに座り込み、大きな袋に入ったおせんべいをボリボリ食べているのだ。しかも、テーブルの上にはクッキーやポテトチップスの空き袋がいくつも転がっている。
「お…前、これ全部、お前が食ったのか?」
「うん。いけない?」
いいながら、香はおせんべいを食べる手を休めようとしない。
「せんべい類はニキビができるから食べないんじゃなかったのか? それにポテトチップスも。……クッキー、これ12枚入りの箱、二つとも? いつも太るからとかいってあんまり食べなかったじゃねえかよ。……何かあったのか?」
「………別に」
香はムッと口をゆがめ、ちらりとクリスを見ると、
「なんか急に……自分をいじめたくなったの。それだけ」
「自分をいじめる……? ってお菓子いっぱい食べるのっていじめることになるのか?」
「さあ? ……あ、終わっちゃった。あーああっ」
せんべいの袋をぎゅっとしばり、テーブルに放り投げると、香は大きく伸びをしてソファーの肘掛けに頭をあずけた。
「あーああっ。いっぱい食べちゃった。油ものいっぱい食べたし、吹き出物できちゃうやーっ。あーやだやだ」
「……そう思うなら食べなきゃいいのに」
クリスがボソリといい、香の横に腰をおろすと、香は寝そべった格好のままクリスをにらみつけ、
「だから、自分をいじめたくなったって言ってるでしょっ。あ、そうか。やっぱり私が太ったり吹き出物がブツブツできたらやーなのねー。ふーんっそうっ別にいーけどっ」
「なーんでそういうことになる? 何も言ってないだろ」
「だーって、そーでしょーがーっ。別にいーけどさっ」
ふんっと香はクッションに顔を埋めてしまった。クリスはやれやれと肩をすくめると、
「なーに? 機嫌悪いなあ? 何かあったのか?」
ぐりぐりぐりと香の頭をかきまぜた。
「話してみろよ。食べ物に八つ当たりしないでさ」
「やつあたりなんかしてないもん。あーもうやだっ」
香はむくりと起き上がり、クッションをバシバシたたいている。
「今度はクッションに八つ当たりか? ったく、しょうがねぇな」
「なーによっ。関係ないでしょっ」
「………ふーん。そう。オレ、関係ないんだ? ふーん……」
「……なによ?」
わざと冷たく言うと、香の瞳が不安そうに揺れた。
(………こういうところがさあ……)
たまらなくかわいいんだよなぁ……とクリスは思ったが、あえて口には出さなかった。怒るに決まっているからだ。
「……別に関係ないっていうのは、そういう意味じゃ……」
「だって関係ないんだろ?」」
「だから……っ、クリ……。……クリス?」
言いかけた香をそっと引き寄せる。柔らかい感触が腕に胸に直接伝わってくる。
「クリス……?」
「……安心した。お前の機嫌の悪さにオレは関係ないんだろ? よかったよかった」
「………ったく。あんたはっ」
いきなりグイッと押しのけられた。そして香はクッションを元の位置に戻すと、がさがさとテーブルの上のお菓子の空き箱などを片付けはじめ、
「……コーヒー、紅茶、お茶、何がいい? 入れるわ」
「あ? あ、ああ、じゃ、紅茶」
「ん。ちょっと待ってて」
そしてガタガタとキッチンへ消えていってしまった。
「……なんだ?」
オレなんか悪いこといったかなあ……と頭を悩ませたところに、すっとカップをつきつけられた。
「あ、サンキュ。なあ、お前さ……」
「……ごめん。八つ当たりして」
「-----はい?」
思わず思いっきり聞きかえしてしまった。こうも素直な態度に出られると……気味が悪い。
「お前、今日どうしたわけ? 変だぞ?」
「……そうだね。でも……なんか……落ち着いた」
「?? なんかよくわかんねぇけど……ま、食べたいときに食べたいだけ食べれば? オレもつきあうぜ?」
「……ありがと。でも嫌じゃない? 私が太ったら」
横目でちらりとみられて、クリスはニッと笑ってみせた。
「なーんだ、そりゃ? 太ろうが痩せようがお前はお前だろ? 関係ないだろ?そんなこと。……と、香?」
コツンッと肩に香の頭がのせられる。クリスはカップをテーブルに置くと、香をそっと抱き寄せた。
(1995.2.19,20)
なんか無性に食べたくなる時ってあるよね……自分をいじめたくなるというか……。そういうことです。おわり。
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だそうです。当時20歳の私。↑この気持ち、40歳の今の私にはまったく理解できん^^;