居酒屋のトイレから出るなり腕を掴まれた。驚いて見上げると浩介が不機嫌な顔をして立っている。
「浩介? どうし………っ」
言い終わる前に、トイレに押し戻された。一緒に入ってきて後ろ手に鍵を閉める浩介。
「ちょ……浩介?」
抱きすくめられ、強引に唇を重ねられる。
「……っ」
侵入してきた浩介の舌に舌を絡めとられ、腰がくだけそうになる。その上、股間にぐりぐりと膝を押しつけられたため、場所も構わず膨張してきてしまった。
「んん……」
思わずその激しいキスに応戦してしまったけれど、鏡に写った自分たちを見て、はたと我に返った。
今日は高校2年時のクラスの同窓会でこの居酒屋に来ている。『全員ハタチになった記念同窓会』という名目らしい。卒業して2年と少したつというのに、ほぼ全員集まったのは、幹事をしてくれたクラス委員長の人徳のおかげだろう。
わりとこじんまりとした居酒屋で、2階はおれ達38人の貸切となっている。
この階にトイレは男女各1つずつしかない。便器と洗面台がついているトイレで、当然一人用なので二人でいると狭い。新しい店なだけあってわりと綺麗ではあるけれど……
「お前、何……」
「……………」
無言でおれのベルトに手をかけ始める浩介……。
こんなに攻撃的に機嫌の悪い浩介、久しぶりだ。アルコールが入っているせいもあるのかもしれない。
「何イラついてんだよ? 珍し……」
「慶こそ。お酒弱いくせにこんなに飲んで。真っ赤な顔して」
「しょうがねえだろ。隣の……んんっ」
再び口をふさがれた。いつのまにGパンのチャックも下げられて直接触られ、ビクビクッと震えてしまう。
「こう……っ」
「そんな色っぽい顔して、隙がありすぎだよ。慶」
耳元でささやかれ、首筋に唇が添ってくる。
「女の子たちが何て言ってるか、気づいてないでしょ」
「んんんっ」
執拗に亀頭のあたりをなぞられて、ぬるぬるとしたものが出はじめてしまっている。
「渋谷君、あいかわらずカッコいいー。渋谷君、〇大の医学部通ってるんだってー。すごーい」
「………んっ」
膝が震えてきてしまう。浩介は淡々と続ける。
「渋谷君、今彼女いるのかなー。二次会のカラオケでは絶対隣に座りたーい」
「んん……っ、なんだよそれっ」
「おれのいたテーブルの女子が話してた話」
再び唇を求めてくる浩介。蕩けそうだ……。
「慶はおれのものなのに。おれだけのものなのに」
「………う、あ……」
怒ったように手を速めてくる。こんなところでいかされるなんて……
戸惑い、羞恥、快感、色々なものが入り混じって、体がどうしようなく熱くなってくる……
「渋谷ー?」
「!」
外からの声にピタリと手がとまった。委員長の声だ。
「大丈夫かー? 全然戻ってこねえから女どもがうるせえぞー」
「あ、ごめんー委員長」
浩介がしれっと外に向かって答えたので、ぎょっとする。
「え、桜井か? 悪い、渋谷かと……」
「あ、ううん。慶もここいいる。慶、吐いちゃってて」
「え」
見上げると、浩介がおれの頬に軽くキスをして、再び手を動かしはじめた。
「……っ」
こいつ………っ。
「うわマジで。やっぱ飲みすぎてたんだな。大丈夫なのか?」
「んー、今少しでたけどー、全部吐かせ終わったら戻るよー」
「分かった。何かできることあるか?」
委員長、あいかわらず気遣いができるいい奴……とぼんやり思う。
「戻ったらお水飲ませたいから、お冷お願いー」
「りょーかい。んじゃ、頑張って吐けよー」
気配が去っていく。再び唇を合わせる……
「お……前、嘘つきだな」
「嘘なんかついてないよ。全部吐いちゃおうね」
「じゃあ……お前も吐けよ」
浩介のベルトに手をかけ、すばやく脱がせる。
「もう、少し吐いてるし」
先走りをなで、ぬるぬるを広げると、浩介が小さくうめいた。
「そりゃそうだよ……となりのテーブルから慶のこと見てて……もうずっと勃ちっぱなし」
「……変態だな」
「変態だよ。慶に突っこみたくてしょうがない。我慢できない」
言いながら、浩介はポケットから何か取り出した。何だ……?
「何だそれ」
「コンドーム。ジェル付の良いやつなんだって。西崎がくれた」
西崎、というのは浩介の大学の同級生。時々会話にでてくる。人妻と不倫してる下ネタ大好きの男、らしい。
「感想教えろってさ」
「感想って……」
ゴムを装着した浩介のものは、ぬめぬめとしたいやらしい光を照らしていて……あらためて、こんなもの入れてるんだ、とドキドキしてしまう。
「狭いから……んー……」
Gパンを下までおろされ、後ろを向かされた。便座に手をつく。
本当に吐いているみたいだな……なんて冷静に思った瞬間、
「………っ」
いきなり貫かれて背中がそる。ジェルのおかげかしょっぱなから滑りよく奥まで突かれ、その圧に息を飲む。手の位置を便座から後ろのタンクに移動させると、腰をおさえられ、ぐりぐりと中をえぐるよう動かしてくるので、もう堪らない。
声が出そうになるのを必死でこらえる。ここで喘ぎ声なんてあげるわけにはいかねーだろっ。
「ジェルぬってるみたいに滑りがいい。ホテル備え付けのより装着感もずっといい」
小さくつぶやく浩介。
「でもやっぱり膜一枚挟んでる感じしちゃうよね」
「そりゃ……っ」
伝わってくる熱量が少し少ない。でも滑りよくスライドしてくる感じはこれはこれで……っ
「でも、これなら中でイケそう」
「!」
浩介の右手がおれのものに伸ばされた。
「一緒にいこう、慶」
「んんんっ」
浩介の腰の動きと、扱いてくれる手の動きが同化している。
バックでしたことはあまりないのでちょっと新鮮な上に、こんな場所でやってるっていう妙な興奮もあって、いつもよりも快楽の頂点が近くなっている気がする。
「こ……すけ、もう……」
声をおさえるために、肩に口を押しつける。
「いきそう?」
「ん………」
前も後ろも膨張して爆発しそうだ。浩介のものもいつもより大きい気がする。こんな場所で、しかも同級生たちがすぐ近くにいるような状況で、快楽に身をゆだねるなんて異常だ。でも止まらない……。
「あ……イク……っ」
ビクビクと体が震えた、その時だった。
「大丈夫ーー?」
「っ」
イク寸前で引っ込んだ。クラスの女子の声だ。
「桜井くーん、渋谷君大丈夫ー?」
「大丈夫ー」
浩介が手も腰も止めてドアに向かって叫ぶ。
「もう出るってー」
「ごめんねー。私達が飲ませすぎちゃったからさー」
「出たらすぐ戻るよー」
「うん。お願いー」
「………」
気配が遠のくのを待たずして、浩介が思いきり奥まで突いてきた。
「んんんっ」
声が出そうになり、唇をかみしめる。
「……ムカつく」
浩介のつぶやきが小さく聞こえてくる。
「なにがお願い、だよ。お願いされる筋合いなんかないよ。慶はおれのものなのに」
「こ…………」
怒りまかせといった感じの浩介の腰使い。いつもよりずいぶん乱暴で、痛さと快楽の微妙なラインに意識が朦朧としてくる。
浩介の息遣いも荒くなり、おれのものを掴んでいる手にも力が入ってきて、そして……
「……イクッ」
「ん……ああっ」
ほぼ同時、だったと思う。浩介のものが一層大きくなりおれの中で熱を吐き出し、おれから乳白色のものが便器に吐き出された。
「………」
お互いの息の音だけが狭いトイレの中で響いている……。
しばらくの間の後、浩介が無言で引き抜いた。ぶるぶるっと震えたおれの入り口をトイレットペーパーで拭いてくれる。
そして、とんっとおれを便座にすわらせ、素早く自分の衣類を整えると、若干放心状態になっているおれを静かに見下ろしてきた。泣きそうな顔……。
「浩介……?」
「………ごめんね」
ポツリと浩介が言い、再びトイレットペーパーを手に取り、おれの先の方に残った滴を丁寧に拭いてくれる。くすぐったい。
「ん……何が?」
「なんか……怒りながらしちゃった。痛くなかった?」
「いや、大丈夫……」
痛くないことはなかったけれど、これはこれでありな感じ……何てことは恥ずかしすぎて言えない……。
おれの内心も知らず、浩介はしょぼんとしている。
「ホントごめんね……」
「だから大丈夫だって。大丈夫だから出るもん出たんじゃねえかよ。あやまるな」
「ん……ありがと……」
触れるだけのキスがおりてくる。気持ちいい……。
「……やっぱりバックだと慶の顔が見えないから嫌だな」
「そっか」
おでこをコツンと合わせる。もう一度唇を合わせる。
「慶、二次会行く?」
「どっちでもいい。お前に合わせる」
「ホントに?」
嬉しそうにふわりと笑う浩介。かわいい。さっきまでの苛立った浩介とは別人のようだ。
ついばむようなキスを繰り返したあと、浩介が耳元でささやいてきた。
「それじゃ……ホテル行きたい」
「は?」
今やったばっかなのに何を言ってるんだこいつは。
「やり直しさせて。明日休みだし泊まれない?」
「んーーーー」
そうだな……親にはクラスの奴らと朝までカラオケするって連絡すればいいか……
「んじゃ、そうするか」
「やったあ」
ぎゅーっと抱きしめられる。狭いトイレで、おれは大をするように便座に座ったままの格好で……冷静に考えると相当おかしい。
「そろそろ戻るか」
身支度をして手を洗いはじめると、浩介がわざわざ後ろから抱きしめるような形で手を出してきて一緒に洗いはじめた。そしてボソボソと耳元にささやいてくる。
「……慶、女の子とあんまり仲良くしないでね」
「してねえよ」
「してたよ」
鏡越しの浩介はまたムッとした顔をしている。相当ムカついているらしい。いや、本当にそんなつもりはなかったんだけど……。
トイレから出ると、委員長がこちらに向かって歩いてくるところに出くわした。
「お。渋谷、大丈夫かー?」
「ああ、ごめん。もう大丈夫」
気まずさを隠し、極力普通の顔をして答える。委員長、ペンと名簿を持っている。
「吐いたばっかのとこ悪いけど、今、二次会の出欠とってんだよ。お前どうする?」
「あーーごめん。おれ、パス。約束があって」
即答すると、委員長はニヤリとした。
「なんだー? 女かー?」
「まあ……そんなもん」
肯くと、委員長は愉快そうにおれの名前の横に×印をつけた。そして、聞きもしないでその上の浩介の名前の横にも×を書くと、
「どうせ渋谷がこないなら桜井もこないんだろ?」
「さすが委員長。良く分かってる」
おれの後ろで浩介が感心したように手を打った。委員長は苦笑して、
「お前ら本当に変わんないよな。なんかホッとするよ」
「え」
思わず浩介と顔を見合わせる。
「あいかわらず、渋谷は芸能人みたいにかっこよくて、あいかわらず、桜井は渋谷の後ろくっついてて。お前ら二人だけみてると高校時代にタイムスリップしたみたいだ」
「委員長だって変わってないじゃん」
「いや、おれは眼鏡変えたぞ」
「そこか」
笑ってしまう。でも確かに……大学生になって妙に派手になった奴もいる。特に女子は化粧をし始めてる子も多いし、短大出の女の子はこの春から働きはじめているので、大人っぽくなった子も多い。
「お前らは……変わんないでほしいな」
「変わんねえよ」
「絶対変わらないよ」
おれと浩介が続けて答えると、委員長はなぜか寂しそうに笑って、
「んじゃ、次は25歳で集まろうな。それまで変わんなよ」
「?」
首を傾げたが、委員長は構わず先に歩きはじめて、勢いよく部屋のふすまを開けた。
「渋谷と桜井戻ってきたぞー」
「渋谷君大丈夫ー?」
「桜井、お疲れー」
わっと一斉に皆がこちらを向く。
良いクラスだ、と思う。一人ずつを見ると変わってしまった奴も変わらない奴もいるけれど、クラス全体の雰囲気は高校時代と変わらない。ノリがよくて、許容範囲が広くて……。
「残念なお知らせー。渋谷はこれからデートだから二次会来ませーん」
「えええっ」
委員長、余計なことをっ。
「渋谷君彼女いるの?!」
「えーどんな人どんな人?!」
「桜井は来られんのか?」
ふられた浩介、ニッコリとして、
「ごめん。おれもこれからデートだからパス」
「えーーー!」
更にどよどよしはじめてしまった。浩介まで余計なことを……。
「桜井君も彼女いるのー?!」
「うそー」
どよめいている中、自分の席に戻ると、おれ達のいない間に席移動があったらしく、浩介はおれの隣の席になっていた。
「二人ともいいなあ」
「どんな人ー?」
皆が口ぐちに言ってくる中、元美術部の浜野さんがボソリといった。
「とか言って、渋谷君と桜井君、二人でデートだったりして」
「え」
す、鋭いっ。動揺して口を閉ざしてしまったところ、
「わー浜野さんすごーい」
「げ」
いきなり浩介がおれの肩を抱いてきた。
「当たりー。そうなんだよー。これからおれと慶でデートする約束してるんだー」
「お前、そういう紛らわしいこと言うなっ」
バチンッと浩介の手を振りはらうと、
「うわーっ懐かしい!」
まわりからどっと笑い声が上がった。
「今一瞬、高校の教室に戻った感覚になったっ」
「この二人のこのやり取り、よく見たよねーっ」
みんな笑ってる。
このノリ……たったの2年しか経っていないのに、本当に懐かしい。
委員長はなぜかしみじみと「いいなあ……」とつぶやいている。なんなんだ……。
「委員長、暗過ぎだよー」
「もーしつこいよー」
隣の女子たちが冷やかし気味にいっているので、「なんなの?」と聞いてみると、
「委員長ね、沙織とケンカ中なんだってさー」
「え」
そういえば、川本沙織、今日来ていない。
委員長が卒業旅行で告白してOKもらって、それからずっと付き合ってると聞いていたけれど……
「沙織、短大出たけどまだ就職決まってなくてねー。それで色々あったみたいよ」
「委員長は一浪したからようやく大学2年だしねえ……」
変わった、変わっていないという話はそこら辺からきてたのか……。
「あの二人、もう2年も付き合ってるんだよね。長いよねー」
「だよねー。私、最長1年だよ」
「えらーい。私、5か月~」
「私今、ようやく3ヶ月ー」
きゃっきゃっと話している女の子たち……。
え、みんな、そんなもんなのか?
「私、2年2ヶ月!!」
「うそ! すごーい! ながーい!!」
「でしょー?」
2年2ヶ月の女子が、長く続く秘訣を自慢げに話している中……
「おれ達、3年4ヶ月だよね」
ボソボソとおれだけに聞こえるように浩介が言ってくる。
「長く続く秘訣はなんだろうね? やっぱり愛情の深さと、あとは……」
「あとは?」
「体の相性………痛っ」
掘りごたつの下の足を思いきり蹴ると、浩介が悲鳴をあげた。
「ひどーい。本当のこと言ってるだけなのにー」
「うるせえよっ」
さっきのこと思い出すだろっ!これ以上顔赤くなったらどうしてくれる!
「いいなあ、お前らはあいかわらずで……」
委員長がブツブツいっている。
余計なことと思いながらも思わず言う。
「何があったか知んねえけど、仲直りすればいいじゃねえかよ。お前らだって根っこのとこは変わってねえんだろ?」
「簡単に言うな」
顔も上げず、二次会の名簿をチェックしている委員長。
「思いは言葉にしないと伝わらないよ?」
真面目な顔をして浩介が言うと、委員長は小さく、
「わかってるよ」
と、つぶやいて、「カラオケの予約の電話してくる」とうつむいたまま出て行ってしまった。
就職、となると色々あるんだろうな……。
「慶……」
「ん」
こっそり、テーブルの下で小指と小指をふれさせる。
二人でぼんやりとまわりを見渡す。変わった奴、変わってない奴、変わったこと、変わってないこと、色々あるけれど……
「でも、おれたちは変わらない」
「うん」
約束しよう。5年後も10年後も、おれ達はずっとずっと変わらない。
追記。
カラオケの予約の電話してくる、と言って出ていった委員長、ちゃっかり川本沙織のうちにも電話をかけたらしい。川本は二次会のカラオケから合流して、なんだかんだでその後、二人は仲直りしたそうだ。めでたしめでたし。
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以上、21歳になる年の同窓会のお話でした。
「ずっと変わらない」と自信たっぷりに言ってますが、10年後は二人、離れ離れの最中ですな~。残念。
上記の二人、まだ20歳なので初々しい感じですね。
浩介に潤滑ジェルの売り場を教えてくれたのは、今回コンドームをくれた西崎君です。ラブホテルの場所教えてくれたのも彼です。浩介の下ネタの師匠です。もちろん西崎君は浩介の相手は女の子だと思ってます。
まあ、彼とは大学時代だけの付き合いで、今は全く連絡とってませんけどね……。
あー学生時代の2年ってどうしてこんなに懐かしいとか長いとか思うんですかねー。
今なんて2年なんて、気分的には先月とかとたいして変わらん…。
だからかなあ。学生の頃って、交際のサイクル早いですよね~。
でも委員長と川本さんは途中別れたりもしますが、最終的には結婚します。
今回、ただトイレでエッチする話を書きたくて書きはじめたはずなのに、そんな余計な話も色々書きたくなって長~くなってしまいました。失礼しましたー。
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