【チヒロ視点】
真木さんが、恋人延長してくれた。
真木さんが、僕のものを大きな手で包み込んで、いかせてくれた。
高校生の時の初体験からはじまり、色々な人と色々なことをしてきたけれど、こんなに気持ち良くて、心の中、体の中、全部が蕩けるほど幸せになる射精をしたのは初めてだった。
真木さんのことが大好きで、大好きで、後ろから抱きしめてくれてる真木さんと一つに溶け合えればいいのにって思った。けれど、真木さんは僕の中に入ることはしてくれなかった。真木さんのものも大きく固くなっていて、バスローブ越しでもその熱量は充分伝わっていたのに。
でも、
「続きは今度ね」
そう言ってくれたから「今度」を待つことにして、この日は真木さんの腕の中で安心して眠りについた。
………けれど。
それから2週間ほど経ってからのこと。
「環様、結婚するんだって!」
一緒のアルバイトのレイちゃんがコソコソっと言ってきた。環様は僕が休みの時はレイちゃんを指名しているらしい。
「相手は、真木さんって……ほら、背の高いカッコイイ男の人。分かる?」
「え?」
今、真木さんって言った? 真木さんって真木さん?
って言いたかったけれど、言葉が喉のところでつっかえて出てこない。
「昨日ね、その真木さんのお兄さんと三人でいらしたんだよ。それで、結婚したらどこに住むとか、すごい具体的な話してた」
「……………」
「真木さんご実家が大阪なんだって。だから両親顔合わせを東京と大阪どっちでするかって……」
「……………」
なんだろう……それ。そんな話、全然聞いてない。
真木さんとは、あの日の朝に電話で話してから今日までの約2週間、一度も連絡を取っていない。
あの日の朝、起きたら真木さんがいなくなってて、寂しくてお布団の中で丸くなっていたけれど、ホテルの部屋備え付けの電話の音に飛び起きた。
『チヒロ君?』
電話の向こうからの優しい声にきゅううって胸が温かくなる。でも、真木さんはちょっと焦ったように言った。
『チヒロ君、時間がないから用件だけ言うよ』
電話の向こう、駅かな?って感じがする。ピシッとした声に「はい」と返事をすると、真木さんは3秒くらいの間のあと、淡々と、言った。
『これからしばらく会えなくなる。俺が連絡するまでは、チヒロ君からは連絡しないでくれる?』
「………………………………、え?」
なんで? 恋人、なのに?
『どうしても連絡しないといけないことが起きた場合は、お姉さんに頼んでお姉さんから連絡して?』
「………………………」
アユミちゃんから? アユミちゃんは連絡してもいいの?
『分かった?』
「………………」
分からない。でも、思ってること、何も言えない。
どうして? どうして? 真木さん……
「………………どうして?」
何とか絞り出して聞いたけれど、真木さんはアッサリと、『理由は言えない』と言った。
そんな……そんなの。
『とにかく………』
ふうっと息を吐いた音がした。
『今、君に会うことはできない』
「…………」
『だから………』
また、少しの沈黙のあと、真木さんは『チヒロ』と切ないような声で呼びかけてくれた。
『こうして声を聞いたりしたら、会いたくて我慢できなくなるから、電話もしないよ』
「………っ」
真木さん!
叫びそうになってしまった。
真木さん、僕も会いたい。真木さんに会いたい。会いたくて会いたくて、我慢してて、やっと会えたのに、また会えなくなるの?
って言いたいけど、言えない。
『チヒロ君』
「………………………はい」
『………………』
「………………」
電車が入ってきた音………
『また、連絡する』
「………………」
それは、いつ……?
『これから俺………』
「え?」
真木さん、何か言ってくれてるのに、駅のアナウンスの音がうるさくて全然聞こえない。
「真木さん、聞こえないですっ」
後ろの音に負けないように叫ぶと、
『ああ……、じゃあ今度会った時に話すよ』
真木さんは、そういって『じゃあね』とアッサリと電話を切ってしまった。
「真木さん……」
だから、今度って、いつ? 明日? 明後日?
切れた電話を戻して、僕は再びお布団の中で丸くなった。真木さんの残り香を少しでも長く感じていたくて。
---
お読みくださりありがとうございました!
次回、火曜日に更新予定です。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
どれだけ励まされたことか……。本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「グレーテ」目次 → こちら