【哲成視点】
『お前のことが、好きだよ』
中学の卒業式の後、村上亨吾は真剣な瞳を真っ直ぐこちらに向けて言ってくれた。
『誰にも取られたくない。お前のことが欲しい、と思う』
『でも、その感情を優先させて、お前に離れられるのは本末転倒なんだよ』
『お前が欲しいって思う感情よりも、お前と一緒に一緒にいたいって感情の方がずっと大きいから』
『だから…………一緒にいてほしい』
『だから…………一緒にいてほしい』
だから、一緒にいた。ずっと、ずっと一緒にいた。
***
村上亨吾は、高校生になって、ますますかっこよくなった。見た目もだけど、中身も、何というか……遠慮がなくなった。中学の時は、色々なことに遠慮していたのに、卒業の頃から殻が破けてきて、高校になってからは、それこそ、翼が生えたみたいに自由だ。
同時に、愛想が悪くなった、とも言える。元々そんなに愛想が良い方ではなかったけど、さらに、だ。周りに余計な気を遣うのをやめたらしい。でも、それを女子達は「クールでかっこいい」と言ってる。
(まあ、そうは言っても………)
オレにだけは、優しい笑顔をみせる。時々、愛しくてたまらないって瞳でオレを見ていることも知ってる。オレは『愛されてる』。その優越感は何ものにも代えがたい。
「亨吾君って好きな人いるの?」
高1の文化祭前、同じ中学だった荻野夏希に聞かれた。
「バスケ部内で一番可愛いサッチンが告白したけど撃沈したから、みんな「誰ならいいんだよ!?」って騒いでるんだけど」
「んなこと言われても知らねーよ」
肩をすくめてみせると、荻野は「教えてよー」と拝んできた。
「だって亨吾君に聞いても、シラ~って目でチラッとこっち見るだけで、何も答えてくれないんだもん」
「あはは」
その様子が目に浮かんでちょっと笑ってしまう。
荻野はムーッとしたまま続けた。
「みんなさ~文化祭が迫ってるから焦ってるんだよ~」
「焦ってる?」
何で?
聞くと、荻野は「知らないの?!」とビックリしたように叫んだ。
「白浜高校七不思議の一つ。後夜祭で手を繋いだカップルは幸せになれるという……」
「え…………、知らなかった」
幸せになれる……?
「だから、後夜祭で告白してカップルになるって人も多いらしいよ~」
「………………」
幸せ…………幸せ?
「カップルになる……」
(村上亨吾はオレのことが好き)
だから、誰からの告白も受けない。でもそうすると、幸せになれない? じゃあ、オレが村上亨吾とカップルになればいいのか?
でも……よく分からない。男同士なのにカップルって何なんだ?
「キョーゴ、ホントにいいのか?」
正直に本人に打ち明けてみた。「キョーゴと一緒にいたいけど、付き合うとかは分かんない」と。そして、
「告白してきた女子って、あれだろ? 後夜祭に誘ってきたんだろ? もしかしたらキョーゴ、幸せになれたかもしれないのに……」
オレのせいでそのチャンスを逃すなんて……
すると、村上亨吾は優しく笑って、額にそっとキスをくれた。
「今、お前とこうして一緒にいられることがオレの幸せだから。これ以上の幸せなんかいらない」
「…………」
…………。
その真っ直ぐさに、胸がぎゅっとなる。
こいつ、本当に、オレのことが好きなんだよな……
そんなことを言ってくれるこいつに、オレは何を返せばいいんだろう……
そう思ってたところ、ものすごく良いことを思い付いた。
ヒントをくれたのは、中学の同級生の渋谷慶だ。
渋谷は、今までは誰にも名前を呼びつけにすることを許さなかった。中学の時、ふざけて「慶」としつこく呼んだ奴を、歯が折れるまでボコボコにしたっていう有名な話があるくらいだ。
それなのに、
「慶! 待たせてごめんね!」
「いや、全然大丈夫」
そんな会話が耳に飛び込んで来て、ビックリし過ぎて思いきり振り返ってしまった。
そこにいたのは、キラキラオーラの渋谷慶と、村上亨吾と同じバスケ部の奴……確か名前は桜井……
「慶のクラス、終わるの早いよね」
「うちが早いっていうより、お前のクラスが遅いんだよ。何にこんな時間かかってんだ?」
「んー、小林先生が、同じ話何回もするせいかも」
「なんだそりゃ」
楽しそうに話しながら、オレの前を通り過ぎようとしたけれど、渋谷がオレに気がついて立ち止まった。
「おー、テツ。今日は部活ないのか?」
「ああ、うん」
(渋谷……)
いつもよりもさらにキラキラしてるように見えるのは気のせいだろうか。
桜井は、ニコニコしながら「自転車持ってくる」とゼスチャーをして、駐輪場に向かって行った。
「テツの数学部、すごいんだってな」
「あ、ああ。うん。先輩たちのおかげだけどな」
「あ、ああ。うん。先輩たちのおかげだけどな」
「へ~。なんかそういう話聞くと、おれも部活やれば良かったかなあって思うよ」
「あー……」
渋谷は帰宅部だ……って、そんな話よりも!
「渋谷さ……今、『慶』って呼ばれてなかった?」
「あ? ああ、うん」
渋谷は少し笑って頬をかいた。なんだその嬉しそうな顔。
「お前、『慶』って呼ばれるのすごい嫌がってたのに、解禁したのか?」
「あ、いや」
ブンブン、と手を振った渋谷。
「あいつだけ特別。あいつは特別だからいいんだよ」
「え」
「あ、浩介!」
渋谷は駐輪場から自転車を転がしてきた桜井に「そこで止まれ」のゼスチャーをすると、
「じゃ、テツ、またな!」
「え? あ、うん……」
オレに手を振って、桜井の元に走っていってしまった。あいかわらず爽やかな後ろ姿を見ながら、今の話を反芻する……
(渋谷も桜井のこと名前で呼んでたな……)
二人、寄り添って歩いていて、本当に仲が良さそうだ。オレと村上享吾の身長差と同じくらいだから、オレ達が一緒に歩いててもあんな風に見えるんだろうな……
(特別……特別……)
「あー……」
渋谷は帰宅部だ……って、そんな話よりも!
「渋谷さ……今、『慶』って呼ばれてなかった?」
「あ? ああ、うん」
渋谷は少し笑って頬をかいた。なんだその嬉しそうな顔。
「お前、『慶』って呼ばれるのすごい嫌がってたのに、解禁したのか?」
「あ、いや」
ブンブン、と手を振った渋谷。
「あいつだけ特別。あいつは特別だからいいんだよ」
「え」
「あ、浩介!」
渋谷は駐輪場から自転車を転がしてきた桜井に「そこで止まれ」のゼスチャーをすると、
「じゃ、テツ、またな!」
「え? あ、うん……」
オレに手を振って、桜井の元に走っていってしまった。あいかわらず爽やかな後ろ姿を見ながら、今の話を反芻する……
(渋谷も桜井のこと名前で呼んでたな……)
二人、寄り添って歩いていて、本当に仲が良さそうだ。オレと村上享吾の身長差と同じくらいだから、オレ達が一緒に歩いててもあんな風に見えるんだろうな……
(特別……特別……)
いいな……特別……
(ってあ! そうだ!)
二人が門を出て行くのを見送っていたら、いいことを思いついた!
(二人だけの特別な呼び方! それだ!それだ!)
村上享吾にしてやれること。そしてオレがしたいと思うこと。それは、
(オレ達は特別仲が良い)
その、証明だ。
その日の放課後、委員会が終わってからうちに遊びにきた村上享吾に、
「オレ達だけの、特別な呼び方を決めよう!」
と、提案した。村上享吾もなんだかんだとノリ良くその話にのってくれて、二人であーでもないこーでもないと検討した結果、「キョウ」と「哲成」に決定した。これは誰にも呼ばれていない呼び方だ!
「キョウ」
二人が門を出て行くのを見送っていたら、いいことを思いついた!
(二人だけの特別な呼び方! それだ!それだ!)
村上享吾にしてやれること。そしてオレがしたいと思うこと。それは、
(オレ達は特別仲が良い)
その、証明だ。
その日の放課後、委員会が終わってからうちに遊びにきた村上享吾に、
「オレ達だけの、特別な呼び方を決めよう!」
と、提案した。村上享吾もなんだかんだとノリ良くその話にのってくれて、二人であーでもないこーでもないと検討した結果、「キョウ」と「哲成」に決定した。これは誰にも呼ばれていない呼び方だ!
「キョウ」
そう呼ぶと、享吾はいつもの『愛しくてたまらない』って瞳をして、そっとキスしてくれた。
(村上享吾はオレのことが好き……)
そう実感できる瞬間だ。でも……
「このキスはなんだ?」
そう聞いても、享吾は軽く肩をすくめて、「つい、なんとなく」としか言ってくれない。
「だと思った」
笑いながらも、少し、寂しく思う。
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お読みくださりありがとうございました!
今回のお話は「続・2つの円の位置関係」の2(享吾視点)の哲成視点でした。
次回も哲成視点で……
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