創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~平成の終わりに

2019年04月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】


 浩介は『記念日』が大好きだ。

 おれはトンと興味がないので、ほとんど覚えていないけど、浩介はとにかく色々な『記念日』を設定?しているらしい。

 良く覚えているから、何かに書いてるのか?と聞いてみたら、答えは『否』だった。恐ろしい記憶力だ……

 しかし。その超人的記憶力を持ってしても、どうしても分からない日があるそうだ。

 それは『初めて出会った日』記念日。

 おれ達は、小学校3年生の時に一度だけ一緒に遊んだことがあるらしい。おれの幼児教室かなんかで一緒だった友達が引っ越しするとかで、浩介の最寄駅近くにあったその友達の家にいった際、バスケをして遊んでいたところ、偶然通りかかった浩介を、おれが仲間に誘った、らしい。

 おれのわずかな記憶と、浩介の記憶と、当時高校生だった姉の記憶が一致しているので、本当のことだと思われる。


「やっぱり、その時の写真なんてないねえ…」

 うちの実家でおれのアルバムを引っ張り出して、おれの小学校時代の写真をくまなく見ていた浩介が、心底ガッカリしたように言うから、なんだか気の毒になってきた……。前にも同じことで写真を探したことがあるけれど、諦めきれず、また探していたらしい。

「あーあ。平成が終わる前に昭和のこと知りたかったのに……」
「なんだそりゃ」

 意味が分からない。

「前にお母さんと椿さんにも聞いたんだけど、覚えてないって言われたんだよね……」
「南は?南には聞いてないのか?」

 意外だ。浩介と妹の南は仲が良いのに。
 すると、浩介は「んー」と唸ってから、

「あの時、椿さん以外に女の子はいなかったんだよ。だから、もしかしたら、南ちゃん、入院とかしてて来られなかったのなら、この話するの悪いかなって思って、昔からずっと聞けずにいて……」
「あー……」

 南は小さい頃は体が弱くて、入退院を繰り返していたのだ。でもそれも昔の話だ。

「もうすぐ南達も来るし、聞くだけ聞いてみようぜ」

 せっかくのゴールデンウィークなので、実家にみんなで集まることになったのだ。

「でも……」
「あいつ全然気にしてねえよ。お前の気の遣いすぎだ」
「でも……」

 浩介は相変わらず『きーつかいー』だ。おれの家族にまでそんな気を遣わなくていいのに……

「南様のことだから、何か知ってるかもしんねーぞ」
「うん…………」

 心配気な浩介の頭をヨシヨシと撫でてやる。

 おれが浩介の頭を初めて撫でたのは、高校一年生、平成の始めの頃のことだ。そうして一緒に過ごした平成が終わりを告げようとしている。


***


「何それ!運命的に小さい頃出会ってた、なんて美味しい話、なんで今まで教えてくれなかったの!?」

と、いうのが、南の第一声だった。そしていつもながらの切り替えの早さで、母を振り返った。

「お母さん、それ、ユリエちゃんちのこと?」
「ああ、そうそう」

 みんなの分のお茶を入れてくれながら、母が適当な感じにうなずいた。

「慶と同じ歳だったのがケンゴ君で、妹のユリエちゃんは3つ下だったかしら? 南といつも遊んでたわよね」
「うん。確かその日に撮った写真、あったよね」

 あっさりと言った南に、浩介が「えええええ!?」と物凄い勢いで食いついた。

「その写真、見せて!」


 と、いうことで、南が元南の部屋からアルバムを持ってきた。

「んーと、これ」

 指さされたのは、子供達がご飯を食べている様子の写真。南とユリエちゃんはカメラ目線だけれども、おれとケンゴは食べるのに夢中でカメラなんか向いてない。だから、おれのアルバムには貼ってなかったんだ……。

 でもあいにく、日付は入っていないので、日にちまでは分からない。

「みんな半袖ってことは夏だね……」
「そうそう、夏休み入ってすぐに引っ越したのよ」
「これ、昼ご飯だよな?ってことは、土曜日かなあ? 浩介、学校の帰りだったんだろ?」
「うん……」

 浩介は、小学校と中学校は都内の私立校に通っていたのだ。

「でも、一緒にバスケしたの、夕方近くだったよね……。おれ、昼も食べないで夕方までウロウロしてたのかなあ?」
「それは変だな……」
「あ、お兄ちゃん、この後ろ、見て。たぶん人生ゲーム。これやり途中っぽくない?お金散らばってるし」

 南、やっぱり目のつけどころが違う。

「土曜日、学校が終わってから行ったとしたら、到着は1時は確実に過ぎてるよね? なのに、お昼食べる前にゲーム始めるかなあ」
「確かに……」

 そう考えると、学校が休みだったと考えるのが自然だ。

「あ、分かった!慶達の学校の創立記念日だったとか!?」

 パチン!と手を叩いた浩介。でも、「それはないわね」とアッサリ母が手を振った。

「慶達とケンゴ君、学校違うから。ケンゴ君はそっちの学区の小学校」
「あーそうか……」

 ガッカリ、と浩介が肩をおとす。
 南がふと気がついたように、姉を振り返った。

「そいえば、お姉ちゃん写ってないけど、お姉ちゃんもいたんだよね?」

 椿姉は、「んー……」と首をかしげると、

「全然覚えてないけど……お昼は食べてないのかもしれないわね。この場にいたら写真一緒に写るでしょ」
「いえてる」
「そうだとしたら、私も学校の帰りに寄った可能性が高くない?」
「あ、じゃあ、夏休み入りたてとか?」

 ポン、と手を打った南。

「高校とか私立の小学校は、ここいらの小学校より夏休みの始まりが遅かったとか」
「なるほど」
「ううん! 違う違う!」

 ジーっと写真を見ていた南の娘の西子ちゃんが、トントントン、と写真の端の方を叩いた。

「これ。このカレンダー、下半分しか写ってないけど、6月だよ。30日までしかない」
「おおお~」

 大人たちみんなで拍手してしまう。さすが若い。こんな小さな文字に目がいくとは!

「と、いうことは。情報をまとめると……」

 西子ちゃんが、ピッと人差し指を立てた。

「お母さんと慶兄の小学校とケンゴ君の小学校は、お休み。浩兄の小学校と椿姉の高校は普通に学校があった」
「うん」
「そして、これは、6月」
「うん」
「ってことは」

 ニッと笑った西子ちゃん。

「あ」
「あ」

 つられたように、南と椿姉が一緒に「あ」と叫んだ。

「そしたら、あの日しかないじゃん」
「だよね」
「そうね」

 え、え、え?

 知った風の3人に「何?何?何?」と食いつくと、その横で母が呑気に「あー分かった」とうなずいた。

「横浜開港記念日ってことね?」




【浩介視点】

 
 横浜開港記念日である6月2日は、横浜市立の小学校中学校は休みになる、らしい。

 らしい、というのは、おれは小学校中学校ともに都内の私立校に通っていたので、体験していないのだ。高校は、神奈川県立だったので、休みにはならなかった。

 なんだか悔しいなあと、昔から思っていた。そういう体験を、おれはみんなと共有できていない……

 成人式でも、慶や高校の同級生の溝部達は普通に「横浜市歌」を歌っていて、物凄い疎外感を覚えたのだ。慶達の話によると、小学校や中学校では、校歌みたいに「横浜市歌」も歌っていたそうだ。子供の頃に覚えた歌というのは不思議なもので大人になっても覚えているので、たぶん慶は今でも歌えるだろう。

 そんな悔しい思い出の象徴のような、横浜開港記念日。それが実はおれ達のはじまりの日だったなんて!

 現金なもので、今は「開港記念日ありがとう!」と叫びだしたいくらいだ。


「分かって良かったな?」
「うん!」

 家に帰ってきて、ソファでコーヒーを飲みながら、慶にピッタリとくっつく。昨日の慶の誕生日に購入した最新式のコーヒーメーカーで淹れたコーヒーは、やっぱり今までと一味違う。

「これで昭和の記念日も分かって、ホント嬉しい!」
「……って、お前、いったいいくつ記念日あるんだよ」
「知りたい知りたい?!」
「…………」

 苦笑した慶。全然興味ない感じ。でも、せっかくだから!

「じゃ、はじめから言ってくね!」
「……どうぞ」

 促してくれた手をぎゅっと掴んで、その愛しい瞳をのぞきこむ。

「まず。初めて出会って、バスケを一緒にした日! 昭和58年6月2日。小学校3年生」
「うん」
「それから、中学3年生。おれがバスケの試合してる慶を見た日。平成元年7月2日」
「あ、そうか。平成元年、だな」
「うん」

 そう。おれが『渋谷慶』という心の支えを得た日。あの日がなければおれは今ここにはいない。それが平成のはじまりだった。その平成ももう終わる……

「それから、高校1年生。慶が自主練してるおれを見たのが、平成2年4月26日。初めて話をしたのは、5月10日」
「……懐かしい」
「うん」

 あの時、高校の体育館の入り口に佇んでいる慶を見て、どれだけ驚いたことか。あの時、初めて触れた手が、今、おれの手の中にあることがどれだけ幸せなことか。

「それから、11月2日。慶が初めておれのこと名前で呼んでくれた日」
「え、そうなのか?」

 へえ~と言った慶。
 実はこの日は『慶がおれを好きだと気がついた日』でもある。慶が以前、話してくれたのだ。でもどうせ覚えてないだろうから、言わない。おれだけの秘密だ。

「それから、11月8日が、おれが慶を初めてちゃんと名前で呼んだ日」
「へ~~~」
「それに、慶がおれのこと『親友』だって言ってくれた」
「へ~~~」

 お前、ホント覚えててすげえな、と慶がいう。
 慶にとっては何でもないことかもしれないけれど、おれにとっては大事件だったんだよ?

 大事件はまだ色々あるけど、少し省いて……大大大事件。

「高校2年生。平成3年11月3日」
「あ、それは分かる。初めてキスした日、だろ?」
「当たり!」

 チュッとキスをすると、慶が柔らかく笑ってくれた。
 文化祭の最終日、後夜祭のキャンプファイヤーを見ながら重ねた唇……今も少しも変わらず愛おしい感触。

「それで、12月23日」
「付き合いはじめ記念日、な?」
「うん」

 もう一度、キスをする。クリスマスツリーの下。勇気を出して告白をした。あの時よりも、もっと、深く、あなたを愛している……

「それから……平成4年2月23日」
「2月23日?なんだそれ?」

 案の定、きょとんとした慶に、わざとにっこりと言ってあげる。

「覚えてない? 高校2年生の時、慶の部屋で初めてお互いの……」
「わー!やめろっ」

 バッと赤面した慶。いくつになっても照れ屋で可愛い。ついつい揶揄いたくなってしまう。

「お前、そんなの記念日認定するなよっ」
「えーいいじゃん。ちなみに2回目は翌年おれの部屋で……」
「もういい!」
「本番はホテルで4月……」
「だからもういいって!」
「わっ」

 どんっと肩を押されて、ソファに倒れる。のしかかってきた慶が怒ったように言ってきた。

「お前、どんだけ記憶力いいんだよっ」
「……慶との思い出はどれだけでも覚えられるんだよ」
「じゃあ……」

 すっとその綺麗な瞳が近づいてくる。

「次の令和も、意味わかんねえ記念日いっぱい作れ」
「うん」
「とりあえず、明日の平成最後の日は……」
「朝からずっとイチャイチャしてたい♥」
「……あほか」

 呆れたように慶は言うと、優しい優しいキスをくれた。

 昭和でほんの数時間だけ会って。
 平成の30年の間は、離れ離れの3年以外は一緒にいて。
 これから始まる令和では、離れ離れの時間なんて絶対に作らない。ずっとずっと一緒にいる。

「大好きだよ、慶」

 心を込めていうと、慶は蕩けるような優しい瞳で「おれもだよ」と言ってくれた。




------------

お読みくださりありがとうございました。
ものすごい日常話。お付き合いくださり本当にありがとうございます。
ようやく書けた小3の話。

平成最後の今日。二人は予定通り朝からイチャイチャしてます♥明日と明後日、慶は仕事なので、今日のうちに堪能しておかないと!

次回金曜日お休みして、連休明けからスタートしたいなあと思っております。
皆様素敵なゴールデンウィークをお過ごしください。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!おかげで平成も無事終了することができます。令和でもどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング

ランキングに参加しています。よろしければ上二つのバナーのクリックお願いいたします。してくださった方、ありがとうございました!



「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする