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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 21-1(諒視点)

2017年02月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 彼の誕生日前日……

 彼がオレを抱いてくれた。

 それは、彼への誕生日プレゼントで、オレはこの日のために色々と準備をしてきた。でも……

「優ちゃん、ホントにいいの……?」

 この日も30分以上かけて準備をしたけれども、それでも不安でたまらなかった。

 分かってくれているとは思っても………もし、男のオレに対して彼が勃たなかったら……彼より背の高いオレを「抱く」というイメージを持ってもらえなかったら……そう思うと怖くて、電気もつけたくなかった。でも、彼はものともせず、電気をつけ、 

「何言ってんだよ。オレはお前を初めて見たときから、お前と結婚するって決めてたんだからな」

 そう言って、優しくキスしてくれた。
 体中、たくさん、触ってくれた。体中、たくさん、キスをしてくれた。夢にまでみた時間……

 そして……

「オレの初めては優真にあげるから」
 
 なるべく自然な形で騎乗位に持ち込んで、繋いだ手に力をこめた。ゆっくりと挿入を試みる。
 この日まで、何度も自分で彼のモノを妄想しながら指を入れたりしていたけれど、実際の彼のモノは、そんな生易しいものじゃなくて、そこが裂けてしまうのではないかというくらい熱くて太くて……でもその分だけ、実感がわく。彼が、入ってくる……

「入っ………た」
 体が彼に着いた。全部入った、ということだ。すごい熱……。
 彼が、オレの初めて。そして、これが、彼の初めて。オレが、彼の初めて。

 喜んでくれる……? そう思って彼の表情をみたのだけれども、彼は眉を寄せたままで……途端に不安が襲ってくる。

「優ちゃん………気持ち良くない?」
「何言ってんだよ?」
「だって……」

 言うと、彼は繋いだ手をギュッとして、

「こんなになってんの、分かんない?」
「あ……っ」

 下から思いきり突き上げられ、悲鳴じみた声が出てしまった。痛い……っ
 でも、そのまま、彼が何度も突き上げてくる。何度も、何度も。

(優真……)

 なんて充実感……。この痛みが、優真。優真がオレで固くなってる。オレで感じてる。今までたくさん心が傷ついてきたけれど、そんな痛みなんか上書きされる傷み。心全部体全部を抉られるような感覚。気が遠くなってくる。

 優真、優真がオレの中にいる……

「諒?!」
「………え」

 はっと我に返ると、律動をやめてこちらを心配そうに見ている彼の顔があった。彼が焦ったように言う。

「ごめん、オレ調子に乗って……っ」
「あ………」

 涙が出ていることに初めて気が付いた。慌てて「違っ」と首をふる。

「違う……」
 涙が止まらないけれど、精一杯の笑顔で伝える。

「優ちゃんが、オレの中にいる……」
「え……」
「それが、嬉しくて……」

 ぎゅうっと握った手に力をこめる。

「夢、みたい……」
「……諒」

 彼もふわっと笑ってくれた。

「お前の中、すっげー気持ちいいよ」

 え……

「ホントに?」
「うん」

 ああ……なんて幸せ。
 繋がったまま、唇を重ねてくれる。涙が伝っている頬にキスをくれる。

「大好きだよ、諒」
「優真……」

 大好き。大好き。優真……

「誕生日おめでとう」

 そういうと、彼は恥ずかしそうに微笑んでくれた。


***


 それから約4ヶ月……

(なんでかなあ………)

 ため息が出てしまう。
 その後、挿入までしたのは、その一週間後に、2回、だけなのだ。
 イチャイチャ、は毎日してる。その上、週2くらいは、お互いのモノを扱き合うまでのイチャイチャはしている。でも、挿入まで、は、ない……

(したくないのかな……)

 先週、直球で「しよう」って誘ったけれど、なんだかんだでうやむやにされた。

(やっぱり、良くなかったのかな……)

 そう思うと、落ち込んでくる……。
 でも、初めての時も、その後の2回も、彼はちゃんとイッた。ちゃんとオレの中でイッた。そんなに時間もかからず、ちゃんと気持ち良さそうに絶頂を迎えてくれた。女性と違って、出るものが出るので、演技じゃないことは確かなんだけど……

(するの、好きじゃないのかな……)

 でも、しょっちゅうイチャイチャをしかけてきてくれるので、触れあうことが嫌ということではなさそう……

(うーん……)

 オレは毎日でもしたいのに。痛いけど、でも、彼の欲望に追いたてられたいと思う。欲しいって目をした彼と繋がりたいと思う。………オレがおかしいんだろうか。でも、健全な中高生なんてそんなものじゃないのか……?

 うーん、うーん、と唸っていたら、

「何唸ってんの?」

 なんかあった? と、侑奈が声をかけてきてくれた。でも、これはさすがに相談できない……と思って黙っていたら、

「もしかしたら、その唸りと関係あるかも、の話があるんだけど?」
「え!?」

 何だって!?

 食いついたオレに侑奈が話してくれた話は、オレを途方に暮れさせるのに充分な話だった………。


--


お読みくださりありがとうございました!
って全然途中なんですけど、トラブル発生によりここまでで……

途方に暮れる話→ヒントは、諒君のこのセリフ。

「そんなに時間もかからず、ちゃんと気持ち良さそうに絶頂を迎えてくれた」

実は小心者で、その上、「カッコイイ諒」に対してはライバル心の強い泉君……かーらーのー…………。です。

ちなみに上記話の泉視点はこちらの2本でした。 → 18-5 18-6


トラブルが何かと言いますと……
土曜の夜、眼鏡をかけたまま寝てしまっていて、日曜日起きたら、

真っ二つになってました(^_^;)
テープで応急措置してかけても気持ち悪くなるし~~
でも、裸眼0.01(←すみません!訂正です!今日測ったら0.05でした!!)なので、かけないと何もできない~~
パソコンも使えずテレビも見れず、スマホも長時間は無理(>_<)

日曜日は朝から夜まで外出しなくてはならず、やむなくコンタクトで出ましたが、久しぶりのコンタクトで目がパシパシ……
とりあえず朝一で眼鏡屋さん行ってきます~~。

続きは明後日……できるかな(^_^;)眼鏡の出来上がり次第かもですがっっ……何卒よろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 20(浩介視点)

2017年02月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

 もうすぐ2学期が終わる。
 2年生には進路希望調査の紙が配られたのだけれども……

「もーー!桜井先生!こいつなんとかしてー!」

 他には誰もいない社会科準備室に、泉優真君の叫び声が響き渡った。「こいつ」と指さされた高瀬諒君は隣でプーッと頬を膨らませている。

「なんとかして、って?」
「こいつ、美容師の専門学校に行くとか言ってるんだよー!」
「?」

 それがどうして「なんとかして」なんだ?

「なんで? いいんじゃない? 美容師。高瀬君似合いそう」
「いやそりゃ似合うけどさ! 理由がおかしいんだよ!」

 プンプン怒っている泉君の話によると……

 泉君が小さい頃から通っている床屋さんは、かなり高齢のおじいさんが一人で経営していて、今年いっぱいで店じまいをするらしく……

「だから他の床屋か美容院を探そうと思ってるんだけど、こいつが他の人にオレの髪の毛触らせるの嫌だっていって」
「だから、自分が美容師になって泉君の髪を切るってこと?」
「はい」

 こっくりと力強く肯く高瀬君。

「床屋のオジサンには、オレが美容師になるまでは、優真の髪だけは切ってってお願いしました」
「で?」
「いいよって快諾してくれました」
「そ、そっか……」

 すごいな高瀬君……
 確かに気持ちは分からないでもない。髪の毛を触らせるって何だか特別な感じがするもんな……

「ねーおかしいでしょ? こんなことで将来決めるなんて」
「こんなこと、じゃない! 大問題!」
「何が大問題だよっ。だから同じようなジジイのやってる床屋探すって言ってんだろ」
「だからダメだって!おじいさんでもゲイはいる!」
「ちゃんと奥さんがいるジジイを……」
「そんなの奥さんいたって信用できない!カモフラージュかもしれないし!桜井先生のあかね先生みたいに!」
「そんなこと言ってたら、どこにも行けないだろっ」
「だからオレが切るっていってるんだよ!」

 わーわー怒鳴り合っている二人……

「だいたい、お前、自分は美容院の綺麗なお姉さんに切ってもらってるくせに!」
「オレはどうでもいいんだよっ。優真はダメ!」
「なんで!?」
「全然タイプじゃない女子に告白されて、大喜びしてたくせに!」
「おっ前!それは初めてだったんだからしょうがないだろー!」

「………………」
 ああ、いいなあ……若いなあ……
 って、おれも10歳しか変わらないんだけどなあ……なんだろうこの初々しさ……

「桜井先生! ぽやーっとしてないで何とか言ってよ!」
「え、ああ……」

 泉君のツッコミに我に返る。

「いや……別にいいんじゃないかな、と思うけど? 高瀬君がなりたいなら、キッカケや目的なんかなんでも。あとは自分がどれだけ頑張れるかだよ」
「先生ー!」
「ですよねー?」

 ほらいったじゃん、と恋人を肘で小突く高瀬君も、しょうがねえなあ、と呆れた表情をした泉君も、とても幸せそうだ。ただの惚気話に付き合わされた感満載……

「そういう泉君は? 進路希望どうした?」
「あーオレは大学行ってもいいけどできれば国立って言われてるから、国公立クラスかなあって」

 うちの学校は、大学付属なので上に大学が付いている。そこそこレベルの高い大学だけれども、他学を受験する生徒の方が多く、学校側もそれを推奨している。(高瀬君のように専門学校に進むという生徒はすごく珍しい)

「おうちの和菓子屋さん継がないんだ?」
「兄ちゃんが継ぐからオレは用無し。店舗数増やすとかそういうことまったく考えてないから、二人も後継ぎいらないんだよ」
「そっか……」

 その家庭その家庭、色々あるんだな……
 うちの母も後継ぎがどうのと言うなら、あと2、3人子供を作ればよかったんだ。父はすぐにこんな出来の悪い息子は見限って、父の下でずっと働いてくれている庄司さんを後継ぎにって言っているのに、母は陰でくどくどくどくどと……
 
 などと黒い感情に支配されそうになるのを、寸前で引き返す。ここは職場。おれの居場所……


「あ、いいこと思いついた!」
 急に高瀬君がパチンと手をたたいた。

「オレも国公立で調査書出す! その方が一緒のクラスになれる確率上がるし!」
「あ……なるほど……」

 それは言えてる。

「国公立は毎年2クラスくらいだからね。二分の一の確率になるね」
「ねー先生、裏で手回して一緒のクラスにしてもらえないー?」
「それはさすがに無理だなあ」
「そこを何とか」

 二人に拝まれて笑ってしまう。

「二人は同じクラスになったことないの?」
「小学校は一クラスしかなかったからずっと一緒だったけど、中学高校ではなれなくて」
「一緒のクラスで文化祭とか球技大会とかやりたーい」
「こないだの修学旅行だって、クラス別コースだったから一回も会えなかったし……」

 それは気の毒に……
 おれは高校2年生の時だけ慶と一緒のクラスだったので、修学旅行も一緒にいけた。文化祭も球技大会も楽しかった……

「うーん……まあ、もしも、おれが3年生の担任を持てて、クラス編成に口出しできるようだったら……」
「うんうん!もしもそうなったらでいいから!」
「よろしくお願いします!」

 二人は来た時とはうって変わって、明るい顔で社会科準備室から出て行った。ドアが閉まってもなお聞こえてくる、二人の楽しそうな話声に心が温まってくる。

「いいなあ……」

 毎日一緒にいられる二人が羨ましくてたまらない。おれも高校の時はそうだったんだよなあ……
 高校2年生の今頃は……ああ、そうだ。ちょうど慶への恋心に気が付いて苦しんでいた頃だ。そしてクリスマスイブの前日、とうとう打ち明けて、それで……。
 それが10年前のこと。だから、明後日12月23日は、10回目の記念日なのだ。


***


 10回目の記念日、だけど……

「帰ってこない……」

 慶の部屋の中、ポツンと響く自分の声……

 今日は休みを取ってくれているはずだった。
 はずだったのに、どうしても出勤しなくてはならなくなった、と今朝連絡があり、そのまま音信不通……

(おれが慶を想うほどには、慶はおれのことを必要とはしていない)

 それは昔から分かっていることだ。おれは慶に依存している。慶がいなくては生きていけない。でも、慶はそうじゃない。慶はおれに依存なんかしていない。慶はおれなんかいなくても笑ってる。友達もたくさんいる。
 でも、慶がおれを好きなことは分かっているし、その愛は充分伝わってくる。おれはただ、慶に迷惑をかけているだけなのに。

(7年前だって……)

 7年前、おれの母が、慶のアルバイト先に押しかけ、結果慶はアルバイトを辞めることになった。慶の家族の職場にも押しかけ迷惑をかけたらしい。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないので、表面上は別れたことにして、友人のあかねと付き合っているという嘘をつくことにした。

 でも、この作戦ももう限界だと思う。母は調子に乗って、祖母の告別式にも、夏の法事にも、あかねを呼びつけた。これ以上あかねに迷惑をかけるわけにもいかない。

『お正月にはあかねさんと一緒に帰ってきなさい』

 喪中だから新年の用意はできないけど、と昨日も母から電話があった。喪中だから挨拶に行かないでいいと思っていたのに……

 今もまた電話がかかってくるんじゃないかと思うと呼吸が苦しくなってくる。でも、慶から連絡があるかもしれないと思うと電源を切ることもできない。

「慶……終わっちゃうよ?」

 10回目の記念日……もうすぐ終わりの時間だ……

「!」
 にらんでいた携帯が震えてドキッとする。でも、電話ではなくメールだったので、あわてて開くと……

『ごめん。今から帰る』

 ただそれだけの、慶らしい短い文。
 どっと体の力が抜ける。涙が出てくる。
 慶……慶。会いたい。会いたかったよ……

「…………。なんて言ってる場合じゃない!」

 声に出して言って、自分にはっぱをかけた。慶の勤める病院の外門からここまでは徒歩5分。おそらくこのメールは更衣室で打ってる。そして、たぶん、慶は走って帰ってくる。そう考えると……

「5分、くらいか」

 慌ててカバンから教科書や資料集を引っ張りだし、ローテーブルの上に並べる。そしてレポート用紙に問題を書きはじめる。

 たぶん、慶は「ごめん」ってものすごい恐縮して謝ってくる。だから、「おれも仕事してたから大丈夫」って答える。全然、大丈夫って………


「ただいま!」
 予想通り、5分弱で玄関の開く音がした。バタバタとあわてた様子が伝わってくる。

「お帰りーお疲れ様ー」
「ごめんっごめんな!全然連絡できなくて」
「ううん」

 部屋に入ってきた慶に、ニッコリと手を振る。

「ケーキ買ってきてあるけど、今、きり悪いから、少しだけ待ってくれる?」
「お、おお。お前も大変だなあ」

 慶はほっとしたように言うと、手を洗いに洗面台に向かった。その後ろ姿に気付かれないように、小さく息を吐く。

(大丈夫……大丈夫。上手に嘘つける……)

 ずっと、ずっと待ってたなんて、絶対に思わせない。慶の負担になりたくない。

「何やってんだ?」
「冬休み明けのテスト。2学期の復習。明後日、他の先生と打ち合わせがあって」
「ふーん……」

 慶はおれの横にストンと座ると、白い頬をおれの肩にピッタリとくっつけてきた。その温もりが果てしなく愛おしい。

「あ、フランス革命。おれ、マンガで読んだなー」
「そうそう。なにげにマンガも侮れないよね。同じ作者の人がロシア革命を題材にしたマンガも書いてるんだけど……、って、慶っ」

 いきなり耳にキスをされ、体が震える。

「もー、邪魔しないでっ」
「気にするな。続けていいぞ?」

 わざと音をたてて頬に首に唇を落としてくる慶……もう、泣きたくなってくる。

「もー、分かったから。続きは明日にするから」
「ん」

 慶は満足そうにうなずくと、今度はチュッと唇にキスをくれた。

「今日はせっかく10回目の記念日だからな!」
「うん……そうだね」

 うん。そうだよ……

「ケーキ、食べる?」
「おー。サンキューなー」
「コーヒーでいい?」
「うん」

 慶は離れるのが惜しいかのように、コーヒーとケーキの用意をするおれの背中にぎゅーっとくっついたままだ。

「慶?」
「ん」
「どうしたの?」
「ん」

 オデコをグリグリとしている感触がする。

「お前のこと堪能してんの」
「何それ」

 笑ってしまう。

「堪能?」
「うん……」

 前にまわった腕をポンポンと叩くと、ようやく腕の力を緩めた慶。

「おれ、明日も朝からで、そのまま泊まりだから……」
「…………」

 今日は日曜日。振替休日で明日も休みだ。でも慶には日曜も祝日も関係ない。明日、今日出勤した分、休みになったりしないだろうか、と少し期待していたけれど、やはり仕事ということだ。
 落ち込みそうになるところをどうにか踏みとどまって、明るく提案する。

「じゃあ、明日のお昼、お弁当作って届けようか?」
「え!ホントに?やった!」

 慶はものすごく嬉しそうに叫ぶと、するりと前まで回ってきた。

「ハンバーグ!ハンバーグ!」
「うん」
「あとなーちくわのチーズ巻いてるやつ」
「うん」
「あとー……」
「うん……」

 言いながら、軽く唇を重ね、それからコツンとおでこを合わせる。

「とりあえず、ケーキ食うか」
「うん」
「美味そうだな」
「うん」

「お前、うん、ばっかり」
 くすくす笑いながら、二人分のコーヒーを運びはじめる慶の後ろ姿……。それを見つめるうちに、黒い気持ちが体中を渦巻いていく……

(仕事なんか休めばいいのに)
(今日一緒にいられなかったんだから、明日一緒にいてくれればいいのに)
(どうせおれなんかより、仕事の方が大事だもんね?)

「慶……」
 閉じ込めて、どこにも行かせないようにしたい。おれだけのものになればいい。

「ん? なんだ?」
「…………」

 振り返った笑顔。おれだけのものになればいい。なればいい……

「………。砂糖とミルクいる?」
「いやーさすがにこの時間にケーキ食うだけでも罪悪感あるのに、コーヒーに砂糖までは入れらんねえ」
「だね」

 にっこりと笑って、ケーキをのせた皿をテーブルに運ぶ。

「10周年~~、これからもよろしくね」
「おーよろしくなー」

 コーヒーカップを持ちあげて微笑みあう。

「うわーうめー、なんだこの濃厚なチョコ!」
「よかった。慶、こういうの好きかなって思ったんだ」
「さすが10年付き合ってるだけあるなーよく分かってる!」
「でしょー?」

 嬉しそうな慶。愛しい慶。大好きな慶。

 ほら、大丈夫。おれは上手に嘘がつけている。
 この笑顔を守るためなら、あなたと一緒にいられるためなら、おれはどんな嘘でもついてみせる。


----


お読みくださりありがとうございました!
浩介視点、安定の暗さ!
本当は、20諒視点、21浩介視点、で終わり、のはずでしたが、やっぱり一つ挟むことにしました。

続きは明後日、諒視点最終回(たぶん)です。その後にもう一回浩介視点、で終わる予定です。どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 19-3(侑奈視点)

2017年02月09日 07時33分17秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


「私が好きなのは、泉だから!」

 そう、寺ちゃんが叫んだ。
 真剣な愛の告白。予想もしていなかった。寺ちゃんが泉を好きだなんて……

 でも、その後の泉の言動も、予想外のものだった。
 彼氏である諒の目の前であるにも関わらず、

「え?!オレ?!マジで?!」と、目を輝かせ、
「うわ!嬉しい!マジで嬉しい!」と、大喜びしたのだ。

 その時の、諒の顔面蒼白っぷりといったら、それはそれは本当に気の毒で……
 そんな彼氏の様子にも気がつかないように、泉はニッコニコで寺ちゃんに笑いかけ、

「全然気が付かなかった! つか、小野寺、オレのこと『お邪魔虫』とか言ってたし、むしろ嫌われてると思ってた!」
「だって、それは……っ」

 寺ちゃんは引き続き真っ赤になりながら、

「もちろん侑奈と諒君のこと思って言ったけど、でも、それで泉が侑奈と一緒にいること少なくなってくれるかなっていうのもあって……」
「あ!なるほど!そっかそっか!」

 いやー嬉しいなー女子に告白されたのなんてオレ初めて!マジ嬉しい!嬉しい!

 泉はそう散々「嬉しい」を連呼してはしゃいでいたけれど、

「じゃ、泉……」
と、寺ちゃんが期待を込めた目で泉を見返した瞬間、

「でも、ゴメン!」

 ペコンッと思いきり頭をさげた。


***


「……で、あの馬鹿、なんて言ったの?」
「それがねえ……」

 ここは泉のおうちが経営している和菓子屋さん。奥の休憩スペースで泉のお兄ちゃんとお茶を飲みながら、昨日起きた珍事(?)を報告している。

「泉、にこにこで『オレは、小一の時からずっと諒のことが好きで、やっと両想いになれたんだよ!』って」
「へえ、カミングアウトしたんだ?」
「うん……その上……」

 泉は引き続き明るく宣言したのだ。

『他の奴が入りこむ隙間は1ミリもない!』と。

「うわ、それ、笑顔で言うのが優真らしい……」
「でしょー?」

 あの時の諒の感動したような顔。可愛かった。
 寺ちゃんは「そんな冗談で誤魔化そうとしなくてもいいじゃんっ」ってムッとして、

「だいたい、泉はずっと侑奈のこと好きって言ってた……」
「ごめん、それ嘘」

 あっさりと否定する泉。ちょっと複雑。カチンとくる。乙女心は複雑なんだよ?
 でも泉はニコニコと続ける。

「侑奈のことはもちろん好きだけど、それは友達として。侑奈はおれの救いの女神。親友」
「なにそれ」

 女神とか親友とか持ちあげようとしてるけど、女としては下げられてる。
 泉は私に向かって拝むように手を合わせると、

「侑奈には感謝してるんだよ。オレのこと何度も救ってくれたし、諒と両想いになれたのも侑奈のおかげだし」
「……あー、まあね」

 うなずくと、寺ちゃんが「ホントにホントなの?」と食いついてきた。なので私も正直に、

「本当だよ。だから私も失恋したんだって」

 諒を泉に取られたんだよ。

 そういうと、寺ちゃんはしばらく目をぱちくりさせたあと、

「そっかあ……仲間じゃん私たち」

 ふふ、と小さく笑った。



 そこまで話すと、お兄ちゃんは「ふーん」とうなずいて、

「それにしても……優真ってそんなにモテないんだ? 今まで一回も告白されたことないなんて」
「うーん、そのことなんだけど……」

 そのツッコミに、頬に手を当て考える。

「思い返してみると……小学校の時も中学校の時も、泉のこと好きって言ってた子、いないこともなかったんだよね……」
「でも、告白はされなかった、と」
「うん、というか……」

 泉のことが好き、と水面化で噂が出た子は、その後、ことごとく諒に心変わりをしていったのだ。

 そのことを言うと、お兄ちゃんは目を見開いた。

「え。それ、もしかして、諒君は優真を好きになった子にわざと近づいて……」
「うん。わざと近づいて、自分のことを好きにさせてたんじゃないかなあ……」

 当時から、諒の色気は半端なくて、あの綺麗な顔にニコッとされた女子はみんな諒のファンになってしまっていたのだ。
 まあ、私もそれに引っかかったクチなわけだけど……

「諒ってフワフワしてるくせに、実はすごい腹黒だよね」
「まあ本人がどこまで意識してやっていたかは分からないけどね」

 苦笑気味にお兄ちゃんは言うと、お茶のおかわりを入れてくれた。

「侑奈ちゃん、本当に何も食べない?」
「うん。昨日のケーキがまだお腹に残ってる感じがして」

 昨日はその後、寺ちゃんと一緒に「やけ食いだ!」と私達を振った男二人の前で、ケーキを死ぬほど食べたのだ。もちろん二人のおごりで。
 今までも寺ちゃんとは気があって色々笑って話してきたけど、昨日ほどお腹の底から笑ったのは初めてのような気がする。


「と、いうことで。今日の報告は以上です」
「はい。ありがとうございました」

 お兄ちゃんに深々と頭を下げられ、笑ってしまう。

 泉と諒が付き合っていることを知ったお兄ちゃんに「心配だから時々様子を教えてくれる?」と頼まれてから早3ヶ月。こうして時々お店に寄ってお喋りをしている。

 私たちより5歳年上のお兄ちゃんは、昔から大人っぽくて、今も変わらず大人。あのガキっぽいサルみたいな泉と兄弟だなんてとても思えない。

「じゃあ、オレそろそろ戻るね」
「うん。見ててもいい?」
「明日の仕込みだから面白くないよ?」
「いいのいいの」

 親子三代ならんで作業をしている姿は、見ていて心打たれるものがある。

 お兄ちゃんは私と出会った時にはもう、この和菓子屋の跡を継ぐことを決めていた。
 私は今だに自分の将来のことなんて考えられないのに……


「……あ、ライトだ」
 ポケットの振動に気が付いて携帯を見ると、ヤマダライトからメールが入っていた。

 ライトは母親が日本人、父親がケニア人のハーフだ。
 お母さんが再婚したため、先月から再婚相手の「日村さん」のおうちに住んでいる。
 本当は一人暮らしを続けるはずだったのに、ご飯を食べにいったり遊びにいったりしているうちに、なし崩し的に一緒に住みはじめたらしい。

「町内会の運動会に出てほしいから、住民票移せって言われてさー。なんかメチャクチャだよ、ここの人たち」

 そういいつつも、ライトは嬉しそうだった。先月の運動会では持ち前の俊足を活かして色々な競技で活躍しまくり、無事に所属する4丁目チームを優勝に導いたそうだ。

「2月にバレーボール大会があるからそれまでに練習しとけって言われてんだよね~」

 そんなことをいうほど、すっかり町に馴染んでいる。だったらいっそのこと「日村」になればいいのに、ライトは母親の旧姓「山田」を名乗り続けている。

「だって、日村ライトだと、お日様にライトって、どんだけ明るいんだ!って感じがして嫌なんだもーん」

 そう、ふざけたように言っていたけれど、本当は、お金持ちの日村さんの遺産相続の件で揉めるのが嫌で養子にはならない、というのが本音のようだ。お母さんに迷惑かけたくないんだろう……

 そして………

 今来たメールには、いつもふざけてばかりのライトとはかけ離れた、真面目な文章が書かれていた。

『父親に会いに行こうと思う』

 その一文からはじまったメール……

 前から会いたいと言われていたのに行かなかったのは、行ったらますます日本人じゃなくなりそうでこわかったから。

 でも、ユーナちゃんたちとか、家族とか、「外人」って言わないでくれる人がいてくれるから、だからもう大丈夫な気がする。

 母さんに言われた。オレの「ライト」は「光」ではなくて「正しい」の「ライト」なんだって。「自分の正しいと思う道に進め」って意味で父親が付けたんだって。

 だから、行ってくる。自分探し、してくる。

 本当はオレ、日本人じゃない、もう一つのオレの体に流れる血の国のことも知りたかったんだ。



「…………ライト」

 最後まで読んで、ため息がでてしまった。
 前を向いて歩きだしたライト……

「かっこいいじゃん」

 自分の気持ちに正直になる勇気。私にも持てるだろうか……。


「あっれー?ユーナ、何やってんだ?」
「今日ボランティア教室じゃなかったの?」

 思考を破る元気な声と優しい声。お店の方から入ってきたのは、私の親友二人。段ボールをそれぞれ一つずつ持っている。

「うん。早く終わったから帰りにちょっと寄ったんだよ。二人は?どうしたの?」
「うちの方に間違えて届いた荷物、店に持ってけって母ちゃんに頼まれた」

 泉が「兄ちゃーん」と言うと、作業の手を止めてお兄ちゃんが顔を出した。

「ああ、ごめん。オレが配達先の指定間違ったんだ」
「お詫びに富士急連れてってー」
「またその話か……」

 お兄ちゃんは車の免許を持っているので、泉は遊園地に連れて行ってくれと昨日から頼んでいるらしい。
 お兄ちゃんは、うーんと唸ったあげく、

「んーじゃあ、侑奈ちゃんも一緒なら」
「え」

 突然の名指しにキョトンとする。

「私?」
「こいつら二人とオレだけ、は絶対嫌だから」
「……確かに」

 笑ってしまう。

「じゃあ、行こうかなー。絶叫コースターのって叫ぼうかなー」
「やった! じゃあ、決定!」
 
 泉と諒がパンと手を合わせて喜びあう。そんな無邪気な二人の姿に自然と笑みがこぼれてしまう。

 ずっとずっと想いを隠しあっていた二人。嘘の皮を脱ぎ捨てて、今、とても幸せそう。

 私にも、いつか、こんな風に微笑みあえる人が現れてくれるかな……。

 でも……

「ユーナ」
「侑奈」

 私のことを呼んでくれる親友二人に笑い返す。

 その日が来るまで……、ううん。その日が来ても。二人と一緒にいさせてね?



--


お読みくださりありがとうございました!
すみません!遅刻です!

侑奈視点最終回でした。
侑奈ちゃんには、お兄ちゃんみたいな、優しくて包容力のある大人の男が似合うと思うのですけど!
そして、ライト君。前にも書いたかもなのですが、彼の存在が、1年後の浩介の決断(日本を離れる)に繋がっていくわけです。

続きは明後日、どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 19-2(侑奈視点)

2017年02月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘

 寺ちゃんとは、高校2年生で同じクラスになったことで知り合った。

 見た目はどちらかというと地味目、だけど明るくて人懐こくて、私のこともすぐに「侑奈」と呼びつけで呼んできた寺ちゃん。小柄でショートボブの、少し幼く見える女の子。

 相澤、泉、小野寺、と出席番号が続いていたので話すようになり、そして、ドラマの話で盛り上がったことをキッカケに仲良くなった。

 この半年以上、喧嘩もせず、ずっと仲良くしてきた。これからもそうだと疑いもしなかった。言い方は悪いけれど、この一年楽しく過ごすためのクラスの友達、程度の上辺だけの関係なので、喧嘩もしようがなかったともいえる。私には諒と泉がいるから、そんな深く付き合う友達なんて必要ない。

 だから、さっきのことには気が付かなかったことにしようと思った。このまま波風立てずに残りの2年生生活を送ればいい。そう、思ったのに……

「……どうして何も言わないの?」

 ずっと押し黙っていた寺ちゃんがたまりかねたようにそう言って、立ち止まった。ケーキの食べ放題のお店までは学校から歩いて25分くらいなので、4人でダラダラと歩いている最中のことだった。

「侑奈、今井先輩から聞いたんでしょ?写真のこと」
「…………」

 ああ、あの演劇部の元部長さん、今井って苗字だったな……とぼんやり思う。

「何も聞いてないよ?」
「嘘。今井先輩、私のこと見て慌ててたじゃん」
「…………」

 寺ちゃんのこわばった顔……
 あーあ……寺ちゃん、言わなきゃ知らないですんだのになあ……

「写真って、なんのことだ?」
「………貼り紙の」
「貼り紙?」
 
 諒も泉も、ハテ?と首をかしげた。やっぱり二人も忘れているらしい。

 でも、寺ちゃんは、芝居じみた感じにワッと手で顔を覆って、ごめんなさいごめんなさい、と言いはじめて……

「だから、なんなんだよ?」
「あの……っ」

 泉の問いかけに押され話しだした寺ちゃん。
 内容は、やはり聞きたくないようなものだった。


 美人で頭もいい侑奈。学校で一番モテる男が彼氏で、泉とも仲が良くて、すごくうらやましかった。
 文化祭の演劇部の発表の最中、舞台上から三人が並んで座っているのを見て、その仲を壊してやりたいって気持ちが抑えられなくなった。
 その夜、侑奈に電話した際、「これから知り合いの男の子がバイトしているカラオケボックスを見に行く」というのを聞いて、まだ他にも男がいるのかって腹が立った。そして、チャンスだとも思った。その人と一緒にいるところを写真に撮って利用しようと思った。それで急いでそのカラオケボックスに行ったら、ちょうど桜井先生の車に乗りこもうとしている写真が撮れて……

「それで今井先輩にメールして……」

 今井先輩からは時々「高瀬君、あの女と別れてくれないかな」ということを聞かされていたので、彼女に送れば何かしらのアクションをおこすに違いない、と思ったからだ。でも、まさか、あんな風に貼り紙にするなんて……。

「ごめんなさい……」

 シュンとうつむく寺ちゃんに対して、別に怒りとか悲しみとかは浮かばなかった。むしろ、寺ちゃんのそういう気持ちに気が付かなくて申し訳なかった……という気もした。

 そもそも、寺ちゃんは写真を撮って送っただけで、貼り紙作りには参加していない。それに貼り紙自体も特に実害があったわけでなく、むしろ今考えると、ボランティア教室に参加するきっかけになったので良かったとさえ思える。そこも大きいかもしれない。

「まー、あれだな? 恋する女の何とかってやつだな?」
「なにそれ」

 泉の知った風な言い方に笑ってしまう。泉もやはり寺ちゃんに対して思うことはないようだ。

「だってユーナのことが羨ましいって、結局、小野寺も諒のことが好きだったって話だろ? あーモテモテ君は罪作りだなー」
「……違うっ」

 泉が言うのを遮ってブンブン頭を振った寺ちゃん。

「……寺ちゃん?」
「違う、違う……っ」

 そして寺ちゃんは、唇をかみしめたまま、泉のことを見上げた。

「違う。私、諒君のことなんか好きじゃない……っ」
「え………」

 寺ちゃんの必死な顔。
 寺ちゃん、それ……まさか、もしかして……

「諒君なんか、だって!」
 全然分かっていない泉は、笑いながら諒を振り返ると、

「なんかって言われた!諒!お前、なんかって言われた!笑える!」
「優真」

 でも諒は、真面目な顔で眉を寄せて泉の腕を掴み、ぐっと自分の方に引っ張った。

「優真、ダメ。これ以上聞かないで。ほら、行こう」
「え? 何だよ?」
「いいから。早く」

 引きづられるように歩いていく泉。
 その後ろ姿に、寺ちゃんが叫んだ。

「私が好きなのは、泉だから!」

 寺ちゃんの顔は真っ赤で………、真剣で、それでいて、ちょっと恥ずかしがっているような表情をしていて……

(初めて見た)

 この子はこんな顔も持っているんだ、となぜか少し感動した。



---


お読みくださりありがとうございました!
侑奈視点書き終われなかった……。まだ途中ですが、とりあえず書いたとこまで更新します~(^_^;)
続きは明後日、どうぞよろしくお願いいたします!

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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 19-1(侑奈視点)

2017年02月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 夏休みが明け……高瀬諒が激変した、という噂は学校中を駆け巡った。

 正確には、変わりはじめたのは夏休み入ってすぐのことなので、私やバスケ部のメンバーは、変化が定着していく様を間近で見ていたけれど、そうでない人達にしてみれば、突然の激変、だったわけで。夏休み前、やさぐれてクールさに拍車がかかっていたから、余計に今の可愛らしさとのギャップが激しく、皆あちらこちらで噂をしていた。

「なんなのあの可愛さはっ」
「私は前のクールな感じの方が良かったなあ」
「今も黙ってればクールじゃないー?」
「でも話し出すとメチャメチャ可愛いー」
「………何があったんだろうね?」

 行きつくところは、皆そこだ。
 私に対する呼び名が「相澤」から「侑奈」に変わった(私にしてみれば「戻った」だ)ので、私とヨリを戻したんじゃないか、と何人もの人に聞かれたけれど、諒も私もその都度ハッキリと否定した。その上、諒は、

「オレは泉優真一筋だよ!」

と、本当のことを言っていた。でも、散々女を食い散らかしていたおかげ(おかげ?)か、信じる人はいないようだった。

 一方の泉も、「お前そのうち女喰いの高瀬に食われるんじゃないか?」なんてからかってくるクラスメートに対して、

「オレが喰うほうだ。バーカ」

と、こちらも本当のことを言っていた。でも、

「童貞のくせに何言ってんだよ」

と、バカにされ、

「もう童貞じゃねえよ!」
「妄想は悲しいだけだからやめろ?」
「妄想じゃねえっ」
「えー相手誰だよ?」
「それは内緒ー」
「あーやっぱ妄想な」
「だから妄想じゃねえって!」

 こんな感じで喧嘩になる、というのがいつものパターン。結局のところ、信じてる人はいない。

 それをいいことに、諒と優真は人前でもベタベタくっついていて、みんなも初めは「わざとふざけて……」と呆れた感じだったけれど、一か月も過ぎるとそれが普通になってしまった。小5の頃の私の前での二人に戻った感じがする。

 そして、人の噂も七十五日とはよく言ったもので、11月を過ぎたころには諒の変化については誰も話題にしなくなった。
 このまま、女喰いの高瀬諒なんて初めから存在していなかった錯覚に陥りそうになっていたのだけれども………


「相澤さん、ちょっといいかな」
「あ、はい……」

 おっと、久しぶりの呼びだし!と笑いそうになってしまった。
 以前は時々こうして諒の元カノやらファンやらから呼び出しをされていたのだ。最近はすっかり止んでいたからちょっと懐かしい。

 今日の呼び出しは、吹奏楽部の一年上の藤野先輩。パートが違うからあまり話したことがない人だ。諒と付き合っていたという記憶はないけれど、一回だけしてしまった口だろうか?

 促されるまま、三年生の教室までついていくと、中であと2人、3年生の女子が座っていた。3年生は授業が少なかったのか、放課後の教室には他にはもう誰もいない。

(あ……この人)
 一人は夏休み前、やさぐれた諒にちょっかい出そうとしていた髪の長い人だ。あと一人は、演劇部の部長だった人。

「えーと? なんでしょう? 藤野先輩」
「ごめんね。この二人が話があるっていうからさ」
「……………」

 二人とも一時期諒と付き合っていたことがある。友達だったのか……

「話って……」
「あのっ」

 こちらが何か言う前に、二人は同時に立ち上がり、

「ごめんなさい」
「ホント、ごめんなさい」

 深々と頭を下げてきた。

「はい?」
 頭の中がハテナでいっぱいになる。

「あの……何が……」
「今さら、なんだけどさ」

 長髪の先輩が言いにくそうに頬をかいた。

「文化祭の時の貼り紙、私達がやったの」
「…………?」

 貼り紙? ってなんだっけ……と一瞬考えてから、「ああ!あれ!」と思い出す。

 私が桜井先生の車に乗り込もうとしている写真に『密会スクープ』と書かれた貼り紙のことだ。予想通り、諒の元カノの仕業だった、というわけだ。


***



「やっぱりさあ、諒君みたいな人はどこにもいないよねえ」
「だよねえ」

 元カノ2人は、ポリポリとポッキーをかじりながら、あーあ、とため息をついて私を見ると、

「相澤さんはいいよねえ……半年も付き合って、別れた今も友達で……」
「うらやましい……」

 さっきから同じようなことを何度も言っている2人に、藤野先輩も呆れ気味だ。

「ごめんねー。この2人、こればっかりで」
「あ、いえ……」

 そう言われても何と答えてよいか困ってしまう。
 でも、勧められるままお菓子を食べながら、色々と興味深い話を聞けた。

 諒は女の子と「付き合う」時は、はじめから「1ヶ月だけ」と言っていたそうだ。
 どんなに気があっても、体の相性がよくても、1ヶ月たったらアッサリ別れる。束縛の強すぎる女の子は、それ以前に別れを切り出されてしまうらしい。
 だから、半年も付き合っていた私は相当のレアケースというわけだ。

「高瀬君って、何がいいって、顔も良いけど、優しいところが良いよね」
「ね~。ホント優しかった。特にあれの時……」
「うんうん。あんなに尽くしてくれる人いないよね」
「いえてる!今の彼氏も普段は優しいんだけどさ~、やっぱり……ねえ?」
「分かる分かる! それでいてさ……」
「そうそう!体力あるよね~」

 なんだかとんでもない話で盛り上がっている2人……
 2人によると、諒はエッチの時、決して彼女に何かさせようと要求してきたりせず、自分の性欲を満たすことよりも、彼女を気持ちよくさせることだけを優先してくれ(それは普通の男ではありえないこと、らしい)、それでいて、いざ本番となると別人のように激しくて……

「相澤さんも新しい彼氏ができたら分かるよ! どんなに諒君が上手いのか!」

 なんて力説され、もう苦笑するしかない。

(確かに、比較対象がいないからどれだけすごいのか分からないけどさ……)
 
 しかも、たぶん私の時は、隣の部屋で泉が聞いているという興奮材料も加わって、更に激しかったと思う。けど、そんなことは言えない……。

 こうして、なんだかんだと笑いながら話していた2人だけれども……

「でも、私のことなんか名前も覚えてないんだろうなあ……」
「え……」

 ふと、寂しげに言った演劇部元部長の言葉に、長髪の先輩もコクリとうなずいた。

「付き合ってた時だって、覚えてたかどうかあやしいんだよね……」
「ね……」

「あんなに優しいから勘違いしたくなっちゃうけどさ……結局、高瀬君にとって、私ってその場かぎりの、通りすがりの人と同じだったんだろうなって……」
「うん。それ分かる……」

 はあ……とため息をつく二人。

「いいなあ……相澤さんは……」
「うらやましい……」

 二人とも新しい彼氏がいるみたいなのに、まだまだ諒に未練があるということなんだろうか……

「それであんな嫌がらせしちゃって……」
「ほんとごめんなさい……」
「あ、いえ………」

 で、ここに行きつくわけだ。
 貼り紙のことなんてこちらはすっかり忘れていたけれど、本人達は気にしていたらしく、受験前にスッキリさせたかったそうだ。

 ポリポリポリ……とポッキーをかじる音が教室に響く中、ふと、思い付いた。

(そういえば、あの写真ってどうやって撮ったんだろう……)

 携帯にしては望遠がききすぎてた。ちゃんとしたカメラで撮ったんだろうか……でもそれって偶然カメラ持ってたってこと……?

「あの……」
 その事を聞こうと、顔をあげた、その時だった。

「あー、侑奈いたー」
「!」

 話題の本人がヒョイとドアから顔を出したので、ビックリして立ち上がってしまった。

「りょ、諒……?」
「優真も小野寺さんも探してるよ? 今日4人でケーキの食べ放題行くって……」
 
 諒は言いながら入ってきて、他のメンバーを見て「あれ?」と首をかしげた。

「えーと………、こんにちは?」
「………………」
「………………」
「………………」
 
 顔を見合わせ、ぷっと吹き出した元カノ2人と藤野先輩。

「……ホントだ。こんな間近で見たの初めてだけど、綺麗な顔してんのね」

 感心したように藤野先輩が言うと、諒は更にハテナ?という顔をして私を振り返った。

「えーと……何してるの?」
「んー……元カノ会? みんなで諒の悪口言ってたとこ」
「え!」

 手で口元を押さえた諒は、やっぱりクールな諒じゃなくて、可愛い諒だ。

「わ、ごめんなさい。悪口ってことは、オレに悪いところがあったってことだよね?」
「悪いって認識してないんだ……」

 その認識力、ビックリするわ……あんだけとっかえひっかえしておいて……

「ね、高瀬君」
 演劇部元部長が笑いながら諒に問う。

「高瀬君、私のこと覚えてる?」
「え、もちろん……」
「名前は?」
「え」

 笑顔を張り付かせた諒。

「えーと……それは……」
「ほら、やっぱり覚えてない!」
「うわ、ホントなんだー」

 わー最低、と藤野先輩が言うと、諒は慌てたように、

「ごめんなさい、オレ、人の名前覚えるの苦手で……っ」
「名前だけじゃないでしょ。私のこと自体、覚えてないでしょ?」
「そんなこと、あるわけないです」

 ふっと真面目な顔になり、元部長を見返した諒。

「中学の時から演劇部で、演劇が大好きで、演劇の話するときはいつも嬉しそうだったの、よく覚えてます」
「…………え」

「映画のビデオ一緒にみたり、CD一緒に聴いたりしたし……」
「…………」

「あ、それに、体柔らかかった。毎日柔軟してるって言ってた」
「…………」

 元部長さん、息を飲んで……顔を背けた。泣いてる……?

「…………私は? 覚えてる?」

 髪の長い先輩が、緊張した面持ちで聞くと、諒は目をパチパチさせて「もちろん」とうなずいてから、言葉を続けた。

「ココア、元気ですか?」
「あ……、諒君、ココア好きだったよね」

 ふっと笑った先輩。
 ココアと言うのは猫のことだそうだ。人の名前は覚えてないのに猫の名前は覚えてるんだ……

「諒君、うちにくるとずっとココアと遊んでたもんね」
「ココア、可愛かったから……」
「じゃ、私は? ココアじゃなくて、私自身のことって、覚えてる?」

 切ないような笑顔で聞いてきた先輩に、諒はまたコックリとうなずいた。

「肩に3つ並んだホクロがある」
「!」

 バッと赤くなった先輩。
 淡々と諒は続ける。

「将来はデザイン関係の仕事をしたいって」
「…………」

「雑誌たくさん読んでて、おしゃれで、オレに似合う服とか教えてくれて……」
「…………」

「何度か洋服一緒に買いにいきましたよね」
「…………」

 先輩は苦しいかのように胸のあたりを押さえて、何度もうなずいて……

 耳が痛くなるほど、シンと静まりかえった教室の中……

「なーんだ」

 緊迫感に包まれた空気を、藤野先輩の能天気な声が打ち破った。

「高瀬君、二人のことちゃんと見ててくれてたんじゃない」

 通りすがりの人じゃなくて、ちゃんと一人の女の子として……

「…………ね」
「うん……」

 そして顔を上げた二人は、つらそうで、でも、嬉しそうで……、そして何だかスッキリした表情をしていた。


***


「諒君、今、彼女は?」
「いません」

 昇降口に向かう階段をおりながら、諒がニコニコと答える。

「彼氏ならいるんですけど!」
「あ~それね」
「聞いた聞いた~」

 あはははは、と笑う先輩方。

「それ、いいと思う!」
「ありだね~」
「ありあり!」
「そうですか!? ありがとうございます♪」

 諒、語尾に♪がついてる……
 嬉しそうだけど、誰も信じてないからね……?

「彼氏とのツーショット写真撮らせてよー」
「え、何に使うんですか?」
「ネタ的に面白いじゃない? 男に男取られました!ってさー」
「それいい!私も撮らせてー」

 きゃっきゃっとはしゃぐ声を聞きながら、先ほど疑問に思ったことを思い出した。そうだ、写真……

「あの……、すみません」

 こそっと、藤野先輩に聞いてみる。

「あの貼り紙に使われた写真ってお二人のどちらかの携帯で撮ったんですかねえ? すごい望遠きいてて……」
「ああ、違うらしいよ」
「違う?」

 聞き直すより先に、藤野先輩が演劇部元部長に声をかけていた。

「ねー、あの写真、演劇部の後輩が送ってくれたんだよねー?」
「やだ藤野!それ内緒の話!」

 慌てた様子の元部長。

「あれ?ごめん、内緒だったっけ?」
「内緒だよ!」

 演劇部の後輩? 内緒……?


「あ!優真!」

 昇降口前の廊下に、クラスメートの小野寺聡美(通称寺ちゃん)と一緒に立っている泉を見つけて、諒が弾けるようにかけだした。

「優真とオレのツーショット写真が欲しいって言われてるんだけど!」
「はあ?なんで?」
「男に男取られたって見せるんだってー」
「なんだよそれ?」

 はははと笑う泉、まんざらでもなさそうだ……。
 アホなカップルの横にいる寺ちゃんに私も駆けよる。

「ごめん、寺ちゃん。お待たせ」
「え、あ」
「?」

 なぜか焦ったような顔をした寺ちゃん。
 どうしたんだろう?

「寺ちゃん?」
「こん……にちは」

 私の問いかけには答えず、寺ちゃんは後から来た先輩方に頭を下げると、さっと自分の下駄箱に行ってしまった。

「………………?」

 何……?
 先輩方を振り返ると、演劇部元部長さんが何だかすごく気まずそうな顔をしていて………

 それで、ああ、と今更なことを思い出した。

 寺ちゃんは、演劇部だ。



---


お読みくださりありがとうございました!

お休み中、更新していないのにクリックしてくださった方!!見にきてくださった方!本当に本当にありがとうございました!めっちゃ励みになりました!ありがとうございます!!
1日フライングですが、上げさせていただきます~。あいかわらず地味な話(>_<)

また終わる終わる詐欺(思えば「あいじょうのかたち」も「たずさえても」もそうだった)になってしまい(>_<)あと2回くらいで最終回、と以前書きましたが、終われませんでした~~。たぶん次回が侑奈視点最終回で、そして、諒視点、浩介視点、で終わりかな、と。


寺ちゃんに関して。
プロット初期段階では彼女はもっと話に絡んでくることになっていました。が、話が無駄に長くなるので、見直した時点で控えてもらった、というイキサツがありまして……(だから今まで3回しか登場しておらず、セリフも少なめー)
前にも書いたかもなのですが、「嘘の嘘の、嘘」という副題には「登場人物の誰もが何かしら嘘をついている」という意味があります。寺ちゃんもその一人でした。

と、いうことで。続きは明後日……どうぞよろしくお願いいたします!

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