ライオンの詩 ~sing's word & diary 2

~永遠に生きるつもりで僕は生きる~by sing 1.26.2012

セリヌンティウスの心境。

2015-03-19 09:29:45 | Weblog
そんでもって、池袋の改札。

怪しい子供二人が改札を抜けていく。

普通だったら抜けていく。切符を出して抜けていく。まだ自動改札なんかじゃない。

駅員が言うことには、最初のヤツでピンときて、後ろのヤツを捕まえる、ということらしい。

つまり、エムが改札を通り抜けて、後に続く僕は、体格のいい駅員に腕をガッと掴まれたというわけ。そのまま駅員室へ直行。

・・・なんて不運なんだ・・・。

駅員室に連れて行かれた僕は、駅員から叱責混じりでこう言われる。
「仲間は逃げたな。仲間の居場所を白状しな」

バカな中学生とはいえ、オトコである。仲間を売るくらいなら潔い死を選ぶ。と、クリストファーウォーケンが言っていたような気がする。絶対に言わないぞ!と口を真一文字に結ぶ僕なのである。

しかし、こちらはコドモ、相手はオトナ。
子供の考えることなど、大人は全部お見通しなのである。非常に残念だが、それが現実だ。

「ほら、放送で呼び出すから仲間の名前を言え!早くしろ!クソガキ!」
というちょっと怖めの脅しに、クソガキはあっという間に陥落するのである。そう、クソガキは、簡単に仲間を売ってしまうのである。ごめんよ、クリストファーウォーケン。

僕は、しょんぼりしながら、ポツリとつぶやく。

「僕の仲間は・・・スギヤマコウイチ・・・です」

ほどなくして、駅構内に放送がかかる。

「・・・からお越しのスギヤマコウイチ様、スギヤマコウイチ様、至急駅員室までお越しください」

果たして、エムは来るのだろうか?そもそも、スギヤマコウイチという名を覚えているのだろうか?エムが来なかったら、僕はどうなってしまうのだろうか?

ドキドキしていた。

囚われの身でメロスの帰還を待つセリヌンティウスの心境は、こんな感じだったに違いない。

しばらくして、駅員室にヒョッコリと姿を現したもう一人のクソガキ。
「すいませーん、スギヤマコウイチでーす」

ホッとするやら、吹き出したくなるやら。どの面を下げて「スギヤマコウイチでーす」とか言えるのだろうか。

それから二人で、しこたま怒られて、ゲンコツをされて、もうしませんと約束をさせられて、大人料金を徴収されて、やっと解放された。

そんで、それから名画座に三本立て500円の映画を観に向かいながら、駅員に対する罵りを各々口にするのであった。
そんで、議論を交わすのである。
「来週はどうする?来週も子供運賃でいく?」

僕は今、エムに問いたい。
あの時、偽名を考えた意味ってあったのだろうか?と。結局普通に怒られたわけだし。

まぁ、なんにしても、中学生というのは、どこまでもバカなのである。バカすぎて楽しくなっちゃうのが、中学生なのである。

つづく。

スギヤマコウイチって誰なのよ?

2015-03-19 08:36:59 | Weblog
中学一年の同じクラスにエムってヤツがいて、随分と仲良くなった。
たぶん、信じられないくらいに仲良くなった。

エムとは、毎週映画を観に出かけた。ほぼ毎週出かけた。お小遣いは、全部映画に遣った。

池袋、新宿、銀座、大宮等々。松竹セントラルや、今はなき東劇、文芸座、名画座、裏通りにあるわけのわからない怪しい映画館。
なんでもかんでも観て回った。二本立てを二回戦の1日4本なんてのはお手の物。
一年で100本以上観たのではないか?

なにぶん、中学生である。お小遣いなんてたかが知れてる。
今思い出しても、どうしてそれほどまでに映画を観られたのか・・・理解不能である。ちなみに、強盗などの悪いことは、あまりしていない。だってまだ12歳だから強盗は無理。

切符はいつも子供運賃。中学生だけど子供運賃。電車賃を浮かせて、名画座の映画代に充てる。

行き掛けの電車の中で、エムが提案する。
「やっぱりさ、キセルで捕まった時のために偽名を考えるべきだと思うんだよ。絶対そうするべきだね。おれは、スギヤマコウイチにするよ。しんぐは何にする?」

今考えてみると、偽名にするメリットってなんだろう?捕まって偽名を告げる意味ってあるのだろうか?とか思うんだけど、その頃は、そういうことは分からない。「なるほど!名案!」などと思ってしまうところが、脳みそが足りなくて良い感じなのだ。

自分が考えた偽名は覚えていない。
だけれども、エムが考えたスギヤマコウイチという偽名は鮮やかに覚えている。

つづく。