魚を誘うためにコマセを撒く。コマセっていうのは、アミエビ。ちっちゃいエビみたいなやつね。コマセが海面付近を浮遊している辺りにガッコウ鈎を投げ込んで、待つ。
フグやらなんやら、大きい魚やらなんやらが集まってくる。狙いはウマヅラ先生一本。
おっ、ウマヅラ先生の登場です!
狙いを定めて、うりゃぁ!とガッコウ鈎を跳ね上げる。ウマヅラ先生はなかなかの素早さで鈎を避けてコマセだけを食べながらゆうゆうと泳ぐ。
何クソ、うりゃぁ!うりゃぁ!
ガシッとした感触が竿を握る手に伝わった。やりました!ウマヅラ先生を遂にゲットです!
しかし、ここまでは去年もやっている。去年は、ここで、ウマヅラ先生のあまりの重さに糸が切れた。が、今年は違う。太いラインと、そしてタモ。タモってのは玉網。魚を掬う大きな網だよ。
ここで叫ぶ。「おだ!タモー!」
おだちゃんは面倒臭そうに振り返り、「本当にタモいるの?」
おいコラ。おいコラ。と言ってしまいたいじゃないか。おれとウマヅラ先生の宿命の対決のクライマックスに、面倒臭そうな顔をするんじゃないよ。しかも、まだタモを組み立てていないじゃないか?
「タモ、タモ、早く、早く」である。
おだちゃんは、これまた面倒臭そうにタモを組み立て始めるのだが、これがまた、網が絡んでなかなか組み上がらない。
おいコラ。おいコラ。
組み上がったタモをおだちゃんが海へ。ウマヅラ先生のいる場所へ。サッと掬い、勝負あり。
ターラーララ~ターラ~ララ~。情熱大陸のエンディングテーマが何処からか聞こえてける。
おれは、おれは、ついに勝ったぜ。やったぜ。やったぜ。やったぜ(エコー)。
揚げたウマヅラ先生の写真をパチリ。よく見ると・・・気持ち悪い。なんか・・・トロピカル?あれ?ウマヅラ先生?ですか?
キャンプ場には顔見知りが多い。四年になると、まぁ、顔見知りがいる。顔見知りと言っても、旅人の顔見知りではなく、地元の人というか、キャンプ場に半分住み着いている人というか、完全に住み着いている人というか・・・。
コジキ先輩という人がいて、通称先輩なんだけどね。みんながあの人はコジキだって言うから、コジキ先輩ね。
その先輩が、堤防にいるウマヅラは美味いって言ってたんだよなぁ。だから、四年も戦い続けたんだけどなぁ。とりあえず釣り上げてキャンプ場に持って帰れば、なんとかしてくれるだろう・・・と。
今年、キャンプ場に着いてコジキ先輩を探したのだけれど、先輩はいなかった。方々に尋ねると、先輩はもうここにはいないとのこと。
元々、悪さを重ねて街に居られなくなって、キャンプ場に住み着く形になっていた先輩。今年、行政の手によって追い出されてしまったのだそうだ。今は島を出て、内地にいるような話。
コジキ先輩の名誉のために言っておくが、コジキ先輩は乞食ではないよ。ちゃんと働いてたし。コジキ先輩を乞食と呼ぶ人の方が、どちらかというと・・・だったような気がしないでもない。
あぁ、コジキ先輩に会いたいなぁ。
と、そんな物哀しい話ではなくてね。これはウマヅラ先生との格闘の話ANDウマヅラ先生を美味しくいただけるのか?という話なのだよ。
つづく。