ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

「師弟」読了

2018-07-13 21:28:52 | 
将棋界に藤井聡太という救世主が現れてからというもの、様々な将棋本が発行されています。「師弟」もその流れでしょう。表紙は藤井七段と師匠の杉本昌隆七段。Amazonレビューで「表紙の帯がひどい。そこまでして売りたいのだろうか」と書いてあったので、知ってはいましたが、「君は羽生善治を超えるんだよ」と書いてあり、この本を手に取った誰もが、杉本さんが藤井君に言ったと誤解します。実際には違う師弟の間で交わされた言葉なんですけどね。商魂逞しい限りです。
表紙はさておき、本文はとても興味深い内容でした。6組の師弟の物語が記されています。将棋を知らない方も人間ドラマとして読むことができると思います。

第一章は師匠の谷川九段と弟子の都成竜馬五段の「手紙」というタイトルの物語。谷川さんは17世永世名人でバリバリの現役棋士。そういう人が弟子を取ることは珍しいのですが、小学生名人にもなっている都成少年の実力は勿論、誕生日が1月17日という事に神戸出身の谷川さんは運命を感じて弟子として受け入れました。

最初は伸び悩んだ都成君も17歳で三段リーグ入り。しかしそこからが長かった。都成君が学生の頃は丁寧な言葉ながら、厳しく激励する手紙を彼の住む宮崎へ送るのですが、三段リーグで苦労し、年齢制限も近づく頃になると、「君は強いんだから、自信さえ持てば大丈夫」といった自信を持たせようとした優しい言葉が並ぶようになります。


そして年齢規定による最後の三段リーグ戦。都成君は勝ち続けます。昇段がかかった日、谷川さんは将棋連盟の会長としての仕事があり東京にいました。大阪の将棋会館で対局を終えた彼は、師匠に昇段の報告をしました。「おめでとう。よかったね」。その短い言葉にどれだけの想いが込められているのだろう。初めて師弟が顔を合わせてから、16年の歳月が流れていました。

そして第六章の藤井七段、杉本師匠の物語で終わるのですが、ぶつかり合う師弟、強い絆で結ばれる師弟、重い心臓病の弟子を支える師匠など中身は濃かったです。最終章には羽生善治竜王への特別インタビューが掲載されています。羽生さんは公の場ではなかなか手の内を見せない人ですが、この本ではフランクに語っていて、興味深かったです。その中で「昔はよかったです」「いい時代でした」と懐かしむ言葉は長い歳月が流れた感慨がありました。


著者がカメラマンという事もあってか、巻頭にカラー写真が掲載されています。イケメン俳優が二人いますね。一人は都成君でもう一人は佐々木勇気六段。藤井聡太の連勝を止めた対局の写真ですが、鬼の形相です。彼はスター性がありますね。
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「コンビニ人間」感想

2017-01-24 22:46:39 | 
早いもので、こないだ芥川賞が発表されました。だからもう前回になるんですね。こないだ村田沙耶香さんのコンビニ人間を読みました。

読後の感想は一言で表すならば、読みやすい。大江健三郎的な、難解な文章とは正反対。比較的、最近の受賞作では田中慎弥の「共喰い」もすらすらは読めませんでした。しかし、こういったすらすら読ませない表現こそ文学的な、芥川賞にふさわしいのかなという気もします。ただ、優劣は別にして、「コンビニ人間」と「共喰い」どちらが売れるかといえば、おそらくコンビニ人間に軍配が上がると思われます。30年前ならわかりませんが。それだけ「コンビニ人間」は現代的です。難解な表現がないだけでなく、コンビニという分かりやすい軸があるから、さらに読みやすくなります。

主人公は、実際に長い間、コンビニで働いてきた作者と重なります。不器用ゆえに徹底的にマニュアル化されたコンビニでしか働けないのだけれど、ある意味、彼女はコンビニ店員としてはプロフェッショナルで、天職でもあると思うのです。しかし、周りはそうした変わり者たちを認めようとはしません。コンビニを綺麗な水槽に見立て、異物が入ると、すぐに排除される様は、現代社会を巧みに、やわらかく表現しています。そうした社会を静かに、また鋭利に指摘しつつ、読者にはさらりと読ませる、なかなか書けそうで書けない芸当なのだと思いますね。

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「痴人の愛」と「潮騒」

2010-12-13 22:59:57 | 
僕の店はお茶やコーヒー豆のほかに古本も扱っています。規模は小さいですがそれでも数千冊はあります。本好きの人にはたまらない環境でしょうが、僕はそれほど本が好きではないし、しかもここ4年近く原因不明の強い眠気やだるさがあり、かといってどっしり腰を下ろすほどの余裕はありません。

しかしこの1ヶ月ほどで2冊の本を読みました。谷崎潤一郎の「痴人の愛」と三島由紀夫の「潮騒」です。

「痴人の愛」は主人公の男がナオミという少女を自分の理想の女性に育てようとするのですが、思うようにはいかず結局ナオミの奔放さに振り回される話です。「潮騒」は男らしく無口な主人公の新治と初江の純愛です。

対照的なのは女性像で「痴人の愛」は大正時代、「潮騒」は昭和20年代だと思いますが、「痴人の愛」のナオミの方が現代的で「潮騒」の初江は古風です。この逆転現象は「痴人の愛」の舞台は都会で潮騒は人口千数百人の小さな島である事と小説を書いた当時の谷崎と三島の心情によるものでしょう。

どちらの作品もこれまでに何度も映画化され、「潮騒」は僕も観ていると思うのですが、今もし映画化するなら「痴人の愛」のナオミは少し前なら沢尻エリカ、今なら黒木メイサあたりが似合いそうです。「潮騒」の初江は堀北真希のような清純派女優がいいですね。

まあ、たまにはこうした文豪の作品を読んでみるのも悪くなかったです。

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