彼にも10代半ばの頃、多少の反抗期はあった。しかしそれは特に気にする程でもなく、短い間に過ぎていった。どちらかと言えば、温厚で優しい息子と捉えていた。その印象と父親を殺した凶暴性の間には大きな落差がある。「反省している」「重く受け止めている」との言葉は手紙に記されているが、それも上辺だけのものだとしたら、同じように刑務所でも上辺だけの模範囚を演じ、本来の刑期より早くに釈放され、世の中の厳しい目に晒されて、それに耐えられず再び凶行に及ぶ。そのような最悪のシナリオだけは避けなければならない。それを未然に防ぐことが母親として、妻としての孝への最大の償いだと佐世子は強く意識している。ならば今更ながらではあるが、もっと深い部分で正志を理解しなければならないと佐世子は感じていた。
面会とは違い、手紙のやり取りでは正志は姉の麻美を気にしているようだった。彩乃については額面通り受け取っているようで「あの勉強嫌いの彩乃が」と感慨深げな思いが彼の文章から素直に伝わってくる。しかし、麻美については小学校の教師を続けていると伝えているものの、佐世子の迷いを正志は薄々感づいているのかもしれない。「姉ちゃんは本当に大丈夫なの?迷惑を掛けて申し訳ない」と姉を心配する言葉が書き連ねられていた。佐世子としてもタイミングを見計らって、真実を伝えなければならないと思っている。いつまでも嘘をついていては、正志を理解するなどできないだろうから。
面会とは違い、手紙のやり取りでは正志は姉の麻美を気にしているようだった。彩乃については額面通り受け取っているようで「あの勉強嫌いの彩乃が」と感慨深げな思いが彼の文章から素直に伝わってくる。しかし、麻美については小学校の教師を続けていると伝えているものの、佐世子の迷いを正志は薄々感づいているのかもしれない。「姉ちゃんは本当に大丈夫なの?迷惑を掛けて申し訳ない」と姉を心配する言葉が書き連ねられていた。佐世子としてもタイミングを見計らって、真実を伝えなければならないと思っている。いつまでも嘘をついていては、正志を理解するなどできないだろうから。