被害者である孝についても詳しく聞かれた。若い頃からの佐世子に対しての接し方、子供たちへの態度、特に正志との関係は幼少期から細かく問いかけてきた。しかし、佐世子には孝が正志に対して、一般家庭と比べて風変わりな教育をしてきたとは思えなかった。孝の平日は仕事で夜に疲れて帰宅するので、会話が少なくなるのは仕方がない。休日は男の子が孝一人だったのもあって、父子はよく外に出て、キャッチボールや虫捕りなどをして楽しんでいた印象だ。もっとも孝は現代っ子で虫は嫌いだったようだが。
勉強に関しても、孝は子供たちに押し付けるような父親ではなかった。しいて言えば、努力すれば報われるという意味合いの言葉を麻美や正志にはよく使っていた。それは孝の人生そのものだった気がする。正志は「古くせえ説教だな」と言っていたが、佐世子の感覚で正志はその古臭さをむしろ尊敬しているように捉えていた。
警察が強い関心を示したのは、夫婦が別室で寝るようになってから事件が起きるまでの5年間だった。この辺りから林田恵理との不倫関係が始まったと踏んでいるのかもしれない。刑事の質問に一つ一つ丁寧に答えた。刑事の視線が厳しさを増した。思えば佐世子自身が疑いの目を向けられるのは当然だった。もっとも恵理を恨んでいるのは佐世子と考えるのが自然である。自らは直接手を下していないだけで、共謀罪の疑いをかけられているのだろう。それは漠然と分かってはいても佐世子はもともと別の意味での共犯のように感じていた。
刑事とのやり取りは町田クリニックで話した内容に近かったので、比較的スムーズに話せた。要は「建前が多くなった.よそよそしくなった」という類の言葉を佐世子は並べた。
勉強に関しても、孝は子供たちに押し付けるような父親ではなかった。しいて言えば、努力すれば報われるという意味合いの言葉を麻美や正志にはよく使っていた。それは孝の人生そのものだった気がする。正志は「古くせえ説教だな」と言っていたが、佐世子の感覚で正志はその古臭さをむしろ尊敬しているように捉えていた。
警察が強い関心を示したのは、夫婦が別室で寝るようになってから事件が起きるまでの5年間だった。この辺りから林田恵理との不倫関係が始まったと踏んでいるのかもしれない。刑事の質問に一つ一つ丁寧に答えた。刑事の視線が厳しさを増した。思えば佐世子自身が疑いの目を向けられるのは当然だった。もっとも恵理を恨んでいるのは佐世子と考えるのが自然である。自らは直接手を下していないだけで、共謀罪の疑いをかけられているのだろう。それは漠然と分かってはいても佐世子はもともと別の意味での共犯のように感じていた。
刑事とのやり取りは町田クリニックで話した内容に近かったので、比較的スムーズに話せた。要は「建前が多くなった.よそよそしくなった」という類の言葉を佐世子は並べた。