日曜の午後2時前、孝は久しぶりに自宅に戻ってきた。佐世子は「おかえりなさい」と努めて自然体で出迎えたつもりだったが、孝は「お邪魔します」と硬い表情を崩さない。そして「そんなに長くはかからないと思うから」と付け加えた。佐世子が急須から緑茶を注いでいると、孝はカバンの中から一枚の紙を取り出した。
「これはよくよく考えて決めたことだから」
離婚届に孝の名前と印鑑が目に入った。意表を突かれた気分だった。確かにこないだの電話から、今リビングに座るまでの言動には決意のようなものが滲み出ていた。それでも佐世子は孝が浮気を打ち明けにでも来たのだろうと予測していた。離婚を決意しているなどとは全く想像していなかった。佐世子はしばらく沈黙するほかなかった。
「決めるのはゆっくりでいいから。俺は駄目な夫だった。失礼します」
孝は立ち上がり、早々に玄関へ向かった。佐世子はリビングに座ったまま、力なく離婚届を眺めていた。すぐに判を押すつもりはない。しかし、以前のような生活に戻れないことだけは、佐世子にもはっきり分かった。もっと触れ合いを大切にすれば何かが変わるかもしれないという考えが彼女には芽生えていたが、孝にとっては完全に手遅れだった。
孝が帰宅すると、恵理は食事中だった。日は傾き始めているが、彼女にとっては朝食に当たるのかもしれない。この日も夕方からは居酒屋のカウンターに立つ。
「離婚届、出してきたよ。女房に渡してきたよ」
孝は硬い表情だったが、どこか誇らしげだった。
「それ本当なの?」
恵理は目を丸くした。
「勿論、どう考えても離婚しかありえない」
すでに結論を出している自分自身に、さらに言い聞かせている口調だった。
「孝さんて意外とせっかちなところあるよね」
恵理は苦笑した。
「これはよくよく考えて決めたことだから」
離婚届に孝の名前と印鑑が目に入った。意表を突かれた気分だった。確かにこないだの電話から、今リビングに座るまでの言動には決意のようなものが滲み出ていた。それでも佐世子は孝が浮気を打ち明けにでも来たのだろうと予測していた。離婚を決意しているなどとは全く想像していなかった。佐世子はしばらく沈黙するほかなかった。
「決めるのはゆっくりでいいから。俺は駄目な夫だった。失礼します」
孝は立ち上がり、早々に玄関へ向かった。佐世子はリビングに座ったまま、力なく離婚届を眺めていた。すぐに判を押すつもりはない。しかし、以前のような生活に戻れないことだけは、佐世子にもはっきり分かった。もっと触れ合いを大切にすれば何かが変わるかもしれないという考えが彼女には芽生えていたが、孝にとっては完全に手遅れだった。
孝が帰宅すると、恵理は食事中だった。日は傾き始めているが、彼女にとっては朝食に当たるのかもしれない。この日も夕方からは居酒屋のカウンターに立つ。
「離婚届、出してきたよ。女房に渡してきたよ」
孝は硬い表情だったが、どこか誇らしげだった。
「それ本当なの?」
恵理は目を丸くした。
「勿論、どう考えても離婚しかありえない」
すでに結論を出している自分自身に、さらに言い聞かせている口調だった。
「孝さんて意外とせっかちなところあるよね」
恵理は苦笑した。