10月28日の深夜に差し掛かったA級順位戦
佐藤天彦の集中力は極限に達していた
脇息にもたれ掛かって長考にふける彼とは、また別の姿だった。
盤に近づき、体を前傾させ、小刻みに頭を揺らす。
対戦相手の永瀬は対象的だった
盤上を見詰めているかと思えば、頻繁に席を外した。
天彦はマスクをしていなかった
集中のあまり無意識に取ってしまったのだ
局面は天彦が有利に進めていたが、まだ難しい。
彼は必死に勝利への道筋を探していた
そんな時、突然、対局は中断された。
理由は天彦が1時間程していないことだった
そして判定は下され、天彦は負けた。
将棋にではなく勝負に
天彦は怒りが収まらぬまま、将棋会館をあとにした。
数日後、天彦は藤井聡太との対局に勝利した。
感想戦では弁舌滑らかに、藤井と二人だけの世界を楽しむ、普段と変わらぬ天彦の姿があった。