富岡の『世界』を読む会・6月例会の報告
富岡『世界』を読む会・6月例会は、6月20日(木)14.00-16.00時、吉井町西部コミュニティセンターにて、5名の参加で開催された。
今回のテーマは、1.渡邉琢「『ALS嘱託殺人』と隠蔽されたもうひとつの事件」(前編5月号、後編6月号)と、2.神里達博『「紅麹」サプリ事件の深層」、および 3.星浩『滅びゆく日本、再生への道』最終回の3つの論考だった。
Ⅰ.渡邉琢『「ALS嘱託殺人」と隠蔽されたもう一つの事件』
この論考は、サスペンスドラマのようなスリリングな展開に関心を集める一方で、読者に「生と死」を見つめる繊細で微妙な感情を呼び起こさせ、深く神妙な思考をうながすものだった。両親の終末期の延命治療の可否判断についての経験や障害者を持つ家族の当事者性に思いを馳せ、死ぬ自由、自己決定権、そして安楽死について意見が交換された。 しかし論考の目的は、安楽死の是非を問うものではない。「ALS嘱託殺人」を安楽死ととらえた、必ずしも少数派とは言えない世間の受けとめ方は、はたして「正論」なのか。筆者は、被告たちの犯した「もうひとつの(殺人)事件」を並立させ、その2つの事件に通底する特徴を析出する。生命軽視。そして、被告たちの見解と思想は、相模原障害者殺傷事件の植松聖の考えと共通し、ナチス・ドイツのT4作戦の思想に繋がるものだ、と強く主張する。『世界』では珍しい論考だった。
Ⅱ.神里達博『「紅麹」サプリ事件の深層』
紅麹サプリ事件を科学技術論の立場から分析した論考だ。この事件の背後にある思想を、二つのキーワードにまとめている。要素還元主義的身体観と自己責任的健康観。前者は、複雑で多様な生命現象をもつ人の身体に対して、濃縮された単一物質を健康に良いとして過剰摂取させる企みとなり、後者は、人体に危険を及ぼす労働現場や環境問題を不問に付す規制緩和を正当化する新自由主義思想にリンクする。 問題の「紅麹」を含む機能性表示食品が、「アベノミクス」による規制緩和の結果生み出されたことに、参加者の関心が集まった。ここに一人の人物が登場する。大阪大学寄付講座・森下竜一教授。健康・医療分野における規制改革を求める提言をし、機能性表示食品誕生の仕掛け人の一人だ。森下は、コロナ禍のもと早々と「DNAワクチン」開発を打ち出し、国から75億円の開発費を取得、吉村知事をして「初の国産ワクチン」との前のめり発言を引き出した当人でもある。しかし「DNAワクチン」開発は、多くの識者・専門家の予想通り、失敗に終わった。そして今、森下は大阪万博パビリオン・総合プロデューサーとして活躍中である。安倍晋三に重用された規制改革・アベノミクス人脈のいかがわしさを示すに余りある人物だ。
Ⅲ.星浩『滅びゆく日本、再生への道』
国会での政治資金規正法改正案論議を見ていると、星浩氏の提案する国会改革案―①各院1/4以上要求での臨時国会召集の義務化、➁国政調査権の発動、③党議拘束の緩和、等による「国権の最高機関」に相応しい国会にする—が、夢のまた夢のような感覚に襲われる。政権交代に向けた有権者の覚悟が試される、と意見集約した。
Ⅳ.7月例会の予定
1.日程・場所:7月18日(木)14.00-16.00時、
吉井町コミュニティセンター学習室(2F)
2.テーマ:『世界』7月から、
(1)特集1.スポーツと権力
①有賀ゆうアニース『スポーツとレイシズム』、
➁鈴木忠平『オリンピアンの涙』、
(2)特集2.日本の中の外国人
①安田浩一『ルポ 埼玉クルド人コミュニティ』、
➁林晟一『マルチエスニック・ジャパンの特別永住者』、
③熊﨑敬『原っぱのサッカー大会に吹く風は』、
④國﨑万智『レイシャル・プロファイリングはなぜ繰り返されるのか?』 以上