「砕かれた『一〇〇ミリシーベルト以下は安全』神話」 まさのあつこ を 再読、精読する
須山敦行
『世界』四月号を読む会で、
Y君は、「最も良かった」文章として評価した。
ところが、M君は、「文章が良くない」という評価。
一方、私は、「読んでも神話は『砕かれ』なかった。疑問が沢山残った」と、批判的な見解。
ここから、にわかに(口角泡を飛ばす)論争(口論)に。
初参加の康君は、目を白黒?
私の印象では、「低線量被曝を巡る健康問題」になると、見解の相違が、意見の対立になり、その上、「本当の所はどうなんだ?」。「どう対応するのがいいのだ。」、「もっと分かりたい」という気持ちになる。
誰かに答えを求める気持ちが強くなるのだ。
Y君やM君に、「お前は分かっていない」と、かなり強く批判?されたこともあり、もう一度読み直してみる。
精読するつもりで。
再読しながら思う。確かにわかりにくい。M君の言うように、「文章が悪い」、と思ってしまう。何度も読み返して考え直さないと文意が伝わらない。「自分には分かる」というレベルの書き方か、(つまり、本人が思った以上に専門的知識が深い)とも思う。
しかし、ことは、当事者達(福島の人々など)にとって、分かりやすいことである必要がある。
私としては、最大の精力を注いで読み進む。
《 安全神話1 「一〇〇ミリシーベルト以下は安全」 》
昨年2月の環境省と福島県立医科大学の共催した「放射線と甲状腺がん」をテーマにした東京での国際会議を取り上げる。
山下俊一長崎大学教授の閉会前の議長サマリーが、一方的に、安全神話を語り、政府はそれでお墨付きを得たような対応をしている。
しかし、その会議で日米共同研究機関「放射線影響研究所」のロイ・ショア副理事長は「二〇ミリシーベルト」での影響について危惧している発言をしている。
(※ でも、これが認められたのか。これを否定する意見はなかったのか。皆、同様の発表をしたのではないだろう)
はるか昔に、イギリスのアリス・スチュアートは、1958年に、低線量被曝とガンの因果関係を研究している。
(※ これを押すような意見もあり、否定するような意見もあるのではないか)
ということから、
一〇〇ミリシーベルトよりも低い被曝線量で影響が出ることは世界の常識である
と言って、安全神話1は否定されたと書いているようだ。
私には、これだけで、何かが分かったような気にはなれない。
ある意見がはっきり否定される根拠を示されたようには思えないのだ。
何となく、政府の思惑や、それが通される道筋があるように思えるが、はっきり「どうだ!」と否定しきれる根拠にはなっていないと感じる。
《 安全神話2 「一〇〇ミリシーベルト以下と推計されたから影響はない」 》
安全神話1の下で、
子どもの測定が十分に行なわれないという結果を招いたという説明である。
とても、わかりにくい説明であるが、精読して理解してみると、
高線量地域では、測定機が230㎏という重い物であって、正確な測定ができる低線量の適地をみつけることが困難だったことや、一桁間違えるミスを犯したことなどが、原因して、3月24日~30日に測定した、飯舘村、川俣町、いわき市の1080人分しかデーターがない。
低線量地域の汚染は、測定されなかった。
安全神話1がなければ、
高線量地域から住民を避難させ、極低線量下で全員の測定を、続行させたのではないか。という主張である。
そうだろうが、安全神話1の他に、「神話」というべき内容が2として加わったようには思えない。
いずれにせよ、測定線量データの不足が結果したことは、問題であろう。
(チェルノブイリでさえ、データは四〇万人分蓄積されている)
《 安全神話3 潜伏期間は四~五年
安全神話4 増加はスクリーニング効果 》
チェルノブイリの結果から
幼児は放射線による甲状腺の影響をより受けやすいが、(福島のデータは10台以上の者に出ており)、潜伏期間は四~五年であるとされているが、
チェルノブイリでも、四年目までは、一一歳以上の発症が多いデータがあり、
ロシアでは、ソ連崩壊までは(五年目)甲状腺の調査そのものが実施されていなかった、とかを言って、潜伏期間は四~五年説は、「神話」である、というのであるが、
何とも、わかりにくい。
筆者は、さらに、米国では子どもの甲状腺がんの潜伏期間は一年であるとする論文が発表されている。と、紹介して、論拠としている。が、そういう論文があったということでは、説得しきれないのでは。
スクリーニング効果によるという、安全神話4には何の説明もない。
が、近藤誠の『患者よ、がんと闘うな』、『あなたの癌はがんもどき』などでは、小児へのガン検診の結果と、ガンの死亡率の変遷について、スクリーニング効果の意味を説明していて、説得力がある。
《 安全神話5 「過剰診断」論 》
最後は、東京大学大学院の渋谷健司教授による、「過剰診断」論である。
県立医大の鈴木眞一教授との間で、繰り返し、論争されたことが紹介されている。
筆者は、渋谷教授の「過剰診断」論を「珍説」と言っているが、説得的な論拠はあげていない。
そして、文章は一挙に結論へ。
神話は「砕かれた」として、
津金氏が紹介した、小児甲状腺ガンの六〇倍余の多発を説明するのは、「二〇一一年以降に加わったなんらかの要因」に帰結するのだ、と、自説が証明された気分で文章を終えている。
結果、私には、安全神話は困ったことだが、もっとしっかり打ち砕いて、私の頭をスッキリして下さい、という、不満が残った。
事の本質は、小児甲状腺ガンの原因を覆い隠し、責任を逃れようとしている、政府、東電に対する告発の必要性だと思うが、一方で、それでは、実際に危険性はどの程度で、何を基準に、これからの生活の場の構築を進めていけばいいのか、悩みの渦中にある、福島の人々に、リアルで説得力のある情報を示せないものか、と、頭をスッキリ出来ない、イライラを抱え込んでいるのが、私の現状である。