ジリアン・テット著、文藝春秋刊
同著者の「愚者の黄金 大暴走を生んだ金融技術」を読んで、難解な金融技術の分析とその技術の誤用による金融崩壊への道筋を整理する力量に感服しました。
本書は、原書では2015年に出版されたようです。
文化人類学を専攻した著者は、畑違いのマスコミの世界に入り経験を積んだそうですが、いわばアウトサイダーからインサイダーへの道を進んできたのだと思います。
サイロは一般に牧草、穀物、セメント、肥料などを、そのまま詰め込んだ貯蔵庫を指しますが、本書では、ある人物の日本でのスピーチで、担当した日本語通訳が窮して「たこつぼ」と訳したそうです。
こちらの方が、日本人には分かり易いかもしれません。
組織が小さければ、全員が顔を突き合わせて相談できるが、人数が増えると役割分担が必要になる。
そうすると一定の規模までは組織の一体性が確保できるが、次第に困難になるので、マネジメントの仕組みで組織を動かさなければならない。
更に人的余裕が生じると、仕事の専門性が高まり、部門ごとに独自の合理性や判断基準が確立する。
それが、部門独自の利害を生み出し、排他性を帯びる。
こうして、組織として最良の意思決定と効率を達成するための仕組みが、むしろ反対の働きをしてしまう。
「たこつぼ」の誕生だ。
著者は「たこつぼ」の必要性と有用性を肯定した上で、前半ではそれが生み出す害悪を日本のソニーなどを例に挙げて分析し、後半では、その改善、あるいは解消の取り組みの事例を紹介している。
私は、特にクリーブランド・クリニックの例が気に入った。
プライドが高く自己主張の強い集団である医師の反対を押し切って、患者の視点から病院の組織と運営を変えて成功したことは、奇跡としか思えません。
本書は事例を中心に描かれていますが、著者が受けた文化人類学の素養が基盤となっており、全体として、まとまりと説得力があります。
アウトサイダーから出発してインサイダーになった後も、アウトサイダーとしての視点を失っていない著者の見識がうかがえる良書でした。
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○ジリアン・テット
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評価は4です。
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