旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

お酒のさかな 食べ物篇(2) … シラウオ、シロウオ(またはイサザ)

2015-04-03 15:47:15 | 

 

 酒飲みはだいたい生ものを好む。日本酒は素朴な食べ物が良く合うからであろう。だから、魚の類でもまずは刺身である。ところが、刺身は魚の原形をとどめていないのでまだ料理らしいが、生きた魚をそのまま飲み込むに至っては、生ものの極致と言えよう。
 シラウオ、いさざの踊り食いの類である。九州の有明海、広島の音戸の瀬戸などでシラウオを、北陸は小浜でいさざ(シロウオ)の踊り食いを食った。桜の季節になると必ず思い出す感触(あえて味とは言わない)である。
 シラウオとシロウオは、同じように踊り食いをされ、ちょっと目には似ているが全く違う。シラウオはキュウリウオ目シラウオ科だが、シロウオはスズキ目ハゼ科の魚。前者は平らな体をしているが、後者はハゼ科と言われるだけあって、ハゼのようにズンドウ型だ。
 もう20年ぐらい前のことであるが、小浜市で食べた(飲んだ?)シロウオは印象に残っている。『すし政本店』という親子三代でやっていた店だった。店の真ん中に80歳にはなろうかと思われる禿げ頭のおじいさんが陣取り、カウンターの中では息子と孫が威勢よく寿司を握っていた。
 「小鯛のすずめ寿司」などで飲んでいたが、カウンターの隅の容器の中で勢いよく泳ぐ小魚の群れが気になり、「あれは何か」と聞くと、件(くだん)のおやじは満面笑みを浮かべて「よくぞ聞いてくれた!」とばかり説明を始めた。
 「あなたはこれを白魚(シラウオ)と思っているかもしれないが、これはシロウオだ、この地方ではいさざと呼び、漢字で魚ヘンに少と書く。3月1日から4月の20日の間にとれるが、天候の関係などで実際にとれるのは10日間ぐらい。あなたはよい時に来た。ぜひ召し上がれ」
 こうまで言われて注文しないわけにはいかない。醤油汁の中を勢いよく泳ぐいさざを、必死になって飲み込んだ。口に入れようとすると敵も生きもの、ピチピチ跳ねて逃げようとする。それを無理やり口で追いまわし、シャツを醤油だらけにしながら、数十匹のいさざを何とか飲み込んだ。
 酒は、小浜の銘酒「わかさ富士“おやじ”」を飲んだが、酒の味どころではなかった。ただ、あの喉を通り抜ける不思議な感触だけは今も残っている。はたして「酒の肴」に加えていいか疑問はあるが、この時期に酒を飲むと必ず思い出すから、肴からは外せない。満開の桜に免じてお許しを。

  
        いさざ(ハクレイ酒造中西蔵元フェイスブックより)
       
         芦花公園のさくら

 


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