本来日本酒を追及してきた山桜桃の会であるが、たまにはワインを飲もう、ということになった。その要求に応えるために私の頭を去来したものは、イタリアはサルデーニャ島の「カンノナウCANNONAU」(注)というワインであった。
(注)統制原産地呼称ワイン(D.O.C)で、イタリアでは2番目に格付けされる高級酒
すでに20年も前のことであるが、当地の産するタペストリーの買い付けに訪問した際、先方業者たちが開いてくれた歓迎パーティで出されたワインが「カンノナウ」であった。それは、わが一行の代表が、「わが社は日本のハウスメーカーとして年間2万戸を建てている。タペストリーの需要も多い」と発言したことに対し、先方代表が発言した次のような素晴らしい言葉とともに振舞われた。
「皆さんの稼ぎたい気持ちはわからいでもないが、われわれは島の文化を守りたい。たくさんの物を作りたいとは思っていない。良いものを作りたいと思っている。この世は物のためにあるのではなく人のためにあるのだ。われわれは人の文化を守りたいと思う。良いものを作ればよい社会になるのだ」
成長主義・過剰生産・大量消費社会にうずもれて生きる私たちに、強烈な一石を投じたこの言葉を、私は忘れたことはない。同時に頂いた「カンノナウ」の、濃い中身を持ちながらも清々(すがすが)しい飲み口の美味しさとともに…。
私は、このワインを飲ませる神楽坂3丁目の『ソッリソーSORRISO』を迷わず選んだ。まずはスパークリングワイン(ピアモンテ州産)で乾杯の後、「白身魚ソテーなどの前菜」や「気まぐれサラダ」などでカンノナウの赤を飲む。ピザも、「たっぷり野菜ピザ」と「モッツァレラチーズと半熟卵のピザ」の2種類を取って、文字通りたっぷり食べた。デザートも、イタリアらしい甘味からエスプレッソに至るまで、イタリアンらしく〆た。
左スパークリング、右カンノナウ
神楽坂を選んだのには、もう一つ理由があった。その日は七夕! 夜の神楽坂を散策しようというわけだ。気持ち良い酔いにつられて、路地裏を歩いた。世にいう高級料亭が立ち並ぶ神楽坂の路地裏は、歩くだけでも豊かな気持ちになる。いつの日か、このいずれかで宴を張ろうと思いながら……。いやあ、結構な七夕の夜でした。
「コースで1万2千円なの? 入ってみようかしら」(門口のメニューを眺めて)